
重い食欲不振のために ― 家でできることが、まだあります
食べない。
たったそれだけのことが、どれほど親を追い詰めるか。私たちは20年以上、そのご相談を受け続けてきました。
そして、そのたびに申し上げてきたことがあります。
食べない状態が続くとき、「待っていれば戻る」と考えるのは危険です。食べない時間そのものが、もとの病気に上乗せして、新しい問題を作っていくからです。
けれど、慌てて食べさせようとすると、たいてい失敗します。このコラムは、その順番の話です。
1. 「食べない」には、3つのかたちがあります
同じ「食べない」でも、中身はまるで違います。まず、どれなのかを見分けてください。

1 ― 食欲がない
食べ物に見向きもしない。香りを嗅ぎにも来ない。体の中で何かが起きていて、脳が「食べるな」と指示を出している状態です。
2 ― 食べたいのに、食べられない
食器のところまでは来る。香りも嗅ぐ。口をつける。でも食べない。
これは食欲の問題ではありません。口・のど・食道に痛みや障害があることが多いのです。歯周病、口内炎、歯の破折、腫瘤、異物、顎の痛み、食道の炎症。顎や首がうまく動かない、体のどこかが痛い、呼吸が苦しい――こうした理由でも起こります。
内臓ばかり調べても、答えは出ません。
私たちのところにも、こういうご相談がよく届きます。「お口をつけたけれど、途中で食べる気が失せてしまう」「食べたそうにしているのに、食べようとしない」
これは腎臓の悪い子や口の病気の子に限りません。体力が落ちている子、消化の力が落ちている子、胃腸に炎症のある子にも、よく見られる光景です。
3 ― 食べているのに、痩せる
これは食欲不振ではなく、別の問題です。
食べているのに体重が落ちるなら、疑うものは絞られます。甲状腺機能亢進症(高齢のネコさんによく見られます)、糖尿病、慢性の腸の病気やリンパ腫、膵臓が消化酵素を出せなくなる病気、慢性腎臓病。
甲状腺機能亢進症の子は、体重が減るのに食欲は増え、水をよく飲みます。(まれに食欲が落ちる方向へ向かう子もいます)飼い主さんは「元気だし、よく食べるんです」とおっしゃいます。けれど実際には、活動性が病的に上がっているのですね。
この3つを取り違えると、手当ての方向がまるごとずれます。
2の子に食欲を出す工夫をしても、口が痛いままなら食べられません。
3の子には、食事量を1.5倍に増やすという考え方があり、これには意味があります。体が余分に燃やしてしまっている分を、外から足すわけですから。ただし、増やすだけでは追いつかないことがあります。燃やし続けている大元――たとえば甲状腺そのもの――に手を打たなければ、痩せは止まりません。「量を増やす」と「大元に手を打つ」は、両方要るのですね。
2. 【安全メモ】急いでいただきたい場面
このコラムは、ご家庭で食べられる体を取り戻すための話です。私たちは20年以上、そのお手伝いをしてきました。
ただ、急がなければならない場面もあります。ここだけは先にお伝えします。
ただちに対策が必要な場面です
ご自身で判断できない場合は、かかりつけの先生、または夜間救急へ。
- 意識がはっきりしない、呼びかけへの反応がおかしい
- 息が苦しそう、呼吸の音や回数が明らかに違う
- けいれんしている
- 立てない、頭が上がらない、体が冷たい
- 中毒が疑われる(何かを口にした心当たりがある)
- お腹が張って苦しがる、何度も吐く、吐こうとして何も出ない
通院できない場合は、ご連絡ください。
こう申し上げるのには、理由があります。重い食欲不振を抱える子たちの多くは、すでに獣医さんから見放されて、私たちのところへ来られます。それでも、私たちはこれまで、多くの子をどうにかしてきました。たとえ小さくても、望みはあります。 このコラムは、そのために書いています。
今日から手を打っていただきたい場面
24時間ほとんど食べていない。口を気にする、よだれが止まらない。食器に来るのに食べない。急に痩せて、骨の際立ちが増している。
この段階なら、まだご家庭でできることがたくさんあります。このあとの章に、順番どおりに書きました。そして、判断がつかないときは、私たちにご連絡ください。
★次の子は、24時間を待たないでください。子猫・子犬/糖尿病の治療中の子/フェレットちゃん。体の小さい子や、血糖を薬で動かしている子は、進みが違います。

時間の物差し
ネコさんでは、わずか2〜7日の絶食が、肝リピドーシスという状態の引き金になりうるとされています。肝臓に脂肪が溜まって、肝臓が働けなくなる状態です。とくに太り気味の子でリスクが高いとされます。
そして、ここがいちばん申し上げたいところです。
入口は数日。けれど、出口は数週間。
肝リピドーシスからの回復には、4〜8週間を要したという報告があります。自分から食べるようになるまでに、12〜16日かかったという研究もあります。
数日の油断が、数週間の闘病になる。 この非対称を、どうか覚えておいてください。
国際猫医学会(ISFM)は、「食べるのをやめてから3日を超えて、栄養の手当てを遅らせてはいけない」としています。「3日」は「手当てを始める期限」です。今すぐ、食べてもらう準備を始めてください。
ワンちゃんには、どう当てはめるか
ワンちゃんについて、同じように日数を示した学会の合意は見つかりませんでした。ネコさんの肝リピドーシスのような、日数で区切れる決定的な出来事がないためだと思われます。
では、どうすればよいか。
日数ではなく、次の3つで見てください。
- 食べられた量が、いつもの半分を下回っているか
- 体を触って、骨の際立ちが増していないか
- 元気・便・水を飲む量に、変化が出ていないか
このうち2つが当てはまったら、ネコさんの「3日」と同じ扱いにしてください。日数を待たずに、このコラムの手当てを始めてください。
記録を取ってください
食べにくいと気づいたその日から、毎日、記録を取ってください。
- 何を、どんなふうに用意して、どれだけ食べられたか
- 食べなかったのか、食べたそうにしていたのか
- 吐いたか。便は出ているか
- その日の天気、気圧、室温
銘柄だけでは、私たちにも判断できません。「どう用意して、どれだけ食べられたか」が、いちばん大事な情報です。
この記録そのものが、次の工夫の糸口になります。シッポちゃんの反応から教わりながら、少しずつ変えていく。それが、いちばんの近道です。
3. 食べない時間、体の中で起きていること
少し専門的になりますが、この章がこのコラムの芯です。難しい言葉は、細かく覚えていただかなくて大丈夫です。
「代謝が落ちる」と「代謝が上がる」が、同時に起こります
1つは、使う量を減らすこと。 体が省エネモードに入り、エネルギーの消費を抑えます。動かず、眠る時間が増え、食べる量が減ることは「辛さ」が原因でもある一方で、エネルギーの無駄遣いをなくしている行為でもあります。
それでも、体が元に戻らないときには「体を維持する力」と、元の「健康な状態に戻すだけのパワー」が必要になります。
そこで、もう1つの手段として、蓄えを切り崩し、その働きを上げること。グリコーゲンを分解し、脂肪を燃やし、タンパク質から糖を作る(糖新生)。トラブルが大きいほど、食べられないほど、むしろこちらが活発になります。
トラブルを抱え、食べられないときは、このことが同時に起きています。
そして病気の子では、炎症や強いストレスのために「使う量を減らす」という省エネの適応が、十分に働かないことがあります。切り崩す働きは強く続くため、食べられないまま痩せてしまうのです。
★ネコさんは、糖新生への依存が強い動物です
ここに、ネコさんとワンちゃんの違いがあります。
ネコさんは、食べていないときも、タンパク質(アミノ酸)から糖を作り続けます。肝臓で糖を作る酵素の働きが、ワンちゃんより活発だからです。
ワンちゃんも糖新生をしますが、ネコさんほど強く依存しません。
→ だからネコさんは、食べないと自分のタンパク質=筋肉を削りやすいのです。 ワンちゃんも痩せますが、ネコさんのほうが早く進みます。ここが違います。
そして、切り崩すのにも「材料」が要ります
ここが、いちばん見落とされているところです。
蓄えがあれば燃やせる、というものではありません。自分の脂肪やタンパク質をエネルギーに変える作業そのものに、材料が要るのです。

ビタミンB群は、それぞれ持ち場が違います。B1は糖からエネルギーを取り出す入り口、B2・B3・B5は脂肪を燃やす回路の各段階、B6はタンパク質を切り崩して使うとき、ビオチンは糖新生の入り口、B12は脂肪の一部をエネルギーの回路に運び込むときに働きます。
カルシウムも要ります。 筋肉を動かし、酵素のスイッチを入れ、神経の信号を伝えます。
ビタミンCは、L-カルニチンを体内で作るのに要ります。ネコさんもワンちゃんもビタミンCを自分で作る事ができますが、作るのにも材料と代謝の力が要ります。炎症やストレスがあるときほど、消費は増えます。
※ここに挙げたのは「エネルギーを取り出して使う作業」に直接かかわるものだけです。体に要る栄養は、これで全部ではありません。
これらの多くは、体に長く貯めておけません。
ビタミンB12は肝臓に蓄えられる、と言われます。けれど健康と言われている子でも、B12が足りていない子はたくさんいらっしゃいます。まして、肝臓そのものが弱っている子なら、その蓄えは当てになりません。「肝臓にあるから大丈夫」とは、考えないでください。
つまり――
食べられない状態が長引くと、切り崩して使う働きそのものが、うまく回らなくなっていきます。蓄えが残っていても、それを使う道具のほうが足りなくなるのです。
私たちが「食べられないときほど、ビタミンとミネラルを」と申し上げ続けてきたのは、このためです。カロリーの前に、動かすための部品が必要なのですね。
食事の前に、ビタミン・ミネラルを少しおなかに届けるだけで、5分後、10分後には食べる気力が湧いてくる子がいます。 私たちが何度も見てきた光景です。
本当の「痩せた」は、体重では分かりません
体を撫でて指先が感じているのは、皮下脂肪と、その下の組織で、筋肉量ではありません。けれども、体が生きるために切り崩す材料は、筋肉と皮下脂肪です。
触ってください。
- 肋骨まわり
- 肩甲骨のまわり
- 骨盤まわり
- 後ろ足の、太ももの厚み(ここがいちばん筋肉を反映します)
先週と比べて、骨が近くなっていたら、皮下脂肪とともに筋肉も確実に減っています。
食べられないときほど、体重は毎日お家で量ってください。
★そして、いちばん厄介なのが「むくみ」です
重いトラブルを抱えて解毒の力が落ちていると、リンパの流れが悪くなります。そうすると、全身がむくんでいる子がいらっしゃいます。
この子たちは、体重にも、見た目にも、変化が出ません。中身が痩せていても、水がその分を埋めてしまうからです。
だから「体重が減っていないから大丈夫」は、通用しないのですね。
逆のことも起こります。健康と言われている子が、NinnaNanna流の食育ケアできれいに痩せていく。これは脂肪が落ちたのではなく、むくみが解消したことによる場合が、とても多いのです。
体重の増減だけを追いかけないでください。手ざわり、足の運び、目の力、便の状態。そちらのほうが正直です。
4. なによりもまず、水から
食べられる環境作りには、なによりも皮下輸液が最初に必須です。
このコラムをお読みの方の中には、すでにご自宅で皮下輸液をなさっている方も多いと思います。まだの方のために、次の章で、目的とやり方を詳しく書きました。
「口から飲ませればいいのでは」――ここが、いちばん誤解されています
ほとんどの飼い主さんが、点滴の水と、口から飲ませる水は同じものだと思っていらっしゃいます。違うのは量だけだ、と。
違います。
口から大量のお水を飲ませると、胃液や膵液が薄まります。消化する力が落ちて、余計に食べられなくなるのです。胃が水で膨れること自体も、「もう食べられない」という信号になります。
皮下輸液は、消化管を通りません。 だから、消化液を薄めることがありません。
同じ量の水を口から飲ませようとすれば、弱った体に壮絶な負担がかかります。しかも、胃腸を通る分だけ、効きは落ちます。
検査で「脱水していません」と言われても、あきらめないでください
ここで、多くの飼い主さんが立ち止まってしまいます。「脱水はしていないと言われました」と。
その言葉を、そのまま受け取らないでください。
診察室で脱水を判定する方法は、それほど精密ではないからです。
皮膚をつまんで、戻り方を見る。けれど痩せている子や高齢の子は、もともと皮膚の弾力が落ちています。そもそも、戻りが悪く、脱水があってもはっきり出ません。血液検査の数値も、ある程度進んでからでないと動きません。アルブミンが低い子では、脱水があっても数字に出にくいのです。
つまり、「見つかっていないだけ」ということが起こります。
そして、食べていない子は、必ず水分が足りていません。ドライフードならたった1割、ウェットや手作りごはんなら7割以上が水分です。食べないということは、その分のお水も足りていないということなのです。
だから私たちは、見つけにくいものを、先に手当てします。「検査に出るまで待つ」ではなく、「足りていないはずだから、足す」なのですね。
脱水を放っておくと、何が起きるのか
ここはしっかり覚えてください。
体の中で使われた不要なものは、水に溶けて、腎臓から捨てられます。水が足りなければ、捨てるための道具がないということです。
すると、こうなります。
- 不要なものが体に残る
- それが脳の吐き気の中枢を刺激する → 気持ちが悪くなる
- 気持ちが悪いから、水も食事も遠ざかる
- もっと水が足りなくなる → 1に戻る
この輪は、どこかで断たなければ止まりません。
そして、断てるところは、腎臓1か所しかありません。食欲は自分では戻せません。吐き気も自分では止められません。けれど、水だけは、外から入れることができます。
だから、水が先・・・・皮下輸液が一番先なのです。
皮下輸液はどのくらい続けるのか
重い食欲不振の場合、1回で足りることはありません。
3日、1週間、1か月と続ける必要がある子もいます。腎臓・肝臓・甲状腺・糖尿病などを抱えている子では、その程度によって、生涯続ける必要があります。
それでも、ここから始めます。ここが整ってはじめて、ごはんの段階に進めるのですね。
5. 皮下輸液について
「点滴」と聞くと、病院で何時間もかけて行うものを思い浮かべる方が多いと思います。皮下輸液は、それとは違います。背中の皮膚の下に液を溜めると、数時間かけてゆっくり体に吸収されていきます。5分から10分ほどで終わり、ご自宅でできます。
何のために行うのか
- 足りていない水分を、確実に体へ入れる(口からでは足りません)
- 不要なものを、腎臓から捨てられるようにする
- 消化液を薄めずに、水分だけを届ける
- 食べられる下地を作る
入れる量は、その子の体重・心臓・腎臓の状態によって変わります。器材と製剤は、かかりつけの動物病院で処方していただきます。
製剤の違いを知っておいてください
ここは、飼い主さんが知っておくべきところです。同じ「点滴」でも、中身が違えば、体への向き不向きが変わります。
| 製剤 | 中身の特徴 | 向いている場面 | ★注意していただきたいこと |
|---|---|---|---|
| 生理食塩水(0.9%食塩水) | ナトリウムと塩素だけ。カリウムもカルシウムも入っていません | 電解質を足したくない場面 | 塩素が多く、続けると体が酸性に傾きやすい |
| 乳酸リンゲル液(ラクテック等) | Na 130/K 4/Ca 3/Cl 109/乳酸 28(mEq/L)。乳酸が体内で重炭酸に変わり、酸性に傾いた体を戻します | 一般的な脱水の補正。もっともよく使われます | ★肝臓が悪い子には避けてください。 ★肝臓が悪くなくても、乳酸を処理できない子が一部にいらっしゃいます。 ★乳酸リンゲルで調子が悪くなったことがある子は、酢酸リンゲルに切り替えてください。 ★糖尿病の子は、このあとで詳しく |
| 酢酸リンゲル液(ヴィーンF等) | 乳酸のかわりに酢酸。K 4 | 肝臓が悪い子 乳酸リンゲルで調子を崩したことがある子 糖尿病の子 | (静脈点滴の場合は、急速・大量の投与を慎重に) |
なぜ、肝臓が悪い子に乳酸リンゲルを避けるのか
乳酸の代謝には、肝臓が大きく関わるからです(腎臓や筋肉でも使われます)。肝臓が弱っていれば、処理が追いつかず、体に残りやすくなります。酢酸は、筋肉などでも速やかに代謝されます。だから、肝臓に不安のある子には酢酸リンゲルなのですね。
また、肝臓の数値に問題がなくても、乳酸リンゲルが合わない子たちが、まれにいらっしゃいます。皮下輸液で気になることがあれば、1度、酢酸リンゲルに変更してください。
なぜ、糖尿病の子に酢酸リンゲルなのか
ここが大事なところです。
乳酸は、体の中で「糖の材料」になります。乳酸 → ピルビン酸 → ブドウ糖。この道すじがあるのです(糖新生)。つまり乳酸リンゲルを入れると、血糖を上げる方向に働きうるということです。
酢酸は、この道を通れません。酢酸はアセチルCoAという形になってエネルギーの回路に入りますが、そこから糖に戻ることはできません。
→ だから当店は、血糖を動かしたくない子に、酢酸リンゲルをお勧めしています。※乳酸リンゲルが糖尿病に使えない、という意味ではありません。
製剤は、血糖や酸とアルカリの釣り合いを見て選ぶことが基本ですが、手元にある製剤を優先される獣医さんもいらっしゃいます。気になるときは、「糖尿病なので、乳酸の入っていないものをお願いできますか」とお願いしてみましょう。
ご自宅で行うことの意味
私たちは、ご自宅での皮下輸液をお勧めしています。
- 通院のストレスがない。 弱った子にとって、移動と診察室は大きな負担
- 必要なときに、すぐできる。 予約も待ち時間も要らない
- 回数を分けられる。 1度にたくさんではなく、少しずつ何度も、が可能になる
- 費用が抑えられる。 続ける必要がある子ほど、ここは大きな差になる
- 慣れた場所で、家族の手で。 これが、いちばん効く

ご自宅で行うときの、5つのコツ
上の図のとおりです。3つだけ、補わせてください。
温度は、輸液パックではなく、針先から出るところで確かめてください。冷たいとしみて痛がり、体温も下がります。嫌がって、次から逃げるようになります。処方の際に「B1とCを入れていただけますか」とお伝えください。
消毒しないのは、皮下輸液で感染が起こることが、まずないからです。アルコールはしみますし、ネコさんは吸い込んだアルコールを分解できず、アレルゲンにもなります。常在菌のバランスが崩れ、やがて皮膚がボロボロになります。
バネばかりは、輸液パックを吊るして、始める前と終わったあとの重さの差を見ます。1g=約1mLです。目盛りを読むより確実で、本当に体に入ったかが分かります。
6. 吐き気で食べない
吐いていなくても、吐き気はあります。「吐いていないから、吐き気はないでしょう」――これは、いちばんよくある誤解です。
ご家庭で分かる、吐き気のサイン
- よだれが出る
- 唇をなめる
- 食べ物から顔を背ける
- 食べ物を見たり、香りを嗅いだりして、えずく
- 落ち着かない、うろうろする
- 何度も飲み込むしぐさをする
- うずくまった姿勢でじっとしている
このどれかがあれば、吐き気があるかもしれません。(痛みや不安、口の病気でも似た様子になります)
では、どうするか
吐き気が取れなければ、何を出しても食べません。 ここは順番の問題です。
- まず、水を整えてください(第4章・第5章)
食べられない子の吐き気は、その多くが「水が足りていないこと」から来ています。皮下輸液で水を入れると、吐き気そのものが軽くなる子がいます。
2. 香りの強いものを遠ざけてください。 香りでえずく子に、香りを立てたごはんは逆効果です。
3. 空腹の時間を作らないでください。 胃が空っぽの時間が長いと、吐き気は強くなります。
4. 体を冷やさないでください。 お腹が冷えると吐き気は強くなります。温めたごはん、暖かい寝床。それだけで変わる子がいます。
5. 揺らさないでください。 抱き上げる、車に乗せる、無理に姿勢を変える。吐き気のある子には、この刺激がこたえます。
そして、吐き気が続くようなら、ご連絡ください。何が引き金になっているのか、一緒に探します。
胃酸を止める前に
吐き気があると、胃酸を抑える薬が出ることがあります。けれど、その前に知っておいていただきたいことがあります。
たとえば、腎臓の悪いネコさんの吐き気は、長いあいだ「胃酸が出すぎているせい」と考えられてきました。
ところが、それを確かめた研究の結果は違いました。亡くなったネコさんの胃を調べたところ、潰瘍も炎症も見つからなかったのです。見つかったのは、胃の線維化と石灰化でした。
この子たちの多くは、長いあいだ胃酸を抑える薬を飲んでいました。それでも吐き気は止まらず、胃には別の変化が起きていたということです。
さらに、胃酸を抑える薬を毎日使った試験でも、食欲の改善はごくわずかで、臨床的に意味があるとは言えないという結果が出ています。
では、何が吐き気を起こしているのか。
水が足りず、不要なものが体に残り、それが脳の吐き気の中枢を刺激している。これが、いま考えられている筋道です。そして私たちは、見つかった胃の線維化と石灰化も、原因の1つだと考えています。
どちらにしても、胃酸を抑える薬は、そこには届きません。
確かめないまま抑える。 これでは、原因は残ったままなのですね。
7. 痛くて食べない
痛みは、それだけで食欲を止めます。
とくに見落とされやすいのが、お口の中です。
- 歯周病
- 歯肉口内炎(ネコさんの慢性の口内炎は痛みが強く、食べることそのものを苦痛にします)
- 歯の破折
- お口の中の腫瘤、異物
こんな食べ方をしていたら、お口を見てあげてください
- 硬いものだけ残す。柔らかいものばかりを好むようになった
- 片側だけで噛む
- 食べようとして、途中でやめる
- 歯をすり合わせるような音を立てる
- 食べ物をお口に含んだとき、声を出して吐き出す
- 食べ物をお口に含んだとき、取り出そうとして、手で口を触る
- 食器を見るだけで怖がる
最後の1つは、とくに切ないサインです。「食べると痛い」を、その子はもう学習してしまっているのですね。
口の痛みは、放っておくと食べない時間を長くし、必ず全身の不調につながります。「歯のことだから」と後回しにできる話ではないのです。
痛みはお口だけではありません。お腹の痛み、関節の痛み、どこかの炎症。痛みが取れただけで食べ始める子は、たくさんいます。
そして、ネコさんもワンちゃんも、痛みを顔に出しません。ワンちゃんは、痛くても尻尾を振ります。ネコさんは、痛くても静かにうずくまるだけです。表情や態度に出ないだけで、痛くないわけではないのですね。
食べ方が変わったら、それはサインです。
8. お腹が詰まっていて食べない
意外に思われるかもしれませんが、便やガスが溜まっていると、食べられません。
お腹が張って不快であること。腸の動きそのものが落ちていること。逆に、便やおならが出ると、お腹が楽になり、腸も動きはじめます。
「食べムラ」の正体が、これであることは少なくありません。食べる日と食べない日があるとき、便の出方と重ねて見てください。
重い食欲不振の子では、これは「原因」ではなく「上乗せ」です
すでに、食べられないだけの理由を抱えている子たちです。便秘は、そこに乗ってくるもう1つの重石だと考えてください。
だからこそ、取り除ける重石は、取り除いておく価値があります。
どうすれば出せるか
- 水を入れてください(第4章・第5章)
便が硬くなる最大の原因は、水分不足です。皮下輸液で水が満ちると、便が出はじめる子がいます。
2. ごはんの水分を増やしてください。 ふやかす、とろみをつける。腸まで届きます。
3. 発酵の力を借りてください。 甘酒、液体酵素。少量から、様子を見ながら。
4. 温めてください。 お腹が冷えると、腸は止まります。温灸、湯たんぽやホットタオルで、背中からお腹にかけて、じんわりと(熱すぎないように)。
5. 撫でてください。 背中を、首から尻尾に向かってゆっくり何度も。おなかは時計回りにそっと。嫌がるときはやめてください。 お腹が痛いのかもしれません。
6. 動かしてください。 寝たままの姿勢で、貴方が後ろ足を動かすだけでも腸は動きます。
便秘と下痢をくり返しているとき
これは、腸が過敏になっているサインです。自律神経の乱れと結びついていて、栄養の吸収も、不要なものの処理も落ちています。
「お腹の調子」ではなく、全身の話として見てください。重い食欲不振の子では、これが土台にあることが珍しくありません。
★3日以上、便が出ていないときは、ご連絡ください。お腹が張って苦しがる、吐く、ぐったりする――このときは、すぐに動物病院へ。(腸が詰まっている場合があります)
9. 不安で食べない、季節と天気で食べない
環境も食欲を左右します
ネコさんは、場所に強く結びついて暮らす動物です。知らない場所、知らない音、知らない香り、隠れる場所がないこと。これだけで食べなくなります。
ワンちゃんは、少し違います。ワンちゃんが結びついているのは、「場所」よりも「人や群れ」「生活のリズム」「安心できる関係」です。
飼い主さんと離れること。知らない人やワンちゃんに囲まれること。普段と違う音や香り。散歩・食事・睡眠の時間が変わること。こうした状況が重なると、不安や緊張から食べなくなることがあります。引っ越し、旅行、入院、ペットホテルが、その典型です。
ワンちゃんによって差は大きく、好奇心旺盛ですぐ慣れる子もいれば、数日間ほとんど食べられない子もいます。
フェレットちゃんも、環境の変化に敏感です。そのうえ体が小さく、進みが速いので、猶予がありません。
季節と天気は、「誘因」です
気圧が下がると、吐いたり食べなくなったりする。春の黄砂、季節の変わり目、夏の暑い盛り。こうしたご相談が、毎年届きます。
「気象病」「天気痛」は、正式な病名ではありません。けれど医療の現場では否定されておらず、もともとある不調を悪くする「誘因(トリガー)」として、自律神経の乱れで説明されています。シッポちゃんに同じことが起きても、不思議ではありません。むしろ、対応する力が低いほど、強く揺さぶられます。
大気汚染は、少し性質が違います。黄砂や光化学オキシダントは、吸い込んで、気道と体に炎症を起こします。そして、ネコさんは「グルクロン酸抱合」という道すじの一部が弱く、ワンちゃんは「アセチル化」という別の道すじが苦手です。人と同じようには処理できないものがあるのですね。体が小さいぶん、同じ空気を吸っても、負担は大きくなります。
★ただし、「環境のせい」で終わらせないでください
すでに重い食欲不振に陥っている子たちは、それだけの理由をすでに抱えています。環境や天気は、その上に乗ってくる「より食べられなくする要因」です。「原因」ではなく「上乗せ」だと考えてください。「気圧が低いから」で片づけてしまうと、取り除けたはずの理由を見逃します。取り除ける上乗せは、取り除く。 それだけのことです。
10. 薬で、食べなくなっていませんか
多くの薬が、食欲不振を起こします。
これはネコさんに限った話ではありません。 ワンちゃんも、フェレットちゃんも同じです。国際猫医学会も、食欲不振の原因として「薬の見直し」をはっきり挙げています。
食欲不振が副作用として知られている薬(一部です)
- 抗菌薬 ― 吐き気が出る
- 痛み止め(NSAIDs) ― リマダイル(カルプロフェン)、デラマックス(デラコキシブ)、メロキシカム、アスピリンなど。 胃腸の粘膜を守っている物質を抑えるため、潰瘍や出血、食欲不振を招くことがある
- ステロイド ― 食欲が出ることを期待して使われるが、同時に免疫を抑える。量が多いとき、長く続けるとき、痛み止めと一緒に使うときは、消化管の潰瘍も起こる
- 抗癌剤
- 心臓の薬 ― ピモベンダン、ベナゼプリル、スピロノラクトン。組み合わせている子ほど出やすくなる
- 胃薬 ― ファモチジン、オメプラゾール。吐き気を止めるはずの薬で、食欲が落ちることがある
- 抗てんかん薬 ― ゾニサミド、フェノバルビタール
- 甲状腺の薬 ― メルカゾール(チアマゾール)は、食欲不振・嘔吐がよく知られている
- 利尿薬 ― 脱水を招き、それが食欲を落とす
- 鎮痛のオピオイド系 ― 腸の動きを止める
- 抗真菌薬 ― イトラコナゾールなど
- ドキシサイクリンなど一部の抗菌薬 ― ネコさんでは食道に留まって炎症を起こすことがある
これで全部ではありません。「この子が飲んでいる薬に、食欲不振の副作用はありますか」 ――それを調べるところから始めてください。
「薬を足したら、食べなくなった」
この順番に心当たりがあるなら、それはとても大事な情報です。
ただし、ご自分の判断で薬をやめないでください。やめてよい薬かどうかは、その薬が何のために出ているかで変わります。急にやめると危険な薬もあります。
★そして、ここは正直に申し上げます
「獣医さんに相談してください」と申し上げるのは簡単です。けれど、相談した結果、薬がもう1つ増えて帰ってくることがあります。
吐き気止めが出る。胃薬が出る。食欲増進剤が出る。元の薬はそのままで、上に乗るのです。
私たちが心配しているのは、そこです。薬を減らす相談は、薬を出す側にはしにくい相談だからです。
だから、まず、飲んでいる薬を全部書き出してください。いつから飲んでいるか。何のために出ているか。そして「食べなくなった日」と重ねてください。
そのメモを持って、相談してください。私たちのところでも構いません。「この薬とこの薬が重なった翌週から食べていない」――ここまで分かっていれば、話は早いのです。
11. 食欲不振に関わる、栄養の不足
食べないと、栄養が減ります。そして、減った栄養が、さらに食べられなくすることがあります。
ただし、成り立ちは栄養素ごとに違います。 ひとまとめにはできません。
カリウム
足りなくなると、力が入らなくなります。とくに分かりやすいのが、頭が上がらない(首を腹側に曲げたままになる)という姿です。ほかに、多飲多尿、便秘、そして食欲不振。
慢性腎臓病は、重要な原因の1つです。慢性腎臓病のネコさんの20〜30%に、低カリウム血症があるとされています。腎臓からカリウムが失われ、さらに体が酸性に傾くことで、細胞の中からもカリウムが出ていきます。
食べない → カリウムが減る → 腸が動かなくなる → もっと食べない。この輪が回りはじめます。
葉物野菜が食べられれば供給源になりますが、難しい場合はタヒボで安全に摂取してください。
ビタミンB12
元気がない、力が入らない、食欲不振、嘔吐、下痢、体重減少、筋肉の減少、貧血。腸の慢性の病気や、膵臓が消化酵素を出せない病気があると、二次的に足りなくなります。
そして、ここが大事なところです。B12が足りていないと、もとの病気の治療をしても反応しにくいことがあります。足りない状態が確かめられたなら、補うことで、治療への反応がよくなることが期待されます。
ビタミンB1
不足の初期は、食欲不振・体重減少・活動性の低下という、はっきりしない形で出ます。進むと、よだれ、瞳孔の広がり、ふらつき、頭が下がる、けいれん。
神経の症状が出る段階まで進むと、治療しても影響が残ることがあります。早く手当てすることが、決定的に大事です。
B1は熱に弱く、加熱や保存で失われます。また、生の魚の一部にはB1を壊す酵素(チアミナーゼ)が含まれます。偏った食事が続いたときにも、足りなくなります。
亜鉛
亜鉛が不足すると、体重減少、成長不良、嘔吐、皮膚・被毛の異常などが起こり得ます。また、味覚と嗅覚が正しく働くために必要です。
食べられない状態が長く続けば、亜鉛も不足しています。
AAFCO栄養基準に準拠した総合栄養食でも、手作りごはんでも、ビタミン・ミネラルの補充は必要。これは、このシリーズを通しての私たちの立場です。とくに、食べる量そのものが減っている子では、届く量も減っているのですから。
12. 「歳だから食が細い」の、正体
高齢になって食が細くなった。歳のせい、で片づけないでください。
別の理由でも食が細くなります。
- 嗅覚が落ちる。 香りが分からなければ、食べ物として認識できない
- 歯を失う。 噛めないものは食べない
- 関節が痛む。 立って食べる姿勢そのものが辛くなる
- 筋肉が落ちる。 食べる力も、飲み込む力も筋肉
- 認知機能が落ちる。 食器の場所が分からなくなる子もいる
大型のワンちゃんでは、7歳を過ぎたころから始まります。
そして、腎臓の病気が実際にある子こそ、良質なタンパク質が必要です。
腎臓が悪いと聞くと「タンパク質を減らす」と考えられがちですが、減らしすぎれば、体は自分の筋肉を削って足りない分を補います。これは、腎臓にとって何の得にもなりません。大事なのは必要量を確保したうえで、質と消化のよさを上げることです。
こんな研究があります。14歳を超えたネコさんの5人に1人は、タンパク質の消化率が20%以上落ちています。約3人に1人は、脂肪の消化能力が最大30%まで落ちています。
つまり――同じものを食べても、以前ほど取り込めていないのです。
消化の落ちた分を補うには、1日の摂取量を最大25%増やす必要があることさえあります。けれど実際には、そんなに食べられません。消化力が衰え、食が細くなっているのですから。食べられる量が減り、取り込める割合も減る。 ここで痩せていきます。
同じ研究はワンちゃんやフェレットちゃんでは行われていませんが、ご相談をいただく中で、この傾向はあきらかです。
食べないのではなく、必要な栄養が整っていなければ食べにくいのです。そこを手当てすれば、食べる子はたくさんいます。(第13章)歳を重ねた体を守り、維持するためには、むしろタンパク質が要ります。
13. 食べてもらうための、家でできる工夫
香り付けが大切です
香りは、食べ物のスイッチです。香りが立たないものは、食べ物として認識されません。
ネコさんは香りで食べ物を見つけ、ワンちゃんは人をはるかに超える嗅覚を持ち、フェレットちゃんは目より鼻で世界を見ています。この3種とも、香りが落ちれば食べる気は落ちます。 そして高齢になると、まずここが鈍ります。
温めるときの、本当の話
「35℃くらいが香りが立つ」と言われます。
香りとは別に、ワンちゃんなら35〜37℃、フェレットちゃんなら40℃くらいが、おいしく食べられる温度です。けれどもネコさんの場合は、25℃以下の適温まで下がるのを待ってください。
★指を入れて確かめてください。 温度計より、そのほうが確かです。電子レンジは、栄養が破壊されるため、絶対に使用しないでください。 湯煎で温めてください。
トッピングで、香りを立ててください
温めるだけでは足りない子には、トッピングです。
- 香りの強いものを、上から振りかける(混ぜ込むより、上に置くほうが香ります)
- ボーンブロスを温めて、上からかける
- 甘酒を少量。麹の香りに反応する子がいる
- 液体酵素を、ごはんに落とす(ネコさんは香り付けになりません。必ず混ぜ込んでください)
質感を変えてください
消化力が落ちているときは、適量の水分を含んだ食べ物を好みます。理由は、消化にかかる負担が軽くなり、喉ごしが良くなるからです。
そして、犬猫は咀嚼しない動物です。噛み砕いて食べているのではなく、飲み込んでいるのですね。だから、口当たりが柔らかく、喉ごしが良いことが、そのまま「食べやすさ」になります。
なめらかなペースト状が、いちばん食べやすい形です。
ふやかして、すりつぶす。刻む。ペーストにする。食べにくくなっている子は、消化そのものが落ちています。
人の赤ちゃんの離乳食を作るように考え、工夫して差し上げてください。月齢に合わせて形を変えていく、あの考え方です。
とろみをつけてください
重い食欲不振がある子や、高齢さんでは、食べることよりも前の「飲み込む力」が落ちている場合があります。
ごはんに水分を加えることが消化の良さに繋がることは、お伝えしたとおりなのですが、水分を増やすとどうしても、ごはんと水分が分離しやすくなります。
この水分と食材の分離が刺激になることが、苦手な子たちがいらっしゃいます。また、「飲み込む力」が落ちている子たちの場合、この分離が誤嚥性肺炎に繋がる場合もあります。
この分離を1つに纏めるのが、とろみの役割です。
体調が悪い子たちの場合、増粘多糖類と呼ばれるような一般的な成分よりも、天然食材のままのとろみのほうが受け入れやすい場合があります。
特にお口にトラブルを抱えている子たちは、とろみの程度にも敏感です。調整して差し上げてください。
濃さと量を、いつも見直してください
重い食欲不振の子に、体へ負担のかかる高タンパク・高脂肪は、どこまで行ってもNGです。
いつものタンパク質量よりも少し多めに、脂質量はいつもよりも少なめに。これを基本にしてください。
そのうえで、水分で薄めて、少しずつ。
そして、その日その日で変わります。日中よりも、夜間のほうが多く食べられます。はじめの一口で様子が違うと感じたら、その場で作り直してください。
「昨日と同じでよいはず」――この思い込みが、回復を遅らせてしまいます。
回数を増やしてください
比較的食べられるときは、1日3〜6回でかまいません。もっと食べられないときは、食べられる量で、3時間おきでも良いでしょう。
1回に食べられる量が少なくても、回数で補えます。
器を見直してください
食べられないときは、普段使いの食器ではなく、小ぶりのものに少量だけに限ってください。
大きな器に山盛りは、それだけで「無理だ」と思わせます。食べきることで得られる達成感を、大事にしましょう。
続けて食べられそうであれば、そのサイズと量で、何度もお代わりしながら食べてもらいます。途中、ごはんのメニューが変わっても良いでしょう。
そして、一口ごとに褒めて差し上げることも忘れずに。
「食べられた」という記憶が、次の一口をつくります。
14. 食べさせながら、食べられる体に戻していく
重い食欲不振の子に、シリンジでごはんを食べてもらうことがあります。
シリンジでの強制給餌には様々な意見がありますが、それを「したくないための口実になっていないか」は、ご判断ください。
それでも、私は必ずお伝えします。待っていては死なせてしまうこともあります。と。
方法を間違えれば、結果は得られません。
慌てなくても、カロリーの供給源は、体内にあります。そして、食べられない体は、これらをまだ求めていません。
これらを受け入れられるよう、立て直すための「ちから」が先に必要なのです。
私たちが最初に召し上がっていただくのは、ごはんではありません。

必ず守っていただきたい5つ
1. 意識がはっきりしていて、飲み込めること。これができない子に、口から食べさせてはいけません。
2. 皮下輸液で、水分と電解質が整えられていること。(第4章・第5章)
3. 最初の一口は、タヒボNFDとMRN-100から。
4. ごはんには、ビタミン・ミネラルが補われていること。
5. その子の状況に合った量であること。決まった数字はありません。だから、貴方の工夫が必要です。シッポちゃんの状況を知るためにも、試して教わることを怖がらないでください。我が子からの情報が一番確かなことを、忘れずにいてください。
この順番には、理由があります
蓄えを切り崩して使う作業そのものにも、ビタミンとミネラルが要ります。そして、ビタミンとミネラルは、余分が体内にありません。これを補うことにより、自然治癒力も力を取り戻します。
だから、量は後からついてきます。はじめは目標の3分の1しか食べられなくても構いません。それを続けているうちに、必要な量まで届くようになります。
実際に、こうした方法で、獣医さんにさじを投げられた子たちが、自発的に食べられるようになったご相談が多数あります。
※ただし、食べられた量は毎日記録してください。増えているかを見ます。増えていかない状態が続くなら、別の方法を考えるときです。(第16章)
「嫌いになる」ことが、起きにくい理由
シリンジで食べさせると食べ物を嫌いになる、と言われます。けれど私たちのところでは、ほとんど起こりません。
むしろ逆で、シリンジで食べられるようになった子は、自分で食べるほうへ向かっていきます。甘えん坊の子は、シリンジのごはんを喜ぶことさえあります。
なぜでしょうか。
体調が悪くなれば、食べられなくなります。そこで、食べられるものを探していくうちに、ごはんの質は下がり、栄養バランスは一層、悪くなります。トラブルを抱えている場合、体にとってのその落差はさらに大きくなります。
けれども、シッポたちは正直で、体に必要な材料が揃えば、正しく使えるようになり、やがて「シリンジごはんのお陰」であることを、心と体が受け止めるようになるのであろうと、私たちは考えています。
ここに導くことができるかどうかは、その方法が重要であり、また、唯一のお世話係りであるあなたのお気持ち次第だと思っています。
吐いてしまったときは、まず止めてください
吐いた時点で、一旦立ち止まって、見落としがないかチェックしてください。
見直すところを挙げておきます。順不同です。
- 食べさせるスピードが速い
- 一口の量が多い
- 1回の量が多い(ごはん+薄める水分の合計)
- 濃度が濃い(薄める水分が少ない)
- 固形物の刺激(すりつぶしが足りない)
- タンパク質や脂肪が多すぎて、消化しきれていない
- 水分だけが先に腸へ行き、残りが胃に留まっている
- 口腔・食道・胃粘膜が過敏になっている
- 痛みや辛さで、緊張状態が続いている
- 炎症のダメージが強く、支えが足りていない
- 受け入れたくないものが入っている
- 好みの味ではない
- 風味が嫌い(風味に反応してくれるなら、経過としてはむしろ良好です)
- 最後の排便はいつか
最後の1つを、忘れないでください。お腹が詰まっていれば、上から食べさせても行き場がありません。(第8章)
安全のために
順不同です。
- 姿勢:あごを上げすぎないでください
- 1回に差し上げる量は少なく、ゆっくり
- 一口ずつ、飲み込むことを確かめる
- 水分が多い場合は、適度なとろみをつける
- 次のときは、すぐにやめてくださいむせる/咳が出る/呼吸の音や回数が変わる/鼻から出てくる/飲み込まずに口にため込む/ 吐く・えずく/激しく抵抗する/お腹が張る・痛がる
- 飲み込めているか自信が持てないときは、行わないでください
- 腸が詰まっている疑い、巨大食道症、飲み込みの障害があるときは行わない
これらを守っていただければ、飲み込む力がある子は、体が横になっていても、誤嚥させることはまずありません。
ここだけは、正直に申し上げます
この方法で、多くの子が戻ってきました。けれど、すべての子が戻れるわけではありません。
いちばん難しいのは、まだ手の届く場所にいる子なのか、そうでないのかを見きわめることです。そしてそれは、いちばん近くにいるご家族にこそ、見えにくいところです。
「まだ食べられるから」と待ってしまう方がいます。反対に、まだ間に合う子なのに、諦めてしまう方もいます。どちらも、私たちは何度も見てきました。
迷ったら、ご連絡ください。今どのあたりにいるのか、一緒に考えることができます。急がなければならない状態なら、そうお伝えします。
迷っている時間は、戻ってきません。判断がつかないことは、恥ずかしいことではありません。ご遠慮なく私たちにお声がけください。
15. やっと食べ始めた日に、気をつけること
長く食べられなかった子が、やっと食べ始めた。うれしくて、たくさん食べさせたくなります。
そこが危ないのです。
NinnaNanna流でなければ起こる危険
長く食べていない体は、蓄えを切り崩すモードに入っています。このとき、血液検査では正常に見えても、体全体のリン・カリウム・マグネシウムの蓄えは減っていることがあります。
そこへ食べ物が届くと、インスリンが一気に出ます。インスリンは糖を細胞に取り込ませますが、そのときリン・カリウム・マグネシウムも一緒に細胞の中へ引き込みます。
すると、血液中のこれらが急に足りなくなります。
再栄養症候群といいます。
次のような症状が現れます
- 強い脱力、ぐったりする
- 食欲低下、嘔吐
- 筋肉の震え、ふらつき、けいれん
- 呼吸筋の低下による呼吸困難
- 不整脈や心不全
- むくみ、肺水腫
- 赤血球の障害による貧血
- 重症では意識障害や死亡
ネコさんでは、1kgあたり6kcalという少量で起きた報告があります。3kgの子で18kcal。ごはんにすれば、ほんの数口です。
※これは1例の報告で、「ここを超えたら起きる」という境目ではありません。
こうしたリスクは、起きるべくして起きている事故と申し上げて良いでしょう。これを心配する必要がないのも、NinnaNanna流ケア方法の特徴です。
気をつけていただきたい子
長く完全に食べていなかった子。ひどく痩せた子。行方不明だった子。すでに電解質の異常を指摘されている子。
「数日なら安全」という意味ではありません。リスクは、絶食の日数だけでは決まらないからです。痩せ方、もともとの栄養状態、電解質の状態で変わります。
どうするか
再栄養症候群にさせないごはんを、少量から、ゆっくり増やす。 これに尽きます。
獣医さんは「食べられるものであれば、なんでも食べさせて」とおっしゃっているでしょうけれど、この言葉を鵜呑みにしないでください。私たちは、せっかく戻りつつある食欲を、再栄養症候群で台無しにするわけにはいかないのです。
私たちがご紹介している「基本サプリメント」やタヒボNFD・MRN-100は、再栄養症候群を遠ざける組み合わせ。食べられる量に応じて、これらを一緒に食べさせることで、再栄養症候群は避けられます。
重い食欲不振は、どの子も経験します。必ず役に立つときがありますから、獣医さんには教えていただけない技として、ぜひ覚えておいてください。
もちろん、十分に重い食欲不振の子たちは、必ず脱水状態にありますから、毎日の皮下輸液は、こうしたごはんとともに必須です。
16. 薬という選択肢と、食べさせるための奥の手
エルーラという薬について
2024年に、猫用の「エルーラ」という薬が国内で承認され、11月から発売されています。ステロイドでも抗うつ薬でもありません。 獣医さんの処方が要る要指示医薬品です。
良い面から申し上げます。
慢性腎臓病のネコさんを対象にした試験では、55日目の体重が5.18%増えました(薬を使わない群は1.65%減)。体重を維持または増やせた子は83.1%(使わない群は41.5%)。差は15日目には出はじめています。※これは集団の平均の話で、どの子も15日で効くという意味ではありません。
そのうえで、気をつける面もお伝えします。
まず、承認されている効能は「体重増加」です。「食欲増進」ではありません。
体への影響もあります。よだれ、嘔吐、下痢、元気低下、脱水などの副作用があります。 さらに気をつけたい点として、投与のあと数時間、血糖が上がります。(糖尿病の子での使用は評価されていません)投与後4時間まで、血圧と心拍数が下がります。成長ホルモンが出すぎる病気(先端巨大症)の子には、使わないこととされています。
そして、知っておいていただきたいことがあります。この薬の承認のもとになった試験は、慢性腎臓病のネコさんだけで行われました。心不全の子、癌の子、糖尿病の子は、試験から除かれています。
市販されたあと、重い症状を含む副作用の報告が国に寄せられています。報告の中には、担当された獣医さんが「この薬と関係がある」と評価したものもあります。ただし報告だけでは因果関係は確定できず、何頭に使われたかも公表されていないため、どのくらいの割合で起きるのかは分かりません。
この報告は、飼い主さんご自身で読むことができます。農林水産省の「動物用医薬品等データベース」の副作用情報で、製品名を入れて検索するだけです。(https://www.vm.nval.go.jp/sideeffect/)
★ここを、間違えないでください
エルーラはただ、胃から出る「お腹が空いた」というホルモン(グレリン)と似た働きをする薬です。グレリン自体を増やすのではなく、その受け皿を直接刺激することで、脳に「食べたい」という信号を送り、体重を増やす方向に代謝を整えます。
ですので、重い食欲不振の子がエルーラによって食べ始めると、再栄養症候群に陥る確率は上がってしまいます。
また、エルーラによる副作用が新たな敵になってしまうため、体はその対応に追われることになります。
私たちがご紹介している「基本サプリメント」やタヒボNFD・MRN-100は、エルーラを採用される場合でも、その弊害を最低限に抑えるケア方法として知っておいてください。
それでも、必要な量が食べられないとき
お口からではなく、チューブを通して胃に直接ごはんを届ける方法があります。これで、ごはんを食べることが「恐怖を伴う不愉快な戦い」でなくなります。シッポちゃんの負担は軽くなり、ご家族の気持ちも軽くなります。一時的なものであっても、確実に暮らしの質は上がります。
3つの方法を、比べてください
- 経鼻チューブ(鼻から食道・胃へ)通常、全身麻酔は不要。短期間の栄養補給に使います。管が細く、粉や液体に限られます。 常時、鼻に管が通っているため、精神的ストレスは最も大きいと思ってください。 抜けやすく、誤って気管に入ることがあります。
- 食道瘻チューブ(首から食道へ)★当店のおすすめ短時間の全身麻酔。短期から長期まで使えます。シリンジが通る内径なので、 これまでのごはんを、通るようにアレンジすれば続けられます。 首元なので比較的受け入れやすく、気をつけるのは出口の感染です。
- 胃瘻チューブ(お腹から胃へ直接)原則として全身麻酔(内視鏡または手術)。長期に使いやすく、ごはんの質は食道瘻と同じです。 設置後10〜14日は計画的に抜けません(胃と腹壁が安定するのを待つため)。 安定する前に抜けると腹膜炎などの危険があり、早い時期に抜けたら、すぐに動物病院へ。
麻酔の危険性が高い子では、まず経鼻チューブで栄養状態を支え、状態が改善してから長期用チューブを検討することもあります。どれが適切かは、必要な期間、鼻・食道・胃の状態、全身状態によって決まります。
★とくに向いているのは、入り口だけが問題になっている子です。お口の中の癌、治らない口内炎。食べたいのに、口が痛くて食べられない子。
決めるのは、飼い主さんです
薬を使うか。管を入れるか。
獣医さんは「できます」「できません」を判断します。麻酔に耐えられるか、処置ができるか、薬を出せるか。それは獣医さんの領域です。
けれど「やる」と決めるのは、ご家族です。命の責任を負うのも、費用を出すのも、飼い主さんだからです。
ここを取り違えないでください。
【フェレットちゃんへ】
フェレットちゃんは、見守っている時間がありません。食べない・ぐったりする・ふらつく・反応がおかしい。このときは、短時間でも様子を見続けず、フェレットを診られる病院へご連絡ください。
フェレットちゃんにはインスリノーマという、血糖を下げすぎてしまう腫瘍が非常に多く見られます。低血糖が疑われるとき(持病がある、ぐったりしてよだれやふらつきがある)は、応急として、頬の内側や歯ぐきに糖を塗る方法があります。獣医療の資料にも載っている手当てです。
アルティジャーノ/液体酵素をお持ちであれば、濃く煮出したタヒボ+MRN-100で薄めた液体酵素がご利用いただけます。
★ただし、次を必ず守ってください。
- けいれんしている最中は、お口に何も与えないでください
- 液体を流し込まないでください(塗ってください)
- 塗ったからといって、病院へ行くのを遅らせないでください
- 意識が落ちている原因は、低血糖とは限らない
意識がはっきりして、飲み込めるようになってから、補助給餌に進みます。ここで私たちは、NinnaNanna流 カーボドリンク をおすすめしています。
当店の目安として、1回あたり 2.5mlシリンジで2本以上を、複数回でお伝えしています。フェレットちゃんの状態に応じて、対応方法は様々です。詳しくはご相談ください。
重い食欲不振が続く場合は、基礎疾患が関係します。ご自身で判断が付かないときは、かかりつけの先生にもご連絡ください。
むすび
「まだ食べられるから」
ほとんどの方が、そうおっしゃいます。そして、食べられなくなってから、ご連絡をくださいます。
食べられなくなってからでは、本当に大変なのです。
でも、順番さえ間違えなければ、できることはたくさんあります。
水から。次に、食べられない原因を切り崩すための材料から。そして、ごはん。カロリーは、いちばん最後でいいのです。
食べない理由は、必ずどこかにあります。吐き気かもしれない。口の痛みかもしれない。お腹が詰まっているのかもしれない。薬かもしれない。天気かもしれない。その理由を1つずつ取り除いていけば、食べられる体が戻ってくる子がいます。
そして、分からないときは、ご相談ください。
完璧な正解をお示しすることはできないかもしれませんが、お一人で悩まれるよりも、二人の方が良い知恵が浮かびます。
すべては、あなたのシッポちゃんのために。
迷っている時間を、どうか、そのままにしないでください。
重い食欲不振のためのサプリ・フード
不足しやすい栄養を補う、毎日の土台。C&R/ベジタブルエンザイム
植物由来の酵素を、ごはんにプラス。アルティジャーノ液体酵素
発酵の力を、毎日の食事にひとさじ。NinnaNannaDelica/甘酒
麹由来のやさしい甘み。飲む発酵食。ニンナナンナ デリカ/カーボα
有機もち米のとろみを。ニンナナンナ デリカ/ガゴメ昆布
フコイダンのとろみ。アーガイルディッシュ/チアシード
とろみとオメガ3を一緒に。MRN-100 高機能π(パイ)ウォーター
毎日の水分補給に確かな力を。タヒボNFD(健康茶)
身体をいたわる、NinnaNannaの健康茶。邵氏温灸器セット
体の中からあたためる集中ケア。
これらは治療薬ではなく、獣医さんの治療に代わるものではありません。持病があったり、治療中のお薬がある場合は、原材料と使い方をご確認のうえ、かかりつけの先生にもご相談ください。
*NinnaNanna(ニンナナンナ)では、シッポを持つ家族の総称としてシッポちゃんと呼びます。
また 犬 をワンちゃん、猫 をネコさんと敬意を以て表現しています。



