
口腔のために ― お口で起きていること
お口は、からだの入口です
「最近、口のにおいが気になるんです」「歯石がついてきたので、歯みがきを頑張っています」「歯みがきをさせてくれなくて、どうしたらいいか分からないんです」
お口のご相談は、こうした言葉から始まることがほとんどです。
お口は、ごはんもお水も空気も、最初に通る場所です。食べたものは、お口から喉、胃、腸へと進み、腸から吸収されて全身へ届きます。お口は、からだの外と中をつなぐ、いちばん最初の扉です。
当店は、お口の悩みを、お口だけの問題とは考えていません。お口で起きていることは、腸や、毎日のごはんや、からだ全体の状態とつながっています。ですから、守り方も2本立てです。
- 外側のケア
歯みがきや拭き取りで、歯の表面の汚れを減らす。 - 内側のケア
腸を整え、粘膜や歯ぐきを作る栄養を、毎日のごはんで届ける。
歯みがきは大切です。けれど、人でさえ難しい歯みがきを、ワンちゃん・ネコさん・フェレちゃんに完璧に行うことはできません。歯みがきをしていれば安心、ということはないのです。 その理由は、第7章でお話しします。
このページでは、まず、お口の中で何が起きているのかをお話しします。歯のつくり、歯垢が歯石に変わるしくみ、歯ぐきの中で進む炎症、そして、お口と腸、お口と全身とのつながりです。そのうえで、よかれと思って選ばれがちな「お勧めしないもの」をお伝えします。

第1章 いちばん多いのに、後回しにされる病気
英国の動物病院の診療記録を、ワンちゃん約2万2千頭、ネコさん約1万8千頭分まとめて調べた研究があります。1年間にいちばん多く記録された病名は、ワンちゃんでもネコさんでも、歯周病でした。
- ワンちゃん
1年間に歯周病と記録された割合は12.5%。2位の外耳炎(7.3%)を大きく引き離していた。 - ネコさん
1年間に歯周病と記録された割合は15.2%。お口の病気をまとめると21.2%で、どの病気の分類よりも多かった。
これは「カルテに書かれた」数です。診察で気づかれなかった子や、記録されなかった子は含まれていません。実際に歯周病を抱えている子は、この数字よりずっと多いと考えられています。
日本には、動物病院の記録をここまで大きくまとめた調査はありません。ペット保険の請求の記録を見ると、ある保険会社の2025年の集計では、7歳以上の子で請求の多い病気の4位が、ワンちゃんでもネコさんでも歯周病でした。手術の請求では、ワンちゃんでもネコさんでも2位でした。手術の例として、全身麻酔での歯石除去や抜歯が挙げられています。予防のための歯石除去は保険の対象にならないことが多いので、保険の記録に表れるのは、治療として請求された歯周病です。
それなのに、歯周病は後回しにされやすい病気です。
歯周病は、においや痛みがはっきりするまで、静かに進みます。 ワンちゃんもネコさんも、多少の痛みなら隠して食べ続けます。においもなく、痛がる様子もなければ、ほかの心配ごとが先になってしまうのは無理もありません。
歯周病で治療を受けたネコさんが、治療の1週間後には、治療の前よりも速くドライフードを食べるようになった、という研究があります。治療の前から、お口は痛かったのです。 それでも、この子たちは食べていました。
寿命が延びた分だけ、歯周病を抱える年月も長くなります。そして当店では、ごはんの栄養バランスの流行が変わるたびに腸の状態が変わり、それに合わせて、お口の悩みのかたちも変わってきたと感じています。お口は、毎日のごはんと暮らしを映す場所です。
第2章 歯のつくりと、ワンちゃん・ネコさんの歯
歯は、歯ぐきと骨に支えられています
歯は、表面から順に、次の3つの層でできています。
- エナメル質
からだの中でいちばん硬い組織。歯の表面を覆う。 - 象牙質
歯の本体。細い管が通っていて、刺激が神経に伝わる。 - 歯髄
いわゆる「神経」。血管と神経が通る、生きた組織。
そして歯は、まわりの組織に支えられて立っています。歯ぐき(歯肉)、歯と骨をつなぐクッションの役目の線維(歯根膜)、歯の根の表面を覆うセメント質、歯が植わっている顎の骨(歯槽骨)です。これらをまとめて歯周組織と呼びます。
歯周病は、この「支える側」が壊れていく病気です。歯そのものが溶ける虫歯とは、まったく別の病気です。

歯の数と形
| 乳歯 | 永久歯 | |
|---|---|---|
| ワンちゃん | 28本 | 42本 |
| ネコさん | 26本 | 30本 |
| (参考)人 | 20本 | 28〜32本 |
乳歯から永久歯への生え替わりは、ワンちゃんもネコさんも、おおむね生後3〜7か月の間です。
ワンちゃんは、チワワも大型犬も、同じ42本の歯を持っています。 小さな顎に42本が並ぶ小型犬では、歯が密集したり重なったりして、汚れがたまりやすくなります。顎の骨も薄いため、骨が少し溶けただけで歯がぐらつきます。歯周病の記録が多かったのも、トイ・プードルなどの小型犬でした。
ネコさんの歯は30本で、ワンちゃんより12本少なく、すりつぶすための奥歯はほとんどありません。当店では、ネコさんの歯周病は進みが早く、ほかのお口の病気を伴うことが多いと見ています。そして、ネコさんの歯ぐきの炎症は、若いうちから始まります。英国で約1,500頭のネコさんを子猫のころから追いかけた研究では、獣医さんが歯肉炎を見つけた割合は、1歳未満で24.5%、5〜6歳では56.3%でした。歯周病の記録は、シャムやメインクーンでやや多くなっていました。
ワンちゃんやネコさんの歯は、肉を切り裂き、噛み切るための形をしています。人のように奥歯ですりつぶすことは、ほとんどありません。ドライフードの粒も、多くは噛まずに飲み込んでいます。
虫歯は、ほとんどありません
ワンちゃん・ネコさんには、虫歯がほとんどありません。ネコさんではまず見られず、ワンちゃんでも、歯科の専門病院に来た子の記録で5%ほどでした(一般の子の割合ではありません)。
理由として挙げられているのは、次のようなことです。
- 唾液
人よりアルカリ寄り。健康な子を調べた小さな研究で、ワンちゃんの唾液は平均pH8前後、ネコさんの唾液も平均pH8.6だった(人は6.5〜7.5)。ワンちゃんでは、酸を中和する力も人より強かった。 - 歯の形
とがった形で溝が少なく、食べかすがたまりにくい。
虫歯が少ない代わりに、ワンちゃん・ネコさんのお口の病気の主役は歯周病です。人の「歯みがき=虫歯予防」という感覚を、そのまま当てはめることはできません。
ネコさんの歯に穴があいていたら、それは虫歯ではなく、ネコさんに多い歯の吸収病巣であることがほとんどです。これは「お口の病気と治療の選び方」のページでお話しします。
第3章 歯垢が歯石に変わるまで
歯石は、歯垢が固まったものです
歯石は、ある日突然つくわけではありません。順を追って育っていきます。
- 薄い膜ができる
歯の表面に、唾液のたんぱく質の薄い膜が、数秒から数分でできる。 - 菌がつく
その膜に、酸素を好む菌が最初にすみつく。 - 歯垢(細菌の膜)に育つ
菌が増えて、ねばねばした膜になる。日がたつと、酸素を嫌う菌が増え、歯と歯ぐきのすき間へ入り込んでいく。 - 固まって歯石になる
唾液の中のカルシウムやリン酸が歯垢の中で結晶になり、石のように固まる。
歯垢は、細菌のかたまりです。 食べかすではありません。歯石は、その歯垢が唾液のミネラルで固まったものです。
ワンちゃんもネコさんも、取り残した歯垢は、数日のうちに歯石に変わり始めるとされています。「何日で歯石になる」と言い切れるほどの研究はありませんが、歯垢をためない日を1日でも多くすることに意味があるのは確かです。

歯石は、菌の住みかになります
固まった歯石の表面はざらざらしていて、軽石のように細かい穴があります。そこに新しい歯垢がつき、また固まります。歯石は、菌がすみつきやすい足場です。
2026年に発表された研究では、ワンちゃんの歯石の中から、炎症のときに働く白血球(好中球)が出す網のようなものが見つかりました。歯周病に関わる菌がこの網を出させ、その網が、カルシウムとリン酸が結晶になるのを手伝っていた、というのです。炎症そのものが、歯石を育てているという新しい見方です。
歯石がつきやすいお口、つきにくいお口
ワンちゃんもネコさんも、唾液は人よりアルカリ寄りです。アルカリ寄りの唾液では、カルシウムが固まりやすくなります。
- ワンちゃん
唾液に、人より多くのカルシウムが含まれているという研究がある。歯石は、リン酸カルシウムと炭酸カルシウムが混ざったもの。 - ネコさん
歯石の結晶は、歯の主成分と同じ仲間(炭酸を含むリン酸カルシウム)だった、という研究がある。唾液のカルシウムやリンの量を調べた研究は、まだ見当たらない。
ワンちゃんは、このアルカリ寄りの唾液のために、人より歯石がつきやすいと考えられています。ネコさんでも、唾液がアルカリ寄りであることが、歯石のつきやすさの一因と考えられます。
同じワンちゃんでも、歯垢・歯石・歯ぐきの炎症が重い子ほど、唾液の中のリンが多かったという研究もあります。
一方で、健康なワンちゃんでは、唾液と血液のカルシウム・リンの濃さに、つながりは見られませんでした。食べたカルシウムがそのまま唾液に出て歯石になる、という単純な話ではありません。
カルシウムを減らせば歯石が減る、と考えるのは誤りです。カルシウムが足りなくなれば、歯を支える顎の骨のほうが弱ります。歯石がつきやすいかどうかを左右しているのは、ミネラルの量だけではなく、お口の中の菌と炎症の状態です。そして、その菌と炎症の状態は、からだ全体の状態とつながっています(第5章・第6章)。
第4章 本当の問題は、歯ぐきの中の炎症です
見えている歯石より、見えない歯ぐきの中
「歯石を取れば、歯周病は治る」と思われがちです。けれど、米国の動物病院の団体(AAHA)の歯科の指針は、歯石そのものを「主に刺激物で、それ自体の害は比較的小さい」と書いています。病気の本体は、歯ぐきの下にたまる歯垢(細菌の膜)と、それに対する炎症です。
歯周病には、2つの炎症が重なっています。
- 歯石と歯ぐきの間の炎症
歯石がこすれ、まわりの歯ぐきが赤く腫れる。歯石を取れば、ここは落ち着く。 - 歯ぐきの中(歯周ポケット)の炎症
歯と歯ぐきのすき間が深くなり、そこに酸素を嫌う菌がすみつく。炎症が、歯を支える骨を溶かしていく。歯石を取っても、ここは残る。
外から見える歯石がきれいになっても、ポケットの中を掃除しなければ、病気は止まりません。
歯肉炎は戻る、歯周炎は戻らない
- 歯肉炎
炎症が歯ぐきだけにとどまっている段階。歯ぐきの上と下の菌を取り除けば、元に戻る。 - 歯周炎
炎症が歯根膜や骨まで進んだ段階。失われた骨は元に戻らない。進行を止めることはできても、最後は歯が抜ける。
早いうちなら戻せる。進んでしまうと戻せない。 これが、歯周病でいちばん大切なことです。

見た目では分かりません
お口の中を見ただけでは、ポケットの深さも、骨がどれだけ溶けているかも分かりません。見た目は正常な歯をレントゲンで調べたところ、治療が必要な異常が見つかった割合は、ワンちゃんで28%、ネコさんで42%でした。
お薬も、骨に響くことがあります
ステロイドを長く使うと骨が薄くなることは、人ではよく知られています。腸からのカルシウムの吸収が減り、尿に出ていくカルシウムが増え、骨を作る細胞の働きが抑えられるためです。人の研究では、ステロイドを長く使っている人に歯周病が多いという報告があり、動物の実験では、ステロイドで歯周炎による骨の減り方が早まりました。
ワンちゃんでも、健康な子4頭にステロイドを9週間かけて量を減らしながら与えた研究で、背骨の骨密度が一時は85%ほどまで下がり、150日目になっても92%までしか戻っていませんでした。
ネコさんの口内炎では、ステロイドが長く使われることが少なくありません。ステロイドは炎症を抑えるので、歯ぐきの見た目は落ち着いて見えます。けれど、その下の骨がどうなっているかは、見た目では分からないと当店は考えています。
進むと、お口の外にも出てきます
- 片側だけの鼻水・くしゃみ・鼻血
上の犬歯の内側の骨が溶けて、お口と鼻がつながってしまう(口腔鼻腔瘻)。ワンちゃんではミニチュア・ダックスフンドなどに多い。 - 目の下や頬の腫れ
歯周病や歯の破折から、上の奥歯の根の先に膿がたまり、目の下や頬が腫れたり、皮膚が破れて膿が出たりする。当店でも、ワンちゃん・ネコさんの両方でご相談をいただいている。 - 下顎の骨折
歯周病で顎の骨が薄くなり、噛む・落ちるなどのちょっとした力で折れる。顎の骨の細い小型犬に多い。
「鼻の病気だと思っていた」「目の病気だと思っていた」「頬のしこりだと思っていた」ものが、実は歯の病気だったということがあります。
第5章 お口と腸は、つながっています
お口は、消化管の入口です
お口と腸は、1本の管でつながっています。ワンちゃんもネコさんも、1日中、唾液を飲み込んでいます。お口の中の菌も、唾液と一緒に、毎日おなかへ運ばれています。
マウスの実験では、歯周病に関わる菌を飲ませると、腸の細菌のバランスが変わりました。お口で歯周炎を起こしたマウスでは、お口で増えた菌が飲み込まれて腸にすみつき、腸の炎症を悪くしました。お口でできた免疫の細胞が腸へ移り、腸炎を強めることも分かっています。人でも、歯周炎と腸の病気が互いに関わり合っていることを示す研究が増えています。
ネコさんでは、慢性歯肉口内炎(ネコさんに多い、治りにくい口内炎)の子58頭のほとんどに、食道の炎症も見つかったという研究があります。どちらが先なのかは分かっていませんが、お口の炎症のある子は、その先の消化管にも炎症を抱えていることが多いのです。
ワンちゃん・ネコさんで、お口の菌が腸を変えることを直接確かめた研究は、まだありません。けれど当店は、20年以上のご相談を通じて、お口の悩みのある子のほとんどが、おなかの悩みも抱えていることを見てきました。お口のご相談をいただく子たちの中で、若い頃におなかのトラブルを抱えていた子が多いのは確かです。とは言え、お口が先か、腸が先かは、問題ではありません。どちらかが悪ければ、両方が悪いと考えて手当てをしています。
免疫の多くは、腸にあります
からだの免疫の細胞のおよそ7割は、腸に集まっているといわれます。腸の細菌のバランスは、その免疫の働きに影響します。
歯周病も口内炎も、菌に対するからだの反応、つまり炎症の病気です。炎症の強さを左右する免疫が腸とつながっている以上、腸を整えることは、お口を守ることにつながります。 これが、当店が「内側のケア」を大切にする理由です。
腸の細菌のバランスを崩すものには、消化しにくいごはん、抗生剤、暮らしの中の化学物質などがあります。歯周病や口内炎の治療で抗生剤が繰り返し出されると、腸の細菌のバランスも乱れます。
口臭の多くは、おなかから
口臭は、歯石や歯周病だけが原因ではありません。おなかの調子が悪いときにも、口のにおいは強くなります。当店では、腸の環境が整ってくると口臭が減る、ということを、たくさんの子で見てきました。
ビタミンB群は、お口と腸をつなぐ栄養です
ビタミンB群が足りなくなると、まずお口に症状が出ます。
- ワンちゃん
ナイアシン(ビタミンB3)が足りなくなると、上唇の内側が赤くなり、頬や喉の粘膜がただれ、血の混じったよだれが出る。「黒舌病」と呼ばれ、ナイアシンという栄養素が発見されるきっかけになった。 - ネコさん
体の中でナイアシンをほとんど作れず、食べ物から取るしかない。足りなくなると、お口の粘膜と舌が赤くなり、ただれる。
2026年の研究では、重い歯周病のワンちゃんは、血液中の葉酸(ビタミンB群の1つ)が、健康な子より約28%低くなっていました。ネコさんでは、腸の病気があると、ビタミンB12が下がりやすいことが分かっています。
ビタミンB群は、水に溶けるビタミンで、体にためておくことができません。腸の調子が悪ければ吸収が落ち、熱を加えたごはんでは失われやすくなります。
当店は、お口と腸とビタミンB群は、輪のようにつながっていると考えています。お口の炎症が腸に響き、腸の不調がB群の吸収を落とし、B群の不足がまたお口の粘膜に出る。だから、お口の手当ては、腸とごはんの手当てと一緒に行います。ごはんで何をどう整えるかは、「正しく食べてお口を守る」のページでお話しします。

第6章 お口の炎症と、全身の病気
歯周病が重い子ほど、腎臓の病気が多い
- ワンちゃんの腎臓
歯周病のワンちゃん約16万頭と、歯周病のない同じ年齢の子を比べた研究がある。慢性腎臓病の起こりやすさは、歯周病の段階が進むにつれて1.8倍、2.0倍、2.7倍と高くなった。 - ネコさんの腎臓
約17万頭の記録を調べた研究で、歯周病のあるネコさんは慢性腎臓病になりやすく、歯周病が重いほどその傾向が強かった。 - ワンちゃんの心臓・肝臓
トイ・プードル、ミニチュア・プードル44頭を調べた研究では、歯周ポケットが広い子ほど、心臓の弁・肝臓・腎臓に変化が多かった。
どれも診療の記録を調べた研究で、「歯周病が腎臓病を起こした」とまでは証明されていません。けれど、何万頭という記録で、歯周病が重いほど腎臓病が多いという結果が繰り返し出ています。
菌が飛んでいくより、炎症がからだを疲れさせる
以前は、「お口の菌が血液に乗って、心臓や腎臓に住みつく」と説明されてきました。いまの獣医療の指針は、それは単純すぎるとしています。
お口に慢性の炎症があると、炎症を起こす物質や、菌の毒素が、絶えず血液に流れ込みます。それが全身の血管に影響し、離れた臓器にも変化を起こしうる、という考え方です。指針は、菌を減らすことよりも、炎症を鎮めることのほうが大切とまで書いています。
歯周病を治療すると、血液中の炎症の指標が下がったという研究が、ワンちゃんでもネコさんでもあります。お口の炎症を減らすことで、からだ全体にかかる炎症の負担を減らせる可能性があります。
血液検査にも出てきます
お口に強い炎症があると、血液検査の数値も動きます。
- 上がりやすいもの
白血球(WBC)、総たんぱく(TP)、グロブリン(GLOB)、炎症の指標のCRP、肝臓の数値(ALT・ALP) - 下がりやすいもの
アルブミン(ALB)、赤血球の割合(PCV・Ht)
基準範囲は検査をする機関によって少しずつ違いますので、検査票に書かれた範囲と見比べてください。ネコさんの研究でも、歯周炎が重いほどグロブリンやALTが高く、アルブミンや赤血球の値が低く、治療でグロブリンが下がりました。
当店では、肝臓の数値が少し高い状態を、肝臓がお口の炎症を懸命に抑え込んでいる状態と見ています。それが長く続けば、腎臓にも負担が移っていきます。お口のほかに思い当たる原因がないのに、こうした数値が続いているときは、お口の中も疑ってみてください。
糖尿病とも関わります
人では、歯周病と糖尿病が互いに悪くし合うことがよく知られています。ワンちゃんでも、血糖が安定しない糖尿病の子10頭に歯周病の治療をしたところ、3か月後に血糖の指標が下がったという研究があります。お口の炎症は、血糖のコントロールにも響くのです。
第7章 歯みがきの本当の効果と、その限界
毎日でこそ、効果がはっきり出ます
歯みがきの回数を変えて比べた研究では、毎日、少なくとも1日おきにみがいた場合が、週1回や2週に1回より、はっきりと歯垢・歯石がつきにくく、歯ぐきの炎症も軽くなりました。
週1回でも歯石は減ったという研究もあります。けれど、その研究でも、歯ぐきの炎症が減ったのは、毎日みがいた子だけでした。
毎日みがけている飼い主さんは、ごくわずかです
スウェーデンで、ワンちゃんの飼い主さん約6万人に聞いた調査があります。毎日歯をみがいている方は4%未満で、半数近くは一度もみがいたことがありませんでした。歯周炎の治療を受け、歯みがきの指導を受けた子の飼い主さんでさえ、毎日みがけていたのは4割ほどでした。
毎日みがくことは、それだけ難しいのです。人でも、毎日みがいていて歯周病になる人はたくさんいます。
歯みがきが届かないところ
- 歯周ポケットの中
歯ぐきの下の深いところまでは、歯ブラシは届かない。 - 奥歯の内側
嫌がる子では、ほとんどみがけない。 - 炎症のあるところ
歯ぐきが赤く腫れているところをみがくと、痛みで歯みがき自体を嫌がるようになる。
歯みがきをしていても、それだけで安心ということはありません。 毎日みがいていても、歯ぐきの中の病気は進むことがあります。
だからといって、歯みがきに意味がないわけではありません。できる日に、できる範囲で続けることは、確かに歯垢を減らします。 大切なのは、歯みがきだけに頼らず、内側のケアと組み合わせることです。
歯みがきで気をつけること
- できなくても、ご自分を責めない
させてくれない子にがっかりしない。歯みがきができないことが、そのまま病気につながるわけではない。内側のケアでできることはたくさんある。 - 炎症のあるところは無理にみがかない
赤い・腫れている・血が出るところは、こすらない。痛みが強いときは、拭き取りやお口をすすぐ程度にとどめる。 - 歯の表面だけで十分
歯ぐきの中まで掃除しようとしない。歯ぐきを傷つければ、そこから炎症が広がる。 - 人用や一般の歯みがき粉は使わない
殺菌剤・発泡剤・香料などは、お口にもともといる菌まで減らす。飲み込めば腸の菌にも響く。ワンちゃん・ネコさんは、すすいで吐き出すことができない。 - お口の殺菌はしない
お口にすむ菌の多くは、悪い菌から粘膜を守る側の菌。殺菌するのではなく、バランスを整える。
第8章 よかれと思って選ばれがちな、お勧めしないもの
ドライフード
「ドライフードを食べていれば、歯石はつかない」と言われることがあります。けれど、ドライフードだけを食べている子も、歯周病になります。
ワンちゃん・ネコさんは、粒をほとんど噛まずに飲み込みます。噛んだとしても、粒は歯に当たるとすぐに砕けてしまい、歯の表面をこする力はわずかです。北米のワンちゃん約1,350頭を調べた研究でも、ドライフードだけを食べている子と、そうでない子とで、歯石や歯ぐきの状態に、はっきりした違いは見られませんでした。
人も、固いおせんべいを食べているから歯みがきをしなくてよい、ということにはなりません。ごはんの硬さで歯は守れません。 守ってくれるのは、ごはんの中身です。
歯みがきガム・歯みがきおやつ
「噛むだけで歯がきれいになる」とうたうガムやおやつがたくさんあります。けれど、毎日歯をみがいた場合と比べると、デンタルガムの効果はその3分の1以下でした。
そして当店が心配しているのは、その中身です。形を保つための結着剤や品質を保つためのリン酸塩、水と油を混ぜる乳化剤、甘味料、香料、保存料。毎日食べるおやつで、こうしたものを毎日おなかに届けることになります。 歯みがきガムが下痢の原因だった、というご相談も少なくありません。
本当に噛むだけで歯がきれいになるおやつがあるなら、人の子ども用のおやつとして売られているはずです。
骨・ひづめ・鹿の角・硬いジャーキー
硬いものを噛めば歯石が取れる、と考えて与えられることがあります。けれど、硬すぎるものは歯を折ります。上の大きな奥歯が割れて、神経が出てしまうことも珍しくありません。米国の動物病院の団体の指針も、鹿の角や骨を与えることを支持する十分な根拠はないとしています。
専門家の目安として、爪で押してもへこまないものは、硬すぎると言われています。
硬いものは、歯ぐきを傷つけて炎症を作ることもあります。歯の表面がきれいになっても、消化しきれずにおなかを悪くすれば、内側からお口の環境を崩すことになります。
塗るだけ・混ぜるだけで「歯石が取れる」とうたう商品
「塗るだけで歯石がポロッと取れる」「なめさせるだけ」「ごはんに混ぜるだけ」。こうした言葉で売られているジェルやサプリメント、パウダーがたくさんあります。
けれど、ついてしまった歯石が、塗る・なめる・混ぜるだけで取れたことを示した試験は、見当たりません。
- 歯石は、歯と同じ仲間のミネラル
歯石には、歯と同じリン酸カルシウムが含まれる(ワンちゃんでは炭酸カルシウムも混ざる)。薬で溶かそうとすれば、同じ成分でできている歯も傷める。 - 海外の認定制度も「取れる」は審査しない
米国の獣医の口腔衛生の認定制度が審査するのは、歯垢や歯石が「つきにくくなる」かどうかだけ。その試験も、最初に歯石をすべて取ってから始める。 - 日本の業界の指針でも書けない
ペット用品の業界が国の指導のもとで作った指針でも、歯みがき用品で書けるのは「ブラッシングを伴って、歯石の沈着を防ぐ」まで。「歯石が取れた」という体験談の形でも、医薬品のような表示の例として挙げられている。
歯石がつくのを抑える成分として研究されているのは、唾液のカルシウムを抱え込んで固まるのを防ぐリン酸塩の仲間(ヘキサメタリン酸ナトリウムなど)です。それも、つくのを抑える働きで、ついた歯石を取る働きではありません。
では、こうした商品には何が入っているのでしょうか。いくつかの商品の原材料を見てみました。
ジェルや歯みがき用品に使われている原料(一例)
- ヨウ化カリウム
ヨウ素を含む。甲状腺の病気で、ヨウ素を制限した食事で治療しているネコさんは、ほかからヨウ素が入ると治療の効果が落ちる。 - 化粧品の原料
防腐剤(パラベン類など)、とろみ付け、保湿剤、美容液に使われるエキス類、乳化剤など。どれも「肌に塗って安全か」は調べられているが、ワンちゃん・ネコさんが毎日飲み込んで安全かを確かめたデータは、ほとんどない。 - エリスリトール(甘味料)
人の研究で、血液中の量が多い人ほど心筋梗塞や脳卒中が多かったこと、飲んだあとに血小板が固まりやすくなったことが報告されている。原因かどうかはまだ決着していない。ワンちゃんで血小板への影響を調べた研究はなく、ネコさんのデータはない。決着していない成分を、わざわざ毎日なめさせる理由はないと当店は考える。 - ソルビトールなどの糖アルコール、ブドウ糖
甘味と保湿のため。糖アルコールは量が多いとおなかがゆるくなる。ブドウ糖はお口の菌のえさにもなりうる。 - リン酸塩の仲間(ヘキサメタリン酸ナトリウムなど)
歯石がつくのを抑える目的で使われる。ごはんではリンの量を心配する飼い主さんですから、歯みがき用品のリンの量も気にしていただきたいと願っています。
そして、今回確認した商品では、それぞれの原料がどれだけ入っているかは書かれていませんでした。
今回確認したサプリメント・パウダーに含まれていた原料(一例)
- 食物繊維(オオバコの種皮など)
- 乳製品
- 乳酸菌・ビフィズス菌
- オリゴ糖
なかには、こうした原料が中心になっている商品もありました。どれも、腸の細菌を育てるための原料です。歯石を溶かしたり、はがしたりする働きをもつものは入っていません。
ここに、大切なことが表れています。当店で原材料を見てみたお口向けのサプリメントは、乳酸菌・オリゴ糖・食物繊維など、腸に向けた原料を中心にしたものばかりでした。 お口の答えは、腸にある。それなら、歯石が取れる理由の分からない商品に頼るより、毎日のごはんで腸を整えることが本筋です。腸の細菌のえさになる食物繊維は、毎日のごはんからも届けることができます。

無麻酔の歯石除去
麻酔をかけずに、からだを押さえて歯石を削り取る施術があります。「麻酔のリスクがない」「安くて手軽」と宣伝されています。
けれど、米国の獣医歯科の専門医の団体も、米国の動物病院の団体も、そろって反対しています。 ネコさんの専門家の団体も、2025年に反対を表明しました。
- 歯ぐきの下は掃除できない
病気が進んでいるのは歯ぐきの中(歯周ポケット)。麻酔なしで、すべての歯のポケットに器具を入れることはできない。見える歯石を取っても、病気は止まらない。 - 「やった」という誤った安心だけが残る
見た目がきれいになるため、本当の病気が見逃され、治療が遅れる。 - 歯の表面に傷がつく
削った歯の表面が細かく傷つくと、かえって歯垢や歯石がつきやすくなる。 - 押さえつけによるけがと恐怖
鋭い器具を使うため、少し頭が動くだけでお口の中を傷つける。無理な押さえ込みで、脱臼などのけがが起きることもある。怖い思いをした子は、その後、お口を触らせなくなる。
痛みと恐怖をともなう処置を、意識のある子に押さえつけて行うことは、場合によっては虐待になりかねません。歯石を取るなら、全身麻酔のもとで、歯ぐきの中まで処置を受けてください。麻酔の危険と、どう向き合うかは、「お口の病気と治療の選び方」のページでお話しします。
むすび ― 外側のケアには、限界があります
お口で起きていることを、もう一度まとめます。
- 歯周病は、ワンちゃんでもネコさんでも、いちばん多く記録される病気
- 病気の本体は、見える歯石ではなく、歯ぐきの中の炎症
- 歯肉炎のうちなら戻せるが、骨まで進むと戻らない
- お口は腸とつながり、お口の炎症は全身の負担になる
- 歯みがきは大切だが、毎日できる方はわずかで、それだけで安心ということはない
- ドライフード、歯みがきガム、硬いもの、塗るだけの商品、無麻酔の歯石除去では、お口は守れない
外側のケアには、限界があります。だからこそ、2つのことが大切になります。
1つめは、必要な治療を、元気なうちに受けること。ついてしまった歯石や、骨まで進んだ歯周病、抜くしかない歯は、ごはんだけでは解決できません。そのときは、歯科の専門医、または歯科の経験が豊富な獣医さんを選んでください。ネコさん・ワンちゃんに多いお口の病気と、歯石除去や抜歯のメリット・デメリットは、「お口の病気と治療の選び方」のページでお話しします。
2つめは、内側から、お口を守る力を育てること。お口の粘膜や歯ぐきを作るのも、腸を整えるのも、炎症と戦う力を支えるのも、毎日のごはんです。治療を受けても、からだの状態が整わなければ、お口の病気は繰り返します。治療は、病気になったところを取り除くもの。その後のお口を作り直すのは、ごはんです。 医療だけでは手に入らないこの力については、「正しく食べてお口を守る」のページでお話しします。
お口のことで迷われたら、どうぞお気軽にご相談ください。
口腔のためのサプリ・フード・お口のお手入れ
毎日のごはんに合わせる、基本の栄養補助食品。MSM
健やかな体作りに。BYE-コリ
毎日のごはんに。オーラバイオ ペースト(歯みがき剤)
毎日のお口のお手入れに。オーラバイオ MINI歯ブラシ
小さなお口のための歯ブラシ。オーラバイオ オーガニックコットンシート
歯と歯ぐきの拭き取りに。ピアットα
毎日のごはんに。プロラクト
米ぬか由来の醗酵食品。MRN-100 高機能π(パイ)ウォーター
毎日の水分に。タヒボNFD(健康茶)
NinnaNannaの健康茶。
これらは治療薬ではなく、獣医さんの治療に代わるものではありません。持病があったり、治療中のお薬がある場合は、原材料と使い方をご確認のうえ、かかりつけの先生にもご相談ください。
*NinnaNanna(ニンナナンナ)では、シッポを持つ家族の総称としてシッポちゃんと呼びます。
また 犬 をワンちゃん、猫 をネコさんと敬意を以て表現しています。



