
脳のために ― 脳のしくみと、脳を傷めるもの
脳は、守るしかない臓器です
「急に倒れて、手足をばたつかせたんです」「夜中に鳴いて、部屋の中をぐるぐる歩き回るようになりました」「首が傾いたまま、まっすぐ歩けなくなってしまって」
脳と神経のご相談は、こうした言葉から始まります。どれも、飼い主さんにとっては突然の出来事です。病院で検査を受け、お薬が始まり、やがてお薬の種類や量が増えていく子も少なくありません。
当店は、脳の症状を、脳だけの問題とは考えていません。脳は、からだの中でいちばん守られている臓器です。それでも傷むのは、守りを越えて、からだの外から、あるいはからだの中から、脳に届いてはいけないものが届いてしまうからです。
そして脳には、ほかの臓器にない弱みが2つあります。
- 脳の中には、リンパ管がない
ほかの臓器のように、リンパの流れで不要なものを運び出すことができない。脳の中の掃除と解毒は、グリア細胞という、神経細胞を支える細胞に頼っている。 - 神経細胞は、ほとんど作り直されない
皮膚や腸の細胞のように、壊れたら新しい細胞と入れ替わる、ということがほとんどない。
だからこそ、脳は壊れてから治す臓器ではなく、壊さないように守る臓器です。守るためにできることは、突き詰めると2つしかありません。
- からだの外から入る、悪いものを減らす
- からだの中で生まれる、悪いものを脳に送らない
このページでは、まず脳のしくみをお話しします。脳の各部の役割、脳を守る壁、脳の中の掃除のしくみです。そのうえで、脳に届いて脳を傷めるものを、外から入るものと、からだの中で生まれるものに分けて、くわしくお話しします。最後に、けいれんが起きたときに、脳以外の原因を見落とさないための見方をお伝えします。
第1章 脳の地図 ― それぞれの場所の役割
脳は、場所によって受け持つ仕事が違います。傷ついた場所によって、出てくる症状も変わります。獣医さんの神経の診察では、まず症状から「脳のどこが傷ついているか」を考えます。
| 場所 | おもな役割 | 傷ついたときに見られやすいこと |
|---|---|---|
| 大脳 | 考える、覚える、感覚をまとめる、意識して体を動かす | けいれん発作、性格や行動の変化、ぐるぐる回る、片側の目が見えにくい |
| 視床・視床下部 | 感覚の中継。体温・食欲・のどの渇き・睡眠・ホルモンの司令塔 | 食欲や飲む水の量の異常、体温の乱れ、ホルモンの病気 |
| 海馬 | 新しいことを覚える、場所を覚える | 覚えていたことを忘れる、家の中で迷う |
| 嗅球 | 鼻から来た匂いを最初に受け取る | 匂いへの反応が鈍る |
| 小脳 | 体の動きをなめらかにし、バランスを取る | ふらつく、足を高く上げて歩く、頭が細かく震える |
| 脳幹 | 呼吸・心臓の拍動・意識を保つ。顔・目・のどの神経の出入り口 | 意識が低下する、首が傾く、目が揺れる、飲み込みにくい |
ワンちゃんは、とくに嗅球が大きな動物です。匂いで世界を知るワンちゃんにとって、鼻と脳はとても近い関係にあります。このことは、第5章でお話しする「鼻から脳へ入る道」にもつながります。

神経細胞と、それを支えるグリア細胞
脳の主役は、神経細胞です。神経細胞は、電気の信号と、神経伝達物質という化学物質を使って、情報を次の細胞へ伝えます。
神経伝達物質には、興奮を伝えるもの(グルタミン酸など)と、興奮を鎮めるもの(GABAなど)があります。この2つのつり合いが崩れて、興奮が勝ちすぎることが、けいれん発作の起きるしくみの1つです。 神経の正しい伝わり方は、この繊細なつり合いの上に成り立っています。
その神経細胞を、まわりで支えているのがグリア細胞です。グリアとは「のり」という意味で、かつては神経細胞をくっつけておくだけの細胞と思われていました。いまでは、脳の中でたくさんの大事な仕事をしていることが分かっています。
グリア細胞には、主に次の3つの種類があります。アストロサイトも、ミクログリアも、オリゴデンドロサイトも、どれもグリア細胞の仲間です。
- アストロサイト
血管と神経細胞の間に足を伸ばし、栄養を受け渡す。余った興奮の物質やカリウムを回収して、興奮を鎮める。脳の中でアンモニアを無毒化できるのは、主にこの細胞。脳を守る壁(第2章)も支えている。 - ミクログリア
脳の中だけで働く免疫の細胞。傷ついた細胞やゴミを食べて片づける、脳の掃除役。 - オリゴデンドロサイト
神経の「電線」を包む、さやを作る。信号を速く正確に伝えるための細胞。

詳しく覚えなくて大丈夫です。覚えていただきたいのは、脳の中の掃除と解毒は、グリア細胞が担っているということです。
第2章 脳を守る壁 ― 血液脳関門
必要なものだけを通す関所
脳の血管は、からだのほかの場所の血管と、つくりが違います。
ふつうの毛細血管の壁には、細かなすき間があり、血液の中の成分がそのすき間を通って、まわりの組織へ出ていきます。ところが脳の毛細血管は、すき間をほとんど持ちません。
この守りを、血液脳関門と呼びます。脳へ入る物を選ぶ、関所のようなものです。関所は、血管の壁1枚でできているのではなく、次の4つが組になって働いています。
- 血管の内側の細胞(内皮細胞)
細胞どうしが、たんぱく質の「留め具」でぴったりと閉じている。物を包んで向こう側へ運ぶ働きも、ほかの臓器の血管より少ない。 - 血管を外から抱く細胞(ペリサイト)
関所の締まりと、血の流れを調節する。この細胞が減ると、関所が漏れやすくなる。 - アストロサイトの足
グリア細胞の1つであるアストロサイトが、血管のまわりを足でほぼすき間なく覆い、「しっかり閉じておくように」という合図を血管に送っている。 - 薄い膜(基底膜)
内皮細胞とペリサイトを包む膜。炎症のときに出る分解の酵素に壊されると、関所が漏れる。
関所は「閉ざす」だけでなく「選んで入れる」
関所は、何も通さない壁ではありません。脳に必要なものは、専用の運び役が、自分から運び入れています。
- ブドウ糖の運び役
脳の燃料のほとんどを運ぶ。 - ケトン体・乳酸の運び役
食べられないときや、成長期に大切な燃料を運ぶ。 - アミノ酸の運び役
神経伝達物質の材料になる大きなアミノ酸を運ぶ。 - ビタミンB1やビタミンCの運び役
ビタミンCは、脳を包む液体(脳脊髄液)の中に、血液より濃く集められている。 - DHA(オメガ3)の運び役
DHAは、脳の中ではほとんど作られず、主に血液から、この運び役で取り込まれている(ネズミの研究)。
運び役の数には限りがあります。同じ運び役を使うものどうしは、取り合いになります。人では、ある1種類のアミノ酸が血液に多すぎると、ほかのアミノ酸が脳に入りにくくなる病気が知られています。
そして関所には、入りかけたものを血液の側へ押し戻すくみ出しポンプもあります。脳に入られては困る薬や毒の一部は、このポンプが追い返しています(「1つの遺伝子が担う仕事」でお話しします)。
脳の「窓」
脳のすべてが閉ざされているわけではありません。脳室のまわりの一部には、わざとすき間を開けた血管があり、「脳の窓」と呼ばれています。
- のどの渇きや、体液の濃さを感じる窓
- 血液の中の毒を感じて、吐かせる窓
- ホルモンを出す窓
吐き気は、この窓が血液の中の毒を感じ取った合図でもあります。脳は、血液の様子を見張るために、小さな窓を開けているのです。
関所を通るもの・通りにくいもの
関所を通るかどうかは、主に3つで決まります。
- 脂に溶けやすく、小さいか
脂に溶けやすい小さなものは、細胞の膜をすり抜けて入る。 - 専用の運び役に乗れるか
運び役に「なりすます」有害なものもある。 - くみ出しポンプに追い返されるか
ワンちゃん・ネコさんで、脳に入った量まで直接測ったものは多くありません。下の表は、人や実験動物の研究と、お薬の効き方や中毒の症状から分かっていることを合わせたものです。
| もの | 関所を | 脳に届くと |
|---|---|---|
| メチル水銀(魚にたまる水銀) | 通る。アミノ酸の運び役に「なりすまして」入る | ふらつき・けいれん。水俣のネコさんで知られる |
| 金属の水銀の蒸気 | 通る | 脳の中で形を変え、出られなくなって残る(人) |
| 水銀の塩(無機の水銀) | 通りにくい | 主に腎臓を傷める |
| 鉛 | 通る。とくに若い脳 | 行動の変化・ふるえ・けいれん |
| カドミウム | 大人の脳には通りにくい | 脳を包む液体を作る場所(脈絡叢)にたまる |
| ヒ素 | 実験動物で脳に入る | 人では、幼いころの摂りすぎと、知能や記憶の低下との関わりが報告されている |
| マンガン | 運び役で入る | 人では、肝臓が悪いと脳にたまる |
| アンモニア | 通る | アストロサイトがむくみ、肝性脳症になる |
| アルコール・カフェイン・ニコチン | 通る | ふるえ・けいれん・意識の低下 |
| ふるえを起こすカビの毒 | 通る | 中毒のワンちゃんの脳から見つかっている |
| 発作を抑えるお薬(フェノバルビタール・ジアゼパムなど) | 通る | 脳に届くから効く。眠気・ふらつきも、脳に届いているしるし |
| 臭化カリウム | ゆっくり通る | 多すぎると、強いふらつき・ぼんやり |
| メトロニダゾール(下痢などの抗菌薬) | 通る | 量が多いと、ふらつき・目が揺れる |
| イベルメクチン・ロペラミド(下痢止め) | ふつうはポンプが追い返す | ポンプが弱い子では脳にたまる |
| 吐き気止め | メトクロプラミドは入る。ドンペリドンは入りにくい | 入るものでは、落ち着きのなさ・ふるえが出ることがある |
| かゆみ止め(抗ヒスタミン薬) | 古いタイプは入る。新しいタイプは入りにくい(薬と量で差がある) | 「眠くなる・ならない」の差は、関所を通るかどうかの差 |
| ペニシリン系などの抗菌薬 | ふだんは入りにくい。炎症があると入りやすい(人) | 人では、腎臓が弱いとき・量が多いときに、けいれんの報告がある |
| ブドウ糖・ケトン体・アミノ酸・ビタミンB1 | 運び役で入る | 脳の燃料と材料 |
| たんぱく質・抗体 | 通りにくい | 入り込むのは、関所が傷ついたしるし |
同じ「吐き気止め」でも、同じ「かゆみ止め」でも、関所を通るかどうかで、脳への副作用が変わります。脳に作用するお薬では、眠気やふらつきが、そのお薬が脳に届いた結果として出ることがあります。
脳は、この関所のおかげで、血液の中の変化から守られています。いっぽうで、関所をすり抜けてしまうものがあります。そして、関所そのものが傷むこともあります。
関所の守りが弱くなるとき

- 年をとる
人の研究で、年齢とともに、記憶をつかさどる海馬の関門が漏れやすくなることが、MRIで確かめられている。記憶が衰え始めた人では、さらに漏れやすかった。 - けいれん発作
関門が漏れて、血液の中のたんぱく質が脳に入ると、興奮を伝えるつながりばかりが増え、発作を起こしやすい脳になる、という実験動物の研究がある。発作が関門を傷め、傷ついた関門が次の発作を呼ぶ、という悪循環の考え方。 - 高い血圧
血圧が高くなりすぎると、関門が破れて脳がむくむ。ネコさんの高血圧で起きる(第6章)。 - からだの炎症
からだのどこかで炎症が続くと、炎症の物質が関門の留め具と膜を傷めることが、主に実験動物の研究で示されている。 - 酸化のダメージ
活性酸素が、関門の留め具をゆるめる(細胞と実験動物の研究)。 - 血の流れが途絶えたとき
脳梗塞や心臓が止まったあとなど、血液と酸素が届かないと、数時間から数日で関門が開く。 - 高い血糖と発作が重なったとき
ネズミの研究で、血糖が高いと、発作による関門の漏れが大きくなった。
関所の守りは、一生同じではありません。 年齢、発作、血圧、炎症、酸化、血の流れの途絶えで弱くなります。だからこそ、関所を越えてくるものを、なるべく減らしておくことが大切なのです。
子犬・子猫の関所
「赤ちゃんの関所は穴だらけ」と言われることがありますが、これは古い考えだとする研究があります。生まれたばかりの子でも、関所の留め具は働いています。
ただ、子犬・子猫では、入ってきたものを追い返すポンプの力と、からだ全体で薬や毒を片づける力(肝臓と腎臓)が、まだ弱いのです。血液の中で薬と結びつくたんぱく質も少なく、自由に動ける薬が多くなります。そのため、脳に効くお薬や毒が、大人より効きすぎやすくなります。小さな子ほど、口にするもの・からだにつけるものに気をつけていただきたい理由です。
関所を支えるもの
食べ物で「関所を締める」ことを、ワンちゃん・ネコさんで確かめた研究は、まだありません。
けれども、関所を傷めるものは分かっています。炎症、酸化、高い血圧、くり返す発作、そして高い血糖と発作が重なること(ネズミの研究)。そして、関所は脳に必要なもの(ブドウ糖・アミノ酸・ビタミン・DHA)を、血液から運び入れています。関所を傷めるものを減らし、関所が運ぶ材料を血液の中に足りるだけ用意しておく。 それが、ごはんでできる関所の守り方だと、当店は考えています。くわしくは、「正しく食べて脳を守る」のページでお話しします。
1つの遺伝子が担う仕事
関所のくみ出しポンプが、どれほど大切な働きをしているか。それがよく分かる例があります。
くみ出しポンプの設計図になっている遺伝子は、MDR1と呼ばれます。コリーやシェットランド・シープドッグ、オーストラリアン・シェパード、ボーダー・コリーなどの一部のワンちゃんは、生まれつき、この遺伝子の働きが弱いことがあります。そうした子では、ポンプが十分に働かず、ふだんなら脳からくみ出される薬が、脳にたまりやすくなります。
代表が、寄生虫を駆除する薬のイベルメクチンです。この遺伝子の働きの弱さを、両方の親から受け継いだワンちゃんでは、ふらつき、意識の低下、昏睡が起きることがあります。コリーでは、両方の親から受け継いでいる子が、およそ3割5分という調査があります。イベルメクチンのほかにも、同じ仲間の薬や、一部の抗がん剤が影響を受けます。
これらの犬種や、その血を受け継いでいる子は、遺伝子の検査を受けることができます。結果が分かっていれば、使うお薬を選ぶことができます。お薬を使う前に、知っておいていただきたいことです。
第3章 脳の中にはリンパ管がない ― 掃除はグリア細胞の仕事
脳の中の不要なものは、どこへ行くのか
からだの多くの場所では、細胞のまわりにたまった不要なものや余分な水分を、リンパ管が集めて運び出しています。むくみが引くのも、炎症のゴミが片づくのも、リンパの流れがあるからです。
ところが、脳の中(神経細胞が詰まっている部分)には、リンパ管がありません。 これは、人も、シッポたちも変わらない事実です。
そんな中、2015年に、脳を包む膜(硬膜)には、リンパ管があることが、2つの研究グループによって確かめられました。人では18世紀にも記録があり、「再発見」といわれています。脳を包む液体(脳脊髄液)は、このリンパ管を通って、首のリンパ節へ流れていくことが分かってきました。
脳脊髄液の大部分は、脳の中にある部屋(脳室)の脈絡叢という組織で、血液をもとに作られます。部屋から部屋へと流れ、脳のまわりと、背骨の中を通る脊髄のまわりを満たしながら巡り、やがて静脈やリンパへと吸収されていきます。脳と脊髄は、この液体に浮かぶように支えられ、衝撃を和らげられているのです。

それでも、脳の中にリンパ管がないことに変わりはありません。脳の中で生まれた不要なものは、まず脳の中で処理されなければなりません。その役目を担っているのが、第1章でお話ししたグリア細胞です。
- アストロサイトは、アンモニアを無毒化し、余った興奮の物質を回収する
- ミクログリアは、傷ついた細胞やゴミを食べて片づける
アストロサイトの足には、水の通り道があり、脳脊髄液を脳の中に巡らせて不要なものを押し流すしくみも考えられています。このしくみが本当にどのように働いているのか、眠っている間に強まるのかどうかは、研究者の間で意見が分かれていて、まだ決着していません。
確かに言えるのは、脳の中の掃除と解毒は、ほかの臓器と比べて、とても限られた手段に頼っているということです。
掃除の力も、年をとると落ちる
ネズミの研究では、脳の中に脳脊髄液が流れ込む力が、中年のころから落ち始め、高齢では大きく下がっていました。脳を包む膜のリンパ管も、年をとると細くなりました。血圧が高いネズミでも、流れ込みと流れ出しの両方が落ちていました。
ワンちゃん・ネコさんで同じことを調べた研究は、まだありません。けれども、掃除の手段が限られている脳で、その掃除の力まで年とともに落ちていくのだとしたら、年を重ねた子ほど、脳に不要なものを届けない工夫が大切になるのは、自然なことだと当店は考えています。

第4章 神経細胞は、ほとんど作り直されない
皮膚の細胞は、およそ1か月で入れ替わります。腸の粘膜の細胞は、数日で入れ替わります。肝臓は、一部を切り取っても、大きさが元に戻るほど再生する力を持っています。
神経細胞は違います。大脳・小脳・脳幹の神経細胞は、基本的に作り直されません。 大人になってから新しい神経細胞が生まれるのは、ネズミの研究では、記憶をつかさどる海馬と、匂いを受け取る嗅球につながる、ごく一部の場所だけです。
- ワンちゃん
海馬で、若い神経細胞の目印を調べた研究がある。高齢のワンちゃんでは、成犬より約8割少なかった。脳の各所で、年齢とともに減っていた。 - ネコさん
大人のネコさんで、新しい神経細胞が生まれるかを調べた研究は、見つからなかった。 - 人
大人の海馬で新しい神経細胞が生まれ続けるかどうかは、正反対の研究結果があり、まだ決着していない。
つまり、新しい神経細胞が生まれる場所はもともと限られていて、それも年とともに減っていきます。
ただ、希望もあります。残った神経細胞どうしは、新しいつながりを作り直すことができます。発作のあとや、首が傾いたあとに、少しずつ歩き方が戻っていく子がいらっしゃるのは、このつながり直しのおかげです。
それでも、失われた神経細胞そのものが戻るわけではありません。だから、守るのです。 脳の病気を、壊れてから治すのではなく、壊れる前に遠ざけること。それが、このコラムでお伝えしたい、いちばん大切なことです。
第5章 からだの外から入って、脳に届くもの
脳に届く有害なものの入口は、口だけではありません。鼻、皮膚、そして血液です。ここでは、ワンちゃん・ネコさんで実際に起きていることを、証拠のはっきりしたものから順にお話しします。

鼻から脳へ ― 関所を通らない近道
鼻の奥には、匂いを感じる粘膜があります。そこから伸びる嗅神経は、頭の骨を通り抜けて、脳の嗅球につながっています。
ネズミに、とても細かな炭素の粒子(1万分の1ミリより小さいもの)を吸わせた研究では、嗅球の粒子の量が、吸わせたあと7日目まで増え続けました。粒子が嗅神経をつたって、関所を通らずに脳へ入ったと考えられています。
メキシコシティの大気汚染のひどい地域で暮らしていた、健康な雑種のワンちゃん32頭を、空気のきれいな町のワンちゃん8頭と比べた研究があります(2002年)。汚染地域のワンちゃんでは、次のことが見られました。
- 生後2〜4週という早い時期から、脳の血管と神経に、炎症の目印が出ていた
- 年齢とともに、関門の変化と、神経細胞の傷みが進んでいた
- 人のアルツハイマー病に似た変化が見られた
- 鼻の粘膜の傷みが、脳の変化より先に起きていた
- 重油が燃えてできるニッケルやバナジウムが、脳から見つかった
この研究は、粒子が鼻から脳へ入る道すじを、ワンちゃんで直接追いかけたものではありません。それでも、汚れた空気の中で暮らすワンちゃんの脳に、炎症が起きていたことは、はっきり示されました。人でも、大気汚染の多い地域で認知症が多いという報告が積み重なっています。
ワンちゃんは、匂いを感じる粘膜が人よりはるかに広く、嗅球も大きな動物です。ネコさんも、毛づくろいで床やからだについたものを口に運びます。床に近い高さで暮らし、よく匂いを嗅ぎ、よくなめる。 その暮らし方そのものが、空気や床の汚れを、人より多く受け取りやすいのです。
ノミ・ダニ・虫よけの薬
- ペルメトリン(ネコさん)
ワンちゃん用のノミ・ダニの滴下薬に含まれることがある殺虫成分。ネコさんは、肝臓で薬を処理する道すじの1つ(グルクロン酸抱合)が弱く、ペルメトリンを分解しにくい。ワンちゃん用をネコさんに使ってしまった中毒が典型で、オーストラリアの42例の報告では、86%にふるえや筋肉のぴくつき、33%にけいれんが出ていた。薬をつけたワンちゃんに、ネコさんが体をこすりつけて中毒した例もある。 - イソキサゾリン系の飲むノミ・ダニ薬(ワンちゃん・ネコさん)
アメリカの食品医薬品局(FDA)は2018年9月、このグループの薬で、筋肉のふるえ・ふらつき・けいれんが起きることがあると注意を呼びかけ、すべての製品の説明書に神経の症状を書き加えさせた。それまでに発作を起こしたことのない子でも起きていた。けれども、FDAは、多くの子には安全で有効だという立場を今も続けている。 - イベルメクチン(ワンちゃん)
MDR1遺伝子に変異のある子で、脳にたまる(第2章)。
ノミ・ダニの薬やワクチンについての当店の考えは、「ワクチンと感染症」のページでお話しします。ここでは、神経に作用する薬であるという事実を知っておいてください。
防虫剤
衣替えの季節に、押入れやクローゼットから出した衣類のそばで、ふらついたり震えたりする子を、当店は何度も見てきました。
- ナフタレン
主に赤血球を壊す。けいれんを起こすこともある。 - パラジクロロベンゼン
ふらつき・ふるえ・けいれんなど、神経の症状が中心。 - 樟脳
多く口にすると、神経を興奮させて、けいれんを起こす。
アメリカの中毒センターに寄せられた防虫剤の誤食158例の8割余りが、ナフタレンでした。ネコさんは、ワンちゃんより影響を受けやすいとされています。
キシリトール(ワンちゃん)
人の甘味料のキシリトールは、ワンちゃんでは、膵臓から大量のインスリンを急に出させます。その結果、早ければ30〜60分ほどで血糖が急に下がり、ふらつき・けいれん・昏睡が起きます。数時間たってから、ガムではさらに遅れて出ることもあるので、時間がたったから大丈夫、とは考えないでください。体重1kgあたり0.1gを超えると低血糖のおそれ、0.5gを超えると肝臓が壊れるおそれがある、とされています。ガム1枚でも、小型のワンちゃんには十分な量になることがあります。
脳は、ふだんブドウ糖を主な燃料にしていて、ほとんど蓄えを持っていません。血糖が急に下がることは、そのまま脳の危機です。ネコさんでは、同じ反応は確かめられていません。
カビの毒
カビの生えたパン・チーズ・ナッツ、生ごみ、庭の堆肥に生えるカビの中には、神経をふるわせる毒(振戦性カビ毒)を作るものがあります。ワンちゃんがいちばん多く、パン1枚で起きた例もあります。食べて1〜数時間で、ふるえ・過敏・ふらつき・けいれんが出ます。毒が関門を越え、脳から見つかった例もあります。回復には数日から数週間かかり、まれにふらつきが長く残ります。
この毒を作る代表のカビ(ペニシリウム・クルストスム)は、世界中の土や食べ物にふつうにいる、青緑色で粉っぽいカビです。日本でも、東京の学校給食用のパンに生えたカビから、この毒を作る株が見つかっています。
ただし、色や見た目では、毒を作るカビかどうかは見分けられません。 青緑の粉っぽいカビは、ほかにもたくさんあります。同じ種類のカビでも、温度や湿り気によって、毒を作ったり作らなかったりします。カビ毒は、加熱しても十分には減らず、カビが死んでも残ります。
カビたパン・チーズ・果物、生ごみ、庭の堆肥は、色にかかわらず、ワンちゃん・ネコさんの口の届かない所に置いてください。散歩の途中の生ごみや、落ちた果物にも気をつけてください。
重金属
- 水銀
1950年代の水俣で、魚を食べていたネコさんが、人より先に、けいれんや激しく狂ったような動きを見せたことは、よく知られている。メチル水銀は、アミノ酸のふりをして関所の運び役に乗り、脳へ入ると考えられている。 - 鉛
古い家の塗料のかけら、釣りのおもり、電池などを口にして起きる。お腹の症状のあとに、行動の変化・ふらつき・ふるえ・けいれんが出る。
関所を越えるもの まとめ
| 関所を越えて脳に届くもの | ワンちゃん・ネコさんでの証拠 |
|---|---|
| ペルメトリン(ネコさん) | 中毒の報告が多数あり、確かなもの |
| イベルメクチンとMDR1(ワンちゃん) | 遺伝子のしくみまで分かっている |
| イソキサゾリン系の薬 | 販売後の副作用の報告をもとに、FDAが注意を呼びかけた |
| キシリトール(ワンちゃん) | 確かなもの |
| カビの毒 | 中毒の報告がある |
| 防虫剤 | 中毒センターの集計がある |
| 鉛・水銀 | 中毒の報告がある(水銀は水俣のネコさん) |
| 大気汚染 | メキシコシティのワンちゃんの脳の研究がある |
暮らしの中の化学物質を減らす具体的な方法(空気清浄機の置き方・洗剤の選び方・衣替えの注意など)は、「化学物質のために」のページでくわしくお話ししています。
急ぐ場面
安全メモ:中毒が疑われるとき
ふるえ、けいれん、よだれ、ふらつき、意識がもうろうとしている。そして、直前に薬をつけた・何かを口にした・防虫剤のそばにいた、という心当たりがある。
このときは、すぐに病院へ。口にしたものや薬の箱・袋を持っていってください。
通院できない場合は、ご連絡ください。
第6章 からだの中で生まれて、脳に届くもの
脳を傷めるものは、外から来るものだけではありません。からだの中で毎日生まれているものが、処理されずに脳へ届くと、脳はたちまち影響を受けます。

アンモニア ― 腸で生まれ、肝臓で処理される
たんぱく質が分解されると、主に腸でアンモニアができます。アンモニアは、腸から肝臓へ向かう血管(門脈)で肝臓へ運ばれ、尿素という害の少ない形に変えられて、尿へ捨てられます。
肝臓が十分に処理できないと、アンモニアは全身を巡り、脳へ届きます。脳の中でアンモニアを処理できるのはアストロサイトだけです。アストロサイトは、アンモニアを処理する過程でできる物質をため込み、むくんでしまいます。こうして起きるのが、肝性脳症です。
- ぼんやりする、反応が鈍い
- 壁や床に頭を押しつける
- ぐるぐる回る
- 目が見えていないような動き
- けいれん
- ネコさんでは、よだれが多い
肝性脳症の原因でいちばん多いのは、生まれつき、腸からの血液が肝臓を素通りしてしまう血管がある門脈シャントです。ヨークシャー・テリア、マルチーズ、パグ、ミニチュア・シュナウザー、シーズー、ハバニーズなどに多く、ワンちゃんでは、症状が出る年齢の真ん中の値が2歳9か月でした。ごはんのあとに、ぼんやりしたり、よだれが増えたりする子は、この病気が隠れていることがあります。
肝性脳症を悪くする引き金として、獣医学で挙げられているものがあります。
- 便秘
- 脱水
- 電解質(カリウムなど)の乱れ
- 腸内細菌の増えすぎや、腸から細菌が漏れること
- 肝臓への新たな負担
- からだの炎症と、酸化のダメージ
肝性脳症の手当ての柱は、腸でアンモニアを作らせない・吸収させないこと、便通を保つこと、脱水を防ぐことです。これは、まさに「からだの中で生まれる悪いものを、脳に送らない」ということです。
肝性脳症がある子でも、たんぱく質を極端に減らすことは勧められていません。量を削るのではなく、質を上げます。お腹の中でアンモニアになりにくいたんぱく質を選ぶ、という考え方です。
アンモニアの心配は、肝臓の病気の子だけのものではありません。
- ネコさんは、アンモニアを処理する回路を回すために、ごはんからアルギニンというアミノ酸をとる必要がある。アルギニンを含まないごはんを1回食べただけで、数時間のうちにアンモニアが上がり、よだれ・ふらつき・けいれんが出ることが、古くから知られている。
- 腎臓病と腸の病気を抱えたネコさんで、食べる量が減り、吸収も落ちたことで、アンモニアが上がって脳の症状が出た例が報告されている。
- けいれんで来院したワンちゃんの一部で、アンモニアが高かったという報告もある(発作の結果なのか原因なのかは分かっていない)。
腎臓から ― 老廃物と、血圧
腎臓が老廃物を捨てきれなくなると、からだに老廃物がたまり、元気がない・ふるえる・ぼんやりする、まれにけいれん、といった脳の症状が出ます。たまる老廃物の中には、腸の中でたんぱく質が腐ってできる物質も含まれています。腸の状態は、腎臓を通して脳にもつながっているのです。
ネコさんの血圧が高くなる原因として、いちばん多いのは腎臓病です。次いで、甲状腺機能亢進症が続きます。
血圧が高くなりすぎると、脳の血管が血流を調節しきれなくなり、関門が破れて脳がむくみます。これが高血圧性脳症です。
- 吐き気
- いつもと違う鳴き方
- ふらつき、ふるえ
- 急に目が見えなくなる
- 頭を押しつける、ぼんやりする
- けいれん
高血圧のネコさんで、こうした神経の症状が見られた割合は、報告によって幅がありますが、15〜46%とされています。
けれども、同じ症状は、血圧が高くなくても起きます。腎不全そのもの(たまった老廃物)や、カリウム・カルシウムの乱れでも、ぼんやり・ふらつき・ふるえ・けいれんは出るのです。「脳の症状がある=高血圧」とは限りません。
そして、ワンちゃん・ネコさんの血圧を正しく測ることは、とても難しいのです。
- ネコさんは、動物病院では血圧が高く出る
からだに測る器械を埋め込んだ研究では、健康なネコさんの血圧は、診察のまねをしただけで、ふだんより平均17ほど高くなり、日によっては70以上も高くなった。病院に着いてすぐに測ると、家より3割以上高かったという報告もある。 - 1回の測定では決めない
米国獣医内科学会の指針(2018年)は、静かな場所で5〜10分慣らし、最初の値は捨てて5〜7回の平均をとり、ふつうは日を変えて何度か測って確かめるよう求めている。病院で緊張して上がっただけの血圧を、薬で下げる根拠はない、とも書いている。
1回の測定だけで降圧剤を始めると、病院で緊張して上がっただけの血圧を、本当の高血圧と取り違えてしまうおそれがあります。
ネコさんでよく使われる降圧剤(アムロジピン、ベナゼプリル)は、尿に漏れるたんぱく質を減らします。けれども、寿命を延ばすことや、腎臓の悪化を遅らせることは、まだ確かめられていません。そして、ベナゼプリルなどのお薬(ACE阻害薬・ARB)は、腎臓の中で血液をろ過する圧も下げるため、始めたあとに腎臓の数値(クレアチニン)が上がることがあります。ある調査では、始めて1か月以内に11.0%、1〜2か月で13.7%のネコさんで、クレアチニンが3割を超えて上がっていました。効きすぎれば、ふらつき・ぐったり・失神も起きます。
当店は、降圧剤をお勧めしているわけではありません。ただ、急に目が見えなくなった、急にぼんやりする・発作を起こした、という場面は別です。こうした症状は、低血糖や中毒など、ほかの原因でも起きます。すぐに病院へ。通院できない場合は、ご連絡ください。そして、目の奥(網膜)がはがれている・脳がむくんでいるなど、高い血圧による傷みが疑われ、血圧が高いことが確かめられたときは、1回の測定でも血圧を下げることが急がれます。失った視力は戻らないことが多いからです。
だからこそ、急に目が見えなくなった・急にぼんやりする・発作を起こした、という急ぐ場面でなければ、慌ててお薬を決めるより、次のことを大切にしてください。
- 落ち着いた状態で、何度か、日を変えて測ってもらう
- 目の奥を診てもらう
- お薬を始めたら、腎臓の数値と、ふらつき・食欲を見ていく
高齢のネコさんの夜鳴きや、ぼんやりした様子を「年のせい」と片づけないこと。そして、「血圧が高い」と言われても、すぐに一生のお薬と決めつけないこと。腎臓を支え、血圧を安定させることは、脳を守ることです。
血糖 ― 脳の燃料が切れるとき
脳は、ふだんブドウ糖を主な燃料にしていて、蓄えをほとんど持っていません。血糖が下がると、数十分で脳の働きが落ちます。
- 小さな子犬・子猫が、食べられない時間が続いたとき
- 糖尿病の子で、インスリンが効きすぎたとき
- 膵臓のインスリンを出す細胞の腫瘍(インスリノーマ)。フェレットちゃんにとくに多い
- キシリトール(ワンちゃん)
ふらつく、ぼんやりする、けいれんする、意識が遠のく。低血糖は、命に関わる急ぐ場面です。
からだの炎症と、腸から漏れるもの
脳は、たくさんの酸素を使う臓器です(人では、体重の約2%の脳が、からだ全体の酸素の約20%を使っています)。酸化されやすい脂肪も多く、酸化のダメージに弱い臓器です。
高齢のワンちゃんの脳には、人のアルツハイマー病と同じ形のたんぱく質(アミロイドβ)がたまり、その量が認知機能の衰えと関係していました。
からだのどこかで炎症が続くと、炎症の物質が関所を傷め、ミクログリアを興奮させます。興奮しすぎたミクログリアは、掃除役から一転して、神経を傷める側に回ってしまいます。腸の守りが弱って、腸の細菌の毒素が血液に漏れると、同じことが起きることが、人や実験動物で研究されています。
歯周病、お腹の不調、皮膚の炎症。からだは1つです。からだのどこかの炎症を放っておかないことも、脳を守ることにつながると当店は考えています。
血管が詰まる・破れる ― 脳梗塞と脳出血
ワンちゃん・ネコさんにも、脳梗塞(脳の血管が詰まる)と脳出血(脳の血管が破れる)があります。生きている間に確かめるにはMRIなどの検査が要るため、あまり知られていません。けれども、MRIが広まってから、ワンちゃんでは「以前考えられていたより多い」とされるようになりました。
脳梗塞・脳出血の特徴は、次の3つです。
- 急に始まる
数分〜数時間のうちに症状がそろう。 - それ以上は悪くならない
24時間を過ぎると、ほとんど進まない。脳腫瘍や脳炎のように、日を追って悪くなることが少ない。 - 片側に偏る
片側の手足のふらつき、首の傾き、片側の目の反応の低下など。
そして、脳梗塞は、脳だけの病気ではありません。 からだのどこかの病気から来ることが多いのです。
- ワンちゃん
脳梗塞の33頭のうち18頭に、ほかの病気があった(腎臓病8頭、副腎の病気〈クッシング症候群〉6頭)。125頭の調査でも、約4割にほかの病気があり、高血圧が2割、尿にたんぱくが漏れる腎臓の病気が1割近くだった。グレーハウンドは、ほかの犬種の6.6倍と多く、キャバリアにも多い。 - ネコさん
MRIで脳梗塞とされた9頭のうち、8頭にほかの病気があった。亡くなったあとに脳を調べた16頭の報告では、梗塞のネコさんの中に、甲状腺機能亢進症の子が3頭いた。心臓の病気(肥大型心筋症)では、心臓の中にできた血の塊が、血流に乗って足の血管に詰まることがよく知られている。脳の血管に詰まったと考えられるネコさんの報告もある。
ネコさんの高血圧も、脳の大きな敵です。高血圧のネコさん56頭(年齢の真ん中の値16.5歳)を調べた研究では、31頭に、ふらつき・発作・夜鳴き・方向が分からなくなる、などの神経の症状がありました。血圧を下げたあとを追えた25頭のうち、15頭は神経の症状がすっかり消えていました(そのうち2頭は、のちに症状がぶり返しています)。
当店でも、甲状腺機能亢進症と腎臓病を抱えた高齢のネコさんで、片足のふらつきがいったん良くなったあと、しばらくして倒れ、そのまま亡くなった子を見てきました。脳の血管が詰まったのではないか、というのが、飼い主さんとかかりつけの先生のお考えでした。
心臓・腎臓・甲状腺・副腎・血圧。脳の血管を傷めるものは、からだ全体にあります。 ほかの病気を抱えている高齢の子ほど、脳の血管のことも気にかけていただきたいのです。
見通しは、思われているより悪くありません。ワンちゃんの125頭の調査では、退院できなかった子は6.4%でした。多くの子は、最初の数週間で目に見えて良くなっていきます。ただ、2割近くの子で再発が疑われ、1割近くの子に、あとからてんかん発作が出ていました。
脳に送らないために ― まとめ
| 生まれる場所 | 脳に送らないために知られていること |
|---|---|
| 腸(アンモニア・腐敗した物質) | 便通を保つ。腸内細菌のバランスを整える。たんぱく質の質を上げる |
| 肝臓 | 肝臓の病気を早く知る。門脈シャントの子は、その手当てを |
| 腎臓 | 水分を十分にとる。腎臓病を早く知る |
| 血圧・血管 | 腎臓病や甲状腺の病気がある子は、血圧を測る。心臓の病気がある子は、血の塊ができていないかを気にかける |
| 血糖 | 小さな子・糖尿病の子・フェレットちゃんは、食べられない時間を長くしない |
| からだの炎症 | お口・お腹・皮膚の炎症を放っておかない |
| 酸化 | 抗酸化の栄養と、運動・遊び |
ごはんでできることは、「正しく食べて脳を守る」のページで、栄養素ごとにくわしくお話しします。
第7章 「けいれん=脳の病気」とは限らない
けいれんを見ると、多くの飼い主さんは「脳の病気だ」と思われます。けれども、けいれんの原因は、脳そのものの病気だけではありません。脳の外に原因があって、その結果として脳が症状を出していることが、少なくないのです。
獣医学でも、けいれん発作は原因によって3つに分けられています。
- 特発性てんかん
脳に目に見える炎症(傷)がなく、ほかの原因も見つからない。遺伝が関わると考えられている。 - 構造的てんかん
脳炎・脳腫瘍・水頭症・脳の血管の病気など、脳そのものに炎症(傷)がある。 - 反応性発作
脳は正常で、からだの中の異常(低血糖・アンモニア・カルシウムの不足・ビタミンB群の不足・中毒など)に、脳が反応して起きる。
てんかんの2つについては、「よくある脳の病気と、お薬のこと」のページでくわしくお話しします。ここでは、反応性発作と、けいれんに見える別の出来事をお話しします。原因が脳の外にあれば、発作を抑える薬だけでは解決しません。原因そのものへの手当てが必要です。

心臓 ― 失神と、けいれん発作の見分け方
心臓のリズムが乱れたり、心臓のまわりに水がたまったりして、脳への血液が一瞬途切れると、失神が起きます。失神のときにも、手足が突っ張ったり、けいれんのような動きが出たりすることがあります。脳に血液が届かなくなるためです。
ミニチュア・シュナウザーなどの心臓のリズムの病気や、ボクサーの心筋の病気などでは、失神がてんかんと間違われることがあります。
| 失神(心臓から) | てんかん発作(脳から) | |
|---|---|---|
| 起きる場面 | 興奮・運動・排便や排尿のあと、咳きこんだあとなど | 寝ているとき・くつろいでいるときにも起きる |
| 長さ | 数秒〜十数秒と短い | 1〜2分ほど続くことが多い |
| 前ぶれ | 急に力が抜けて倒れる | 落ち着かない・隠れる・甘えるなど、前ぶれがあることがある |
| 戻り方 | すぐに元に戻る | 戻ったあと、しばらくぼんやりする・ふらつく・目が見えにくい・食欲が強い |
| 舌や歯ぐきの色 | 白っぽい・紫色になることがある | 発作の間は変わることもあるが、戻れば元の色 |
いちばん違うのは、戻り方です。 失神は、倒れたあとすぐに元どおりになることが多く、てんかん発作は、戻ったあとにしばらく「発作のあとの時間」が続きます。
発作の様子を、ぜひスマートフォンで動画に撮っておいてください。言葉で説明するより、ずっと多くのことが伝わります。
首が傾いた ― 前庭疾患とは限らない
高齢のワンちゃんやネコさんで、急に首が傾き、目が揺れ、まっすぐ歩けなくなる。これは、バランスをつかさどる前庭という仕組みが乱れたときの症状で、耳の奥の病気や、原因の分からない前庭疾患でよく起きます。とくに老犬の前庭疾患は、数日のうちに良くなり始めることが多い病気です。
けれども、同じ症状は、脳の小脳や脳幹の脳梗塞でも起きます。小脳の脳梗塞のワンちゃん23頭をまとめた研究では、13頭で首が傾き、8頭で目が揺れていました。反対に、一般の動物病院が「脳卒中かもしれない」と考えて紹介した85頭のうち、条件に合った20頭を調べたら、実際に脳梗塞だったのは2頭で、ほかは前庭疾患・脳腫瘍・脳炎などだった、という報告もあります。
見た目だけでは、前庭疾患と脳梗塞を見分けられません。脳の血管のことも考えに入れたほうがよいのは、次のようなときです。
- 片側の手足に、力が入りにくい・ふらつく(前庭疾患では、手足の力そのものは保たれる)
- 意識がぼんやりしている
- 心臓・腎臓・甲状腺・副腎の病気、高血圧がある
- 前にも、片足のふらつきなど、急に始まって良くなった出来事があった(血の塊や、脳・脊髄の血管の病気が隠れていることがある)
低血糖
第6章でお話ししたとおりです。食べていない時間、糖尿病のインスリン、フェレットちゃんのインスリノーマ、ワンちゃんのキシリトール。けいれんの前後に、何を食べていつ食べたかを確かめてください。
カルシウム・カリウムの不足
- 授乳中の母犬・母猫
子に母乳でカルシウムを渡すことで、血液のカルシウムが下がり、ふるえ・けいれんが起きる(産後の低カルシウム血症)。小型のワンちゃんに多い。 - 成長期の子
カルシウムが足りず、リンが多すぎるごはんを食べ続けた子猫で、骨折やけいれんが起きた例が報告されている。 - カリウム
ネコさんでは、カリウムが下がると、首が持ち上がらずに下を向いたままになる。腎臓病のネコさんの2〜3割でカリウムが下がるとされる。
ビタミンB群の不足
神経を支えるビタミンB群が足りなくなることも、反応性発作の原因の1つです。
- ビタミンB1(とくにネコさん)
ネコさんは、B1をたくさん必要とする動物。足りなくなると、まず、よだれ・食欲の低下・吐くことが起き、進むと、瞳孔が開く・首を下に曲げる・ふらつく・けいれんする。神経の症状が出るところまで進むと、影響が残ることがある。B1は、加熱や長い保存、一部の保存料で壊れる。生の魚の一部には、B1を壊す酵素も含まれている。 - ビタミンB6
脳のブレーキ役の神経伝達物質(GABA)を作るのに欠かせない。ワンちゃんが結核の薬(イソニアジド)を誤って飲むと、B6の働きが奪われてけいれんが起き、B6を注射することが手当ての柱になる。人には、B6を与えないと止まらないてんかんもある。 - ビタミンB12
B12が足りなくなって血液のアンモニアが上がり、ぼんやりする・意識がもうろうとする・けいれんする、といった症状が出たワンちゃん・ネコさんの報告が、いくつもある。B12を補うと元に戻っていた。生まれつきB12を吸収しにくい子が多いが、生まれたあとにB12が低くなって、脳の症状が出たと考えられたネコさんの例もある。
膵外分泌不全や、お腹の病気が長く続いている子では、B12の値が低いことは珍しくありません。膵臓の消化液が足りない病気(膵外分泌不全)のネコさんでは、測った子の約8割で、血液のB12の値が低くなっていました。お腹の調子が長く悪いワンちゃんでも、約3割6分でした。(血液の値が低いことが、そのまま細胞の中の不足を意味するとは限りません。)腸で吸収できなければ、どんなにごはんに含まれていても、からだには届かないのです。
ビタミンB群は、たんぱく質の処理を、まわりから支えている栄養です。B6やB3はアミノ酸から窒素を受け渡す働きに、B1やB2はからだ全体のエネルギーづくりに使われます。足りない状態をつくらないことが、アンモニアを片づける流れを守ることにつながります。
ただし、B6は、多すぎても神経を傷めることがあります。何をどれだけ補うかは、「正しく食べて脳を守る」のページでお話しします。
肝臓・腎臓・血圧
第6章でお話しした、アンモニア(肝性脳症)、腎臓の老廃物、ネコさんの高血圧です。
甲状腺
- ネコさんの甲状腺機能亢進症
落ち着きがない・夜に鳴く、などの行動の変化が出やすい。手足が勝手に動く発作のような動きが、甲状腺の手当てで消えたという報告もある。 - ワンちゃんの甲状腺機能低下症
首が傾く・顔の片側が動かなくなる、などの神経の症状が出ることがある。甲状腺の手当てで、多くは2か月ほどで戻っていた。
中毒
第5章でお話ししたものです。ペルメトリン、ノミ・ダニの薬、防虫剤、キシリトール、カビの毒、重金属。
お薬
お薬の中にも、神経の症状を起こすものがあります。
- メトロニダゾール
下痢などに使われる抗菌薬。ワンちゃんで、ふらつき・目が揺れる、などの神経の症状を起こすことが知られている。 - イソキサゾリン系のノミ・ダニ薬
第5章でお話ししたとおり。 - 吐き気止めのメトクロプラミド
ふるえ・首の傾き・ふらつきが出ることがある。 - 抗てんかん薬そのもの
ふらつき・眠気は、多くの抗てんかん薬に共通する副作用。
新しいお薬を始めたあとに、ふらつきやふるえが出たときは、まずそのお薬を疑ってください。 かかりつけの先生と、お薬の見直しを相談なさってください。
「けいれんの記録」をつけてください
原因を見分けるいちばんの手がかりは、飼い主さんの記録です。
- いつ起きたか(日付・時刻)
- 何をしていたときか(寝ていた・食後・興奮していた・排便のあと)
- どのくらい続いたか(時計で計る)
- どんな動きだったか(動画)
- 戻ったあとの様子(すぐ戻った・ぼんやりしていた時間)
- 直前に、何を食べたか・新しいお薬や薬をつけたか・防虫剤や洗剤など、いつもと違うものがあったか
- 天気・気圧・季節
この記録は、獣医さんの診察にも、当店へのご相談にも、そして、お薬を減らしていくときにも、いちばん役に立つものになります。
むすび 守るしかない臓器だから、毎日できることを
脳の中にはリンパ管がなく、掃除と解毒はグリア細胞に頼っています。神経細胞は、ほとんど作り直されません。脳を守る関所は、年齢や発作や炎症で、少しずつ弱くなっていきます。
だから、脳は壊れてから治す臓器ではなく、壊さないように守る臓器です。
- からだの外から入る、悪いものを減らす
空気、薬、日用品、ごはんの中のもの。 - からだの中で生まれる、悪いものを脳に送らない
腸を整え、肝臓と腎臓を支え、水分を保ち、炎症を放っておかない。
どちらも、特別な治療ではありません。毎日のごはんと、暮らしの中でできることです。
脳の症状は、ある日突然やってきます。けれども、その手前には、長い時間があります。その時間を、守るために使っていただきたいと、当店は願っています。
脳のことで心配なことがあれば、いつでもご相談ください。
脳のためのサプリ・お水・健康茶
毎日のごはんに合わせる、基本の栄養補助食品。ルンブルQ
コエンザイムQ10を含む栄養補助食品。テラカニス ハーバルヒーローズ ブレイブハート(猫用・犬用)
ハーブの栄養補助食品。アルティジャーノ 液体酵素
低血糖の時も。MRN-100 高機能π(パイ)ウォーター
発作時のお水。タヒボNFD(健康茶)
NinnaNannaの健康茶。
これらは治療薬ではなく、獣医さんの治療に代わるものではありません。持病があったり、治療中のお薬がある場合は、原材料と使い方をご確認のうえ、かかりつけの先生にもご相談ください。
*NinnaNanna(ニンナナンナ)では、シッポを持つ家族の総称としてシッポちゃんと呼びます。
また 犬 をワンちゃん、猫 をネコさんと敬意を以て表現しています。



