
脳のために ― 正しく食べて脳を守る
脳は、毎日のごはんでできています
脳は、からだの中でいちばん守られている臓器です。けれども、脳の中にあるものは、すべて、毎日のごはんから運ばれてきたものです。
- 燃料
脳を動かすブドウ糖と、その予備になるケトン体。 - 材料
神経細胞の膜を作る脂肪と、神経伝達物質の元になるアミノ酸。 - 仕事道具
燃料を燃やし、材料を組み立てるビタミンとミネラル。
このうち、どれか1つが足りなくても、脳は正しく働けません。ビタミンB1や、重いビタミンB12の不足、ミネラルの乱れなどでは、ふるえ・ふらつき・けいれん・ぼんやり、といった神経の症状として表れることがあります。
「脳を守るためにできることは、からだの外から入る悪いものを減らすことと、からだの中で生まれる悪いものを脳に送らないこと」。このコラムの「脳のしくみと、脳を傷めるもの」のページで、そうお話ししました。このページでは、もう1つの柱、脳に必要なものを、毎日のごはんで届けることをお話しします。

第1章 既製品のフードだけでは、足りない理由
基準は「健康な子の、最低限の量」
ペットフードの栄養の基準(AAFCO栄養基準など)は、健康なワンちゃん・ネコさんが、成長期・成犬期などのそれぞれの時期に、最低限これだけは必要という栄養の量を決めたものです(とりすぎを防ぐための上限が決められている栄養も、一部あります)。
AAFCO栄養基準に準拠した総合栄養食とは、この「健康な子の最低限」を満たしている、という意味です。その子が病気にならないことを保証するものではありません。病気を抱えた子、高齢の子、お薬を飲んでいる子にとって、最低限の量では足りないことがあります。そして、その足りなさが積み重なって、からだのあちこちに不調が出てくる子を、当店はたくさん見てきました。
手作りのごはんも、同じ心配を抱えています。インターネットや本で紹介されているワンちゃんの手作りごはんのレシピ200件を計算で調べた研究では、95%のレシピが、少なくとも1つの栄養素で基準に届いていませんでした。
加工と保存で、壊れていくもの
ドライフードは、高い熱と圧力をかけて作られます。缶詰やレトルトパウチなど、常温で保存できるウェットフードの多くも、密封したあとに高い温度で加熱して殺菌します。このときに、熱に弱いビタミンB1やビタミンCなどが失われていきます。メーカーは失われる分を見込んで多めに入れていますが、保存のあいだにも、ビタミンは少しずつ壊れていきます。
開封したあとは、空気に触れて、脂肪が酸化していきます。酸化した脂は、それ自体がからだの負担になり、脂といっしょにビタミンEなども失われていきます。
食べる量が減れば、届く量も減る
高齢になると、1回に食べられる量が減っていきます。病気のときも同じです。フードに含まれるビタミン・ミネラルは、決められた量を食べてはじめて最低限に届くように作られています。食べる量が半分になれば、届く量も半分です。
そして、脳の病気のお薬の中には、肝臓の働きを変えるもの、塩分やカリウムのバランスを乱すもの、食欲を変えるものがあります(「よくある脳の病気と、お薬のこと」のページでくわしくお話ししています)。お薬の種類や、食べられる量によっては、栄養や電解質の状態に気をつける必要があります。
だから当店は、総合栄養食でも、手作りのごはんでも、ビタミン・ミネラルを補うことを基本にしています。
第2章 神経を支える栄養

ビタミンB群 ― 燃料を燃やし、伝達物質を作る
- ビタミンB1
ブドウ糖を燃やして、脳のエネルギーに変える鍵。ネコさんは、体重あたりでワンちゃんの約3倍のB1を必要とする。足りなくなると、食欲が落ち、吐き、進むと首が下を向く・ふらつく・けいれんする。B1は、熱・長い保存・一部の保存料(亜硫酸塩)で壊れる。生の魚や貝の一部には、B1を壊す酵素も含まれている。 - ビタミンB6
脳のブレーキ役の神経伝達物質(GABA)や、セロトニン・ドーパミンを作るのに欠かせない。アミノ酸を組みかえて使うときにも働く。 - ビタミンB12・葉酸
神経の「電線」を包むさやを保ち、からだに不要なもの(ホモシステイン)を片づける。お腹の病気が長く続いている子や、膵臓の消化液が足りない子では、B12の値が低くなりやすい。B12が大きく足りなくなって、アンモニアが上がり、けいれんを起こしたワンちゃん・ネコさんの報告もある。 - ナイアシン
細胞のエネルギーづくりに使われる。ネコさんは、からだの中でほとんど作れないので、ごはんから毎日とる必要がある。
ビタミンB群は、1つだけを大量にとるのではなく、まとめて、毎日とるのが基本です。お互いに助け合って働く栄養だからです。
ミネラル ― 神経の興奮を整える
- マグネシウム
神経が興奮しすぎないように、ブレーキの「栓」の役目をする。 - カルシウム
神経と筋肉の働きを安定させる。子に母乳を与えている母犬・母猫で足りなくなると、ふるえ・けいれんが起きる。 - カリウム
神経と筋肉の電気の流れを支える。ネコさんで足りなくなると、首が持ち上がらずに下を向く。腎臓病のネコさんで足りなくなりやすい。 - ヨウ素
甲状腺ホルモンの材料。甲状腺ホルモンは脳の働きに欠かせない。 - 亜鉛・銅・マンガン・セレン・鉄
脳の中の酵素や、酸化を防ぐ酵素(このあとの「抗酸化」でお話しします)の部品になる。
血液検査に出たときは、もう遅い
とくにカルシウムとマグネシウムの足りなさは、血液検査ではなかなか分かりません。
からだのカルシウムの約99%は骨にあり、血液の中のカルシウムは、ホルモンの働きで、骨から引き出したり、腎臓や腸での出入りを調節したりして、狭い範囲に保たれています。ですから、血液検査でカルシウムが本当に低く出るとき(たんぱく質の量などによる見かけの低さではなく)は、その調節が追いつかなくなった、かなり進んだ状態です。マグネシウムは、細胞の外にあるのは1%に満たず、血液の値は、からだの中の蓄えを表さないとされています。
つまり、カルシウムやマグネシウムの異常が血液検査に出てくるときは、すでに病名がつく状況だと、当店は考えています。そこに至るまでのあいだに、ふるえ、こむら返りのような筋肉のつり、落ち着きのなさ、食欲や便の乱れなど、からだのあちこちに不具合が出ています。
お薬で失われていくミネラル・ビタミン
カルシウムやマグネシウム、ビタミンは、お薬でも失われていきます。
- 利尿薬(フロセミド)
心臓の病気でよく使われる。尿に出ていくカリウム・カルシウム・マグネシウムを増やす。心臓の病気(僧帽弁の病気)のワンちゃんを調べた研究では、マグネシウムが低い子は、ほかの条件をそろえても、亡くなる危険が約4倍高いという関わりが見られた。 - 胃薬(プロトンポンプ阻害薬)
人では、長く飲むとマグネシウムが下がることがあり、米国食品医薬品局(FDA)が注意を呼びかけている。 - ステロイド
人では、長く飲むと、骨からカルシウムが失われ、骨が弱くなることが知られている。 - 抗てんかん薬
人では、一部の抗てんかん薬(フェノバルビタールなど)を長く飲むと、ビタミンDが足りなくなりやすく、骨が弱くなることがある。抗てんかん薬を飲んでいる子どもの約3割で、ビタミンDが不足していたという調査もある。
ステロイドと抗てんかん薬の骨や栄養への影響は、どちらも主に人で分かっていることです。ワンちゃん・ネコさんでは、これを確かめた研究は、まだほとんどありません。
毎日、その子のからだが求める分を
「ミネラルは摂りすぎないように」とよく言われます。けれども、そのために足りなくなり、からだのあちこちに起きている不具合は、数えきれません。足りなさは静かに進み、血液検査に出たときには、すでに病気になっています。
ミネラルも、ビタミンも、その子のからだの求めに応じて、毎日補うことが大切です。これは、医食同源のコラムのすべてで、当店がお伝えし続けていることです。
アミノ酸 ― とくにネコさんは、足りなさがそのまま神経に出る
- タウリン
ネコさんにとって欠かせないアミノ酸。足りなくなると、目の網膜が傷み、心臓の病気を起こす。脳の中では、興奮を鎮める側で働いている。加熱すると、煮汁に溶け出す。 - アルギニン
からだの中のアンモニアを片づける回路を回すのに欠かせない。ネコさんでは、アルギニンを含まないごはんを1回食べただけで、数時間のうちにアンモニアが上がり、よだれ・ふらつき・けいれんが出ることが、古くから知られている。 - トリプトファン・チロシンなど
セロトニンやドーパミンなど、神経伝達物質の材料になる。
ネコさんは、肉食の動物です。たんぱく質の質が、そのまま脳の働きに直結しています。そして、質だけでなく、その子に足りるだけの量が必要です。
さらに、たんぱく質は、食べただけでは脳の材料になりません。アミノ酸を組みかえ、神経伝達物質に作り変えるにはビタミンB6が、そのためのエネルギーを作るにはビタミンB1・B2・ナイアシンなどが必要です。ビタミンB群がなければ、良いたんぱく質も、使いこなすことができないのです。
脂肪酸 ― 神経の膜を作る
- オメガ3(DHA・EPA)
DHAは、脳と目の網膜の神経細胞の膜に多く含まれる脂肪酸。脳の中ではほとんど作られず、主に血液から運び込まれる。
てんかんのワンちゃんにオメガ3を足した小さな比較の試験では、発作の回数は減りませんでした。オメガ3を足すだけで発作が止まるわけではありません。けれども、脳の膜を作る材料として、ごはんから続けて届けたい脂肪酸です。
ただし、オメガ3は、脂肪酸の中でいちばん酸化しやすい脂肪酸です。酸化した油は、かえってからだの負担になります。新鮮な魚や、開けたての油を使うこと、ビタミンEといっしょにとることが大切です。
抗酸化 ― 脳を錆びから守る
脳は、たくさんの酸素を使い、酸化されやすい脂肪を多く含む、酸化のダメージに弱い臓器です。酸化は、鉄が錆びるのと同じように、細胞の膜やたんぱく質を傷めていきます。
からだは、この錆びから、何重もの守りで身を守っています。
- からだが自分で作る守り(抗酸化酵素)
活性酸素を消す酵素を、からだは自分で作っている。その酵素の部品が、ミネラル。SOD という酵素には銅・亜鉛・マンガン、グルタチオンペルオキシダーゼにはセレン、カタラーゼには鉄が必要。ミネラルが足りなければ、からだは自分の守りを作れない。 - グルタチオン
からだの中でいちばん大きな抗酸化の物質の1つ。主に肝臓で、アミノ酸(システインなど)を材料に作られ、全身に配られる。肝臓の病気のワンちゃん・ネコさんでは、肝臓のグルタチオンが低い子が多かった。脳も自分でグルタチオンを作っているが、そのための材料は血液から届く。 - 食べ物からとる守り
ビタミンE(脂の酸化を止める)、ビタミンC(ワンちゃん・ネコさんも作れるが、病気やストレスで使われる量が増える)、カロテノイド、ポリフェノール、コエンザイムQ10 など。
そして、脳には関所(血液脳関門)があります。抗酸化の物質も、関所を通らなければ脳には届きません。ビタミンCは、脳を包む液体をつくる場所から、運び役によって脳の側へ集められます。ビタミンEは、ゆっくりと入っていきます。グルタチオンはそのままでは関所を通りにくく、脳は材料を受け取って、自分で作っています(いずれも人・実験動物の研究)。脳を錆びから守るには、関所を通れる形のものと、脳が自分で守りを作るための材料を、血液の中に用意しておくことが大切です。
肝臓は、からだ全体の抗酸化の工場でもあります。肝臓を支えることは、脳を錆びから守ることにもつながっています。
高齢のビーグルを2年間追いかけた研究があります。ビタミンE・C、αリポ酸、L-カルニチン、ほうれん草・トマトの搾りかす・ぶどうの搾りかす・にんじん・柑橘からとった原料などを合わせた、研究用に調整した抗酸化を強めたごはん(ぶどう・レーズンは、ワンちゃんの腎臓を傷めることがあるので、そのまま与えないでください)を食べた子、遊び・運動・仲間との交流を増やした子、その両方をした子、どちらもしなかった子を比べました。抗酸化を強めたごはんだけの子でも、一部の学習の課題で成績が良くなり、ごはんと遊びの両方をした子が、いちばん学習する力を保っていました。
脳を錆びから守る、いろいろな種類の栄養を、毎日のごはんで届けること。そして、毎日の散歩や遊びで脳を使うこと。その両方が、脳の若さを保つのです。
注意:αリポ酸は、ネコさんには分けないでください
αリポ酸は、抗酸化のサプリメントによく使われる成分で、関所(血液脳関門)を通って脳にも届くとされています(主に実験動物の研究による)。けれども、ネコさんは、ワンちゃんや人より、はるかに敏感です。健康なネコさんに1回だけ飲ませた研究では、体重1kgあたり60mgで中毒が起き、亡くなった子もいました。1kgあたり30mgでも、肝臓の細胞に軽い傷みが出ています。1kgあたり30mgは、体重4kgのネコさんなら合計120mgにあたります。人用のαリポ酸のサプリメントは、1粒100mgほどのものが多く、1粒でも、肝臓に傷みが出た量に近くなります。 ワンちゃん用や人用のサプリメントを、ネコさんに分けないでください。
第3章 脳の燃料 ― ブドウ糖とケトン体
脳は、燃料をためておけない
脳は、ふだんブドウ糖を主な燃料にしています。そして、ブドウ糖をほとんど蓄えておくことができません。血糖が急に下がると、数十分で脳の働きが落ちていきます。
ケトン体は、作ったその場で使われる燃料
食べられない時間が続くと、肝臓は、からだの脂肪を分解してケトン体を作ります。ケトン体は血液に乗って運ばれ、脳や筋肉の燃料になります。いわば、ブドウ糖が足りないときの予備の燃料です。
けれども、ケトン体は、脂肪やグリコーゲンのように、からだにためておくことはできません。必要なときに肝臓が作り、作られたそばから使われていく燃料です(肝臓自身は、自分で作ったケトン体を燃料に使えません)。
ケトン体だけで、脳は生きていけるか
いいえ、生きていけません。
人が5〜6週間ものあいだ絶食したときの記録では、脳が使った燃料のうち、ケトン体は6割ほどで、残りはブドウ糖などでした。どれほど長く食べられなくても、脳は、ブドウ糖を必要とし続けます。赤血球も、ブドウ糖しか使えません。
食べられないとき、からだは、アミノ酸(筋肉などのたんぱく質を分解したもの)や、脂肪の一部(グリセロール)、乳酸から、ブドウ糖を作り出します(糖新生)。ネコさんは、もともとこの糖新生がとても盛んな動物で、一晩食べないだけでも、ブドウ糖の多くを糖新生で作っています。ワンちゃんは、人より、血液の中のケトン体が上がりにくい動物です。
つまり、ケトン体は脳の燃料を助けるものであって、ブドウ糖の代わりにはなりません。
燃料があっても、燃やす道具がなければ動かない
ケトン体を作るにも、ブドウ糖やケトン体を脳の中で燃やすにも、たくさんの栄養素が必要です。
- カルニチン
からだの脂肪(長い脂肪酸)を、燃やす場所(ミトコンドリア)へ運ぶ。中鎖脂肪(MCT)は、カルニチンがなくても運び込まれる。 - ビタミンB2・ナイアシン・パントテン酸
脂肪酸を分解して、ケトン体の元を作る。パントテン酸は、燃料を燃やす回路の入口で必要な「コエンザイムA」の材料。 - ビタミンB1・B2・ナイアシン・パントテン酸・マグネシウム
ブドウ糖やケトン体を、脳の細胞の中で燃やして、エネルギーに変える。
パントテン酸の働きを薬で止めたワンちゃんの実験では、低血糖とアンモニアの上昇が起き、昏睡に陥りました。パントテン酸をいっしょに与えたワンちゃんでは、それが防がれていました(薬で起こした特別な不足の実験です)。
燃料があっても、燃やす道具がなければ、脳はエネルギーを作れません。 ビタミンB群とマグネシウムは、脳の燃料を、脳のエネルギーに変える仕事道具なのです。
中鎖脂肪(MCT)
中鎖脂肪(MCT)の油は、消化されると、肝臓へまっすぐ運ばれ、ケトン体を作りやすい脂肪です(研究で使われたのは、主に炭素の数が8と10の中鎖脂肪酸を含むMCTの油です。ココナッツ油は成分の割合が違い、同じものではありません)。
この中鎖脂肪を、ワンちゃんのごはんに足した研究があります。
- てんかんのワンちゃん(1)
抗てんかん薬を飲んでいる21頭で、中鎖脂肪を加えたごはんと、加えないごはんを、それぞれ3か月ずつ食べてもらった。中鎖脂肪のごはんの時期に、3頭で発作がなくなり、7頭で発作が半分以下になった。 - てんかんのワンちゃん(2)
別の28頭で、いつものごはんに中鎖脂肪の油を足したところ、発作の回数と、発作のあった日数が減った。2頭で発作がなくなった。 - 高齢のワンちゃん
中鎖脂肪を加えたごはんを8か月食べたビーグルで、学習の課題の成績が良くなった。難しい課題ほど、差が大きかった。
ただし、すべての子に効いたわけではありません(2つ目の研究では、28頭のうち11頭は発作が変わらないか増えていました)。どの研究も、抗てんかん薬を変えずに行われたものです。ネコさんの研究は、まだありません。脂肪なので、急にたくさん足すとお腹がゆるくなることがあり、膵臓の病気をしたことがある子は、とくに気をつけます。少しずつ慣らしていきます。
燃料が切れると、脳は傷つく
脳がいちばん恐れるのは、燃料が切れることです。
血糖がとても低くなり、脳の働きが止まる(脳波が平らになる)ほどの状態が30分ほど続くと、大脳の表面や海馬(記憶をつかさどる場所)の神経細胞が死んでしまうことが、実験動物で確かめられています。インスリンを出し続ける膵臓の腫瘍(インスリノーマ)のワンちゃんで、大脳の表面の神経細胞が傷ついていたという報告もあります。
神経細胞は、ほとんど作り直されません。燃料切れで失った神経細胞は、戻ってこないのです。
とくに気をつけたいのが、生まれて間もない子犬・子猫です。からだが小さく、ブドウ糖をたくさん必要とするのに、肝臓や筋肉の蓄え(グリコーゲン)も、ブドウ糖を作る材料も、まだ少ないのです。早く生まれた子、小さく生まれた子、具合の悪い子、体が冷えた子では、とくに血糖が下がりやすくなります。
成熟していないからだに無理のない栄養バランスで、欲しいときに欲しいだけを食べていただくこと、そして体を冷やさない工夫が予防の基本です。
第4章 水分と、皮下輸液
脱水は、脳の働きを乱す
からだの水分が足りなくなると、血液が濃くなり、脳への血の流れが落ちます。そして、腎臓や肝臓が、アンモニアや老廃物を捨てる力も落ちます。
ナトリウム・カルシウム・マグネシウムなど、体液に溶けているミネラルの急な乱れは、脳そのものの病気でなくても、けいれん(反応性発作)を起こす代表的な原因です。獣医学でも、肝性脳症を悪くする引き金の1つに、脱水が挙げられています。
水分は、ごはんといっしょに
とくにネコさんは、もともと砂漠で暮らしていた動物の子孫で、食べ物から水分をとってきました。飲み水だけでは、十分な水分にならないことがあります。
- ドライフードは、ぬるま湯でふやかす
- ウェットフードや、手作りのごはんで、水分の多い食事にする
- スープや煮汁を、ごはんにかける
当店では、ごはんは水分多めが必須とお伝えしています。そのうえで、ふらつきや飲み込みにくさがある子は、ペースト状・とろみのある形など、その子が食べやすい形に工夫してください。
皮下輸液
それでも水分が足りない子、重い症状の子、高齢の子には、お家での皮下輸液を考えていただきたいと思います。
口から飲む水分は、胃や腸を通ってから吸収されます。食事の前後にたくさん飲めば、胃液を薄め、消化の妨げにもなると当店は考えています。皮下輸液は、皮膚の下に入れた液体が、ゆっくりと血液へ吸収されていきます。胃腸を通らずに、からだに水分を届けることができるのです。
液の種類・量・回数は、その子の状態(脱水の程度、心臓や腎臓の病気があるかなど)に合わせて決めます。とくに心臓の病気がある子では、入れすぎが心臓の負担になるので気をつけてください。
皮下輸液の液の選び方や、お家での行い方は、「重い食欲不振のために」のページでくわしくお話ししています。
第5章 腸を整えて、アンモニアを脳に送らない
消化しきれなかったものは、腸で腐る
食べたたんぱく質は、本来、小腸で消化され、アミノ酸として吸収されます。ところが、消化しきれなかったたんぱく質は、そのまま大腸へ流れていきます。そこで、腸内の細菌によって分解され、腐敗が起きます。
腐敗でできるのは、次のようなものです。
- アンモニア
- 硫化水素などのガス
- インドール・スカトール(便のにおいのもと)
- フェノール・クレゾールなどの物質
- アミン類
「便で出せば済む」わけではない
腐敗でできたものは、便といっしょに出ていく前に、大腸の壁から吸収されて、血液に入ります。
人で、標識をつけた卵のたんぱく質を食べてもらった研究があります。加熱した卵のたんぱく質では、約6%が小腸で吸収されずに大腸へ流れ、生の卵のたんぱく質では約35%が流れていました。そして、大腸で腐敗してできたものは、尿から回収されました。 便として出る前に、からだに吸収されていたのです。便が大腸にとどまる時間が長い人ほど、尿の中のたんぱく質由来の物質が多いという研究もあります。
吸収されたものは、門脈という血管を通って、まず肝臓に運ばれ、解毒されます。けれども、腐敗でできるものが多すぎたり、肝臓の力が落ちていたりすると、処理しきれなかったものが、全身の血液に溶け込んでいきます。

血液から、脳へ
- アンモニア
関所(血液脳関門)を通り抜け、脳の中のアストロサイトをむくませる。ぼんやりする、頭を押しつける、けいれん、などの症状を起こす(肝性脳症)。ワンちゃん・ネコさんで確かめられている。 - 腎臓が捨てきれなくなった腸由来の物質(インドキシル硫酸など)
腎臓病のワンちゃん・ネコさんでは、病気が進むほど血液の中で高くなる。人やネズミの研究では、関所を傷め、脳の働きに影響することが報告されている。 - 腸から漏れる細菌の毒素
腸の守りが弱ると血液に入り、からだに炎症を起こす。ネズミの研究では、脳の掃除役(ミクログリア)を興奮させ、脳の炎症が長く続いた。
アンモニアは、すでにワンちゃん・ネコさんで脳を傷めることが分かっている物質です。ほかの物質も、人や実験動物で、脳への影響が研究されています。腸で腐敗したものは、肝臓を越え、血液を巡り、関所を越えて、脳に届きうるのです。食べ物が脳の症状の引き金になる道すじの1つが、ここにあります。
アンモニアを脳に送らないために
肝性脳症の手当ての柱は、獣医学でもはっきりしています。
- 腸でアンモニアを作らせない・吸収させない
- 便通を保つ(便秘は引き金になる)
- 脱水を防ぐ
- 腸内細菌のバランスを整える
- たんぱく質は、量を極端に減らさず、質を上げる
これは、肝臓の病気の子だけの話ではありません。からだの中で生まれる悪いものを、脳に送らないための基本です。
当店が、消化酵素を使って、半分消化したような状態のごはんをお勧めしているのは、このためです。小腸でしっかり消化・吸収できる形で食べていただくことで、大腸で腐敗するものを減らし、からだに届く栄養を増やせると、当店は考えています。
てんかんのワンちゃんの腸内細菌を調べた研究では、健康なワンちゃんに比べて、脳のブレーキ役の物質(GABA)や、腸を守る物質(短鎖脂肪酸)を作る菌が少なかったと報告されています。
お腹を整えることは、脳を守ることにつながっています。からだは1つです。
第6章 お家の空気と暮らし ― 入れない工夫
ごはんを整えても、からだの外から悪いものが入り続けていれば、脳を守りきることはできません。「脳のしくみと、脳を傷めるもの」のページでお話ししたものを、暮らしの中で減らしていきましょう。
- 空気
汚れた空気の中で暮らすワンちゃんの脳に、炎症が起きていたという研究がある。空気清浄機を使い、大気の汚れがひどい日(PM2.5・黄砂・光化学オキシダント)は窓を閉め、散歩の時間を調整する。 - 日用品
香りの強い柔軟剤・芳香剤・消臭スプレー、殺虫剤をなるべく使わない。 - 衣替え
防虫剤を使った衣類は、しまう前・出したあとに、風を通してからにする。衣替えの季節に、ふらつきやふるえが出る子を、当店は何度も見てきた。 - カビ
カビたパン・チーズ・果物、生ごみ、堆肥は、口の届かない所へ。 - 虫よけの薬
ノミ・ダニの薬の中には、神経に作用するものがある。ワンちゃん用の滴下薬を、ネコさんに使わない。
空気清浄機の置き場所、洗剤の選び方など、暮らしの細かな工夫は、「化学物質のために」のページでくわしくお話ししています。
第7章 発作のあと、からだに必要なもの ― ごはんとお水
発作が起きたときの基本の対応(時計を見る、動画を撮る、口に手を入れない、5分以上続くときはすぐに病院へ)は、「よくある脳の病気と、お薬のこと」のページでお話ししています。ここでは、発作のあとに、ごはんとお水がどんな役目を果たすのかをお話しします。
発作のあいだ、からだの中で起きていること
けいれん発作のあいだ、脳の神経細胞は激しく興奮し続け、全身の筋肉は強く縮み続けます。そのため、脳も筋肉も、ふだんよりたくさんの酸素とブドウ糖を必要とします。とくに、発作が長く続いたり、くり返したりすると、次のことが起きやすくなります。
- 乳酸がたまる
酸素が足りないまま筋肉が働くと、乳酸がたまる。発作で病院に来たワンちゃんの来院95回のうち、72.6%で血液の乳酸が高かった。 - 体温が上がる
筋肉が動き続けることで、体温が上がる。発作が止まらなかった(重積)ワンちゃんでは、体温の真ん中の値が39.4℃だった。 - 水分が失われる
よだれ、荒い呼吸、体温の上昇で、からだの水分が失われる。 - 血糖が乱れる
長い発作では、ブドウ糖の需要が増え、血糖が下がってくることがある。
発作のあとに、とてもお腹をすかせたり、のどの渇きを訴えたりする子がいます(てんかんの国際的な専門家の会の文書にも、発作のあとの様子として書かれています)。そのしくみは、まだ十分には分かっていません。けれども、発作のあいだに、からだが大きな負担を受けていることは確かです。
お水の役目
- 失われた水分を補う
- 十分な水分は、血液の流れと、肝臓や腎臓のふだんの働きを保つのに欠かせない
ごはんの役目
- 脳の燃料(ブドウ糖)を補い、燃料切れを防ぐ
低い血糖そのものが、次の発作の引き金になることがある。とくに、小さな子、インスリンを使っている子では気をつける。 - 燃料を燃やすための仕事道具(ビタミンB群・マグネシウム)を届ける
発作のあとの、ごはんとお水の与え方
心配で、すぐに何かを口に入れてあげたくなるものです。けれども、順番があります。
- 飲み込む力が戻るのを待つ
発作のすぐあとは、飲み込む力が戻っていないことがある。むせて気管に入らないよう、意識がはっきりし、自分で頭を持ち上げられるようになるまで待つ。そのあいだは、静かで涼しい場所で休ませる。 - まず、少しのお水から
ぬるま湯を、少しずつ。一度にたくさん飲むと吐くことがあるので、時間をあけて何回かに分ける。 - 次に、少しのごはん
水分の多い、消化しやすいごはんを少しずつ。いつものごはんをふやかしたり、スープを加えたりする。 - 記録する
発作の前に、何をいつ食べたか、どのくらい食べていない時間があったかは、低血糖など脳の外の原因を見分ける大事な手がかりになる。発作のあとの食欲や飲む量も、書き留めておく。
臭化カリウムを飲んでいる子は、ごはんの切り替えで塩分の量が急に変わると、お薬の効き方が大きく変わり、発作が戻ったり、反対に中毒になったりすることがあります。ごはんを切り替えるときは、かかりつけの先生に、血液の中の薬の濃度を測ってもらいながら進めてください。
安全メモ
発作が5分以上続くとき、発作のあと意識が戻らないまま次の発作が起きるときは、すぐに病院へ。通院できない場合は、ご連絡ください。
フェレットの低血糖発作
フェレットちゃんに多いインスリノーマは、膵臓のインスリンを出す細胞の腫瘍です。インスリンが出続けるため、血糖が下がり、脳の燃料が切れていきます。そのため、ぼんやりする・よだれが出る・前足で口をかく・後ろ足の力が抜ける、といった症状から、進むとけいれんを起こします。燃料切れが長く続いたりくり返したりすれば、第3章でお話ししたように、脳の神経細胞が傷ついていきます。
お家でしていただきたいこと
- ごはんは、回数だけでなく中身を
フェレットちゃんの胃腸は、食べたものが3〜4時間ほどで通り過ぎてしまう。食べられない時間が長くなると、すぐに血糖が下がる。けれども、ごはんそのものに足りないものがあれば、回数を増やしても解決しない。1食ごとの足りない栄養をなくし、消化に配慮した食材の組み立てで、少しでもお腹を通る時間を遅らせる工夫を(いつでも食べられる環境は、そのままに)。 - とくに、遊ぶ前と、寝起きに食べていただく
動けばブドウ糖を使い、寝ているあいだは食べていない時間が続くから。目安は4時間おき。症状が重い子は、夜のあいだにも。 - 質の良いたんぱく質を中心に、消化の良いごはんを
血糖をゆっくり保つため。腸の通りが速いフェレットちゃんには、消化のよい良質な糖質も、一定の量が必要だと当店は考えています。 - 甘いおやつは控える
甘いものは血糖を急に上げ、そのあとインスリンが多く出て、かえって血糖を下げてしまうから。 - 発作に備えて、はちみつ(またはシロップ)を手元に
けいれんしている最中は、口に手を入れない。けいれんが止まり、安全に口元に触れられるようになってから、はちみつをごく少量、歯ぐきに薄く塗る。ぐったりして食べられないときも同じ。口の中に流し込まない。意識が戻ったら、すぐにごはんを食べていただく。糖だけでは、すぐにまた血糖が下がってしまうから。
意識が戻らない・何度もくり返すときは、すぐに病院へ。通院できない場合は、ご連絡ください。
むすび 脳は、今日のごはんでできている
脳の中には、リンパ管がありません。脳を包む液体の流れなども助けていますが、ほかの臓器のように不要なものをリンパの流れで運び出すことができず、脳の中で生まれた不要なものの片づけと解毒は、グリア細胞に大きく頼っています。そして、神経細胞は、ほとんど作り直されません。
それは、一度脳に届いてしまった悪いものは片づけにくく、一度失った神経細胞は戻ってこない、ということです。病気が見つかってから治そうとしても、取り戻せないものがあるのです。
だからこそ、脳を守るために、毎日、お家でできることを続けていただきたいのです。
- 燃料を届ける
ブドウ糖と、予備の燃料になるケトン体。 - 材料を届ける
良質で、足りるだけの量のたんぱく質と、新鮮な脂肪。 - 仕事道具を補う
ビタミンB群とミネラル。既製品のフードでも、手作りのごはんでも、補うことを基本に。 - 錆びから守る
いろいろな抗酸化の栄養と、肝臓を支えること。 - 水分を届ける
ごはんは水分多めに。足りない子には皮下輸液を。 - 腸を整える
消化しやすいごはんで、腐敗したものを脳に送らない。 - 悪いものを入れない
空気と暮らしを見直す。
どれも、特別なことではありません。けれども獣医療にはできないことばかりです。毎日続けることで、脳の病気を遠ざけ、お薬に頼る量を減らしていく力になると、当店は考えています。
脳のことで心配なことがあれば、いつでもご相談ください。
脳のためのサプリ・お水・健康茶
毎日のごはんに合わせる、基本の栄養補助食品。ルンブルQ
コエンザイムQ10を含む栄養補助食品。テラカニス ハーバルヒーローズ ブレイブハート(猫用・犬用)
ハーブの栄養補助食品。アルティジャーノ 液体酵素
低血糖の時も。MRN-100 高機能π(パイ)ウォーター
発作時のお水。タヒボNFD(健康茶)
NinnaNannaの健康茶。
これらは治療薬ではなく、獣医さんの治療に代わるものではありません。持病があったり、治療中のお薬がある場合は、原材料と使い方をご確認のうえ、かかりつけの先生にもご相談ください。
*NinnaNanna(ニンナナンナ)では、シッポを持つ家族の総称としてシッポちゃんと呼びます。
また 犬 をワンちゃん、猫 をネコさんと敬意を以て表現しています。



