症状別サプリメント/心臓のために


心臓のために ― ネコさん編

心臓のために ― 犬と猫では、壊れ方がまるで違います
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休まない臓器

心臓は、生まれる前から、止まるその瞬間まで、一度も休みません。

ネコさんの心臓は、1分間におよそ140〜220回(目安です)。1日にすれば、20万回を超えます。 私たちが眠っているあいだも、我が子の胸の中では、小さな筋肉の塊が打ち続けています。

「心臓に雑音があります」「心筋が厚くなっています」

そう言われた日から、飼い主さんの毎日は変わってしまいます。目の前の我が子はいつもどおり元気なのに、心配だけが増えていく。

そして、ネコさんの心臓の病気には、もうひとつ辛いところがあります。

ほとんどの子が、症状を見せないのです。

このページは、その不安を「今日からできること」に変えるために書きました。お伝えしたいのは、たった3つです。

  • 心臓は、ミネラルとタウリンとビタミンで動いているだからこそ、ごはんで支えることができます。
  • 心臓のお薬のいくつかは、その心臓を動かしているものを、体から出してしまうとくに利尿剤です。これは当店の考えではなく、お薬の説明書に書かれていることです。
  • 私たちがしたいのは、お薬を否定することではありませんお薬を取り入れるまでの時間を、できるだけ安全に、長くすることです。

第1章 心臓のしくみ ― 4つの部屋と、4枚の扉

まず知っていただきたいのは、心臓がどんな形をしていて、何をしているか、です。難しい言葉が続きますが、詳しく覚えていただく必要はありません。

心臓には、部屋が4つあります。

右心房 → 右心室 → 肺 → 左心房 → 左心室 → 全身

血液は、この順に、一方通行で流れていきます。部屋と部屋のあいだには扉があり、開いて血液を通したあと、きちんと閉じます。閉じるから、血液は戻りません。

僧帽弁(左心房と左心室のあいだ)、三尖弁(右心房と右心室のあいだ)、大動脈弁(左心室の出口)、肺動脈弁(右心室の出口)。

ワンちゃんの心臓の病気は、この「扉」が傷む病気が主役です。

けれどネコさんは違います。ネコさんで主役になるのは、部屋の「壁」―― 心臓の筋肉そのものです。

ここでひとつ、覚えておいていただきたいことがあります。

左心房は、肺から帰ってきた血液が最初に入る部屋です。

この部屋が大きくなることが、ネコさんの心臓の病気では、いちばんの分かれ目になります。第5章と第14章で、もう1度お話しします。

猫の心臓と血液の流れ。4つの部屋と4枚の弁、肺から帰った血液が入る左心房

第2章 心臓を動かしているのは、ミネラルです

心臓は、脳から「動け」と命令されて動いているわけではありません。心臓は、自分で電気を起こして、自分で動いています。

では、その電気は何が作っているのでしょうか。ミネラルです。

電気を帯びたミネラルの粒(イオン)が細胞を出入りして電流が生まれ、その電流が心臓の筋肉を縮めたり、ゆるめたりしています。

  • ナトリウム 細胞の中へ流れ込んで、興奮のきっかけを作る
  • カルシウム 流れ込んで、心臓の筋肉を縮める(実際に力を出しているのは、これです)
  • カリウム 細胞の外へ出ることで、筋肉をゆるめる
  • マグネシウム この出入りを調整する門番

4つのうち、どれが欠けても、心臓のリズムは乱れます。とくにマグネシウムは、忘れられがちです。

腎臓には、こし出したカリウムを尿へ捨てる出口があります。マグネシウムは、その出口をふさぐ栓の役目をしています。 栓がゆるむと、カリウムは尿へ流れ出てしまいます。 いくら補っても、その分が尿から出ていき、血液中のカリウムは上がってきません。

マグネシウムが足りていないときは、先にそちらを満たさなければ、カリウムは満たせません。

心臓が縮むのはカルシウム、ゆるむのはカリウム。

きっかけを作るのがナトリウムで、その出入りを整えるのがマグネシウムです。

★そして、ネコさんの心臓の病気は「縮む」ことより「ゆるむ」ことが苦手になる病気です。ゆるませる側のカリウムと、その門番のマグネシウムは、とくに切らせません。

この4つの名前を、どうか覚えておいてください。第10章で、そのまま出てきます。

心臓を動かす4つのミネラル。ナトリウム・カルシウム・カリウム・マグネシウム

第3章 もうひとつ、心臓に欠かせないもの ― タウリン

「タウリンは目に良い栄養だ」

そう聞いたことのある方が、多いのではないでしょうか。

けれど、タウリンをいちばん欲しがっているのは、心臓です。

心臓の中にある遊離アミノ酸の、50%以上をタウリンが占めています。これほど偏って存在している栄養素は、ほかにありません。

★ネコさんは、必要な量のタウリンを自分で作ることができません

ここが、ネコさんとワンちゃんの決定的な違いです。

ワンちゃんは、メチオニンとシステインという2つのアミノ酸からタウリンを作れます。

けれどネコさんは、作るための酵素をごくわずかしか持っていません。(システインジオキシゲナーゼ、システイン硫酸デカルボキシラーゼという酵素です)

まったく作れないわけではありませんが、作る力がとても弱く、必要な量には届きません。ですから、ごはんから摂るしかないのです。

そのうえネコさんは、胆汁酸と結びつけるために、タウリンを大量に使います。

  • 体のコレステロールの約50%は、胆汁酸に変えられて体の外へ出ていきます。
  • けれど、そのままではほとんど分泌されません。タウリンと結びついて、はじめて腸と肝臓を巡り出します。
  • 胆汁酸の95%は肝臓に戻って再び使われますが、腸の状態が悪ければ、この巡りが崩れ、失う量が増えます。

作れないうえに、大量に使う。これがネコさんにとってのタウリンです。

ですから、腸を整えることが、そのままタウリンを守ることになります。

タウリンは、心臓で何をしているのか

タウリンは、心臓の筋肉が縮む力を高めます。力強く縮めば、1回で送り出せる血液の量が増え、心臓は打つ回数を減らせます。 ゆっくり働けるようになるのです。

さらに交感神経の暴走を防ぎ、心臓の筋肉が過剰に縮むことを抑えます。

タウリンは、心臓に「もっと働け」と言う栄養ではありません。

「そんなに急がなくていい」と言ってくれる栄養です。

★1987年に、何が起きたか

40年近く前、アメリカでひとつの発見がありました。

市販のキャットフードを食べていたネコさん21頭を調べたところ、血液中のタウリンが低く、心臓の筋肉の働きが落ちていました。心臓が広がって薄くなり、送り出す力が弱ってしまう型の心筋症です。

タウリンを口から補ったところ、血液中のタウリンが上がり、左心室の働きが正常に戻りました。

この発見の前まで、加工されたペットフードが主食の国では、この病気がネコさんの心臓死のいちばんの原因でした。

発見を受けてフードが改良され、AAFCO(アメリカ飼料検査官協会)が最低量を定めた結果、この型の心筋症は激減しました。

ごはんの栄養がひとつ足りないだけで、心臓は壊れます。

そして、それを補うと戻ることがある。

それが、40年近く前に確かめられ、世界中のキャットフードを作り変えた事実です。

このページでお伝えしたいことは、ほとんどこの一行に尽きます。

いまは、もう心配ないのでしょうか

決まりができて、キャットフードにはタウリンが加えられました。それでも、次の場合には足りなくなることがあります。

  • 手作りごはんで、タウリンを意識していない場合タウリンは動物性の食材にしか、まとまって含まれていません。 しかも水に溶け、加熱でも失われます。 ゆで汁に流れ出てしまいます。
  • 缶詰の加熱殺菌でタウリンが分解されうるという報告があります(※一方で、押し出し成形では減らなかったという研究もあります。作り方の条件で大きく違うようです)
  • 腸の状態が悪い子 胆汁酸と一緒に失われる量が増えます。
  • 年を重ねた子

2023年、人では60代の方の血液中のタウリンが乳幼児に比べて8割ほど少なく、マウスやアカゲザルでも加齢とともに減っていたという報告が、大きな話題になりました。

ところが2025年、この報告は覆されました。 アメリカの国立衛生研究所が調べ直したところ、血液中のタウリンは加齢で減っておらず、増えるか、変わらなかったという結果でした。

ですから「年をとるとタウリンが減る」とは、いまのところ言い切れません。それでも当店は、年を重ねた子ほど、タウリンを意識していただきたいと考えています。血液の中の量が減らないことと、心臓が必要とする量をまかなえているかどうかは、別の話だからです。

タウリンは、肝臓でも活躍する栄養です。 肝機能や肝臓回りの不具合を抱えるネコさんの数を思えば、後回しにできる栄養素ではないと、私たちは考えています。

タウリンは、腎臓の発育にも欠かせません。 心臓と腎臓は、いつもセットです。

猫は必要な量のタウリンを自分で作れない。作る力が弱く、胆汁酸で失う

第4章 いちばん多い病気 ― 心筋が厚くなる

ネコさんの心臓の病気で主役になるのは、肥大型心筋症です。心臓の筋肉、とくに左心室の壁が厚くなっていく病気です。

どのくらいの子にあるか

  • 一般のネコさんの、およそ15%
  • 高齢のネコさんでは、最大29%

決して珍しい病気ではありません。けれど、そのほとんどが、症状のないまま過ごしています。

症状のない心筋症のネコさんを5年間追いかけた調査では、心臓が原因で亡くなった子が約23%でした。裏を返せば、残るおよそ77%の子は、5年のあいだ心臓では亡くなっていません。

「見つかった=もうだめ」ではないのです。

厚くなると、なぜ困るのか

筋肉が厚くなると、一見「力強くなった」ように思えます。けれど、そうではありません。

厚くなった壁は、硬くなります。硬くなると、広がれません。

心臓は、縮んで血液を送り出す前に、広がって血液を受け入れなければなりません。 広がれなければ、受け入れられる量が減ります。

受け入れきれなかった血液は、手前の左心房にたまります。 左心房はふくらみ、やがて行き場をなくした血液が肺にあふれます。 これが肺水腫です。

だから、左心房の大きさが、いちばんの分かれ目になるのです。

遺伝だけでは説明がつきません

なりやすい猫種として、メインクーン、ラグドール、ブリティッシュショートヘア、ペルシャ、ベンガル、スフィンクス、ノルウェージャンフォレストキャット、バーマンが知られています。

ただし、原因となる遺伝子の変異が見つかっているのは、メインクーンとラグドールの2つだけです。

そして重要なことに、その変異を持っていないメインクーンやラグドールでも、心筋症になった報告があります。

つまり、見つかっている2つの変異だけでは、説明しきれないということです。

心雑音がないのに、重い心筋症のことがあります

ここは、ぜひ知っておいていただきたいところです。

ネコさんは、心雑音がないのに、重い心筋症を抱えていることがあります。逆に、健康な子に生理的な雑音が聞こえることも珍しくありません。

聴診だけでは、ネコさんの心筋症は見つけられません。 心臓の超音波検査を受けていなければ、「無い」とは言い切れないのです。

★大きなネコさんは、「厚い」と言われやすいのです

メインクーン、ノルウェージャンフォレストキャット、ラグドール。体の大きな猫種の飼い主さんに、知っておいていただきたいことがあります。

心筋症かどうかの判断には、左心室の壁の厚さが6mmを超えるかどうかが、よく目安に使われます。

けれど、この6mmという数字は、体の大きさを考えに入れていません。

健康なネコさん150頭を詳しく調べた研究と、19,866頭・56,169頭という大規模な調査から、次のことが分かっています。

  • 体重は、心臓の大きさの測定値に、はっきりと影響します影響の中心は体重で、猫種・年齢・性別の違いは、体重をそろえると小さくなります。
  • ★ただし、体が大きくなっても、心臓の壁は同じ割合では厚くなりません健康なネコさんでは、体重が2倍になっても、左心室の壁の厚さが増えるのは2割ほどでした。

そして、研究者はこう述べています。

  • 固定の基準値を一律に使うと、小さなネコさんでは見逃しが、
    大きなネコさんでは「厚い」と判定されすぎることが起こりうる
  • 体重で補正した基準を使うべきで、とくに小さい猫と大きい猫では。これは肥大型心筋症のスクリーニング検査にとくに関わる

大きなネコさんが「壁が厚い」と言われたときは、

体重を考えに入れた判断かどうかを、確かめてみてください。

★ここからは、当店の考えです

ワンちゃんとネコさんでは、体の大きさの成り立ちが違います。

ワンちゃんの原種であるオオカミは、およそ12〜80kg(亜種や地域による差がとても大きい)。ネコさんの原種であるアフリカヤマネコは、3〜6.5kgです。

オオカミには、もともと大きな体の前例があります。

けれどネコさんの原種は、どれも小さいのです。標準的な体格のネコさんは、原種とあまり変わっていません。ところが大型種になると、その2倍を超えます。

そこに無理はないのだろうか ―― 当店は、そう考えています。

※これは当店の考えです。 「大型のネコさんの心臓は体に見合っていない」と示した研究は、見つかりませんでした。 確かめられているのは、「体が大きくなっても、心臓の壁は比例しては厚くならない」ことと、 「だから固定の基準値では判定を誤りうる」ことまでです。

それでも、大きなネコさんの心臓に、余分な負担をかけたくはありません。

第5章 もうひとつ多い病気 ― 心筋が硬くなる

「肥大型心筋症ではありません」と言われたら。

そのとき、多くの飼い主さんが行き場をなくします。「ではうちの子は何なのだろう」と。

ネコさんの心筋症は、5つの型に分けられています。

心臓の超音波検査に紹介されたネコさんの中では、肥大型(HCM)が約60%。拘束型(RCM)と、どの型にも当てはめにくい非特異的表現型が、あわせて20〜30%。拡張型(DCM)と、不整脈原性右室心筋症(ARVC)は、まれです。

※この割合は「一般のネコさんの有病率」ではなく、検査に紹介された子の中での構成比です。

★つまり、5頭に1頭から3頭に1頭は、拘束型か、どの型にも当てはめにくい型なのです。

拘束型心筋症とは

心筋が硬くなって、広がらなくなる病気です。

肥大型は「厚くなって広がれない」病気でしたが、拘束型は厚くならないのに広がれないのです。

心筋型と呼ばれる型では、左心室の寸法も壁の厚さも正常です。それでも、左心房(または両心房)が大きくなります。

だから、「壁の厚さ6mm」という基準だけでは拾えません。

※もうひとつ、心内膜心筋型と呼ばれる型では、瘢痕(硬い組織)や、壁の形の異常、心臓の先が薄くなる、といった変化が出ます。「厚くならない」と一律には言えません。

飼い主さんにとって、大切なこと

型が違っても、やるべきことは大きく変わりません。

見るところは、左心房が大きくなっているかどうか。することは、家で呼吸の数を数えること、血の塊に気をつけること、ごはんで支えること。どれも変わりません。

「肥大型ではない」と言われても、どうか手を離さないでください。見るところも、できることも、ほとんど同じなのです。

厚くなる心臓と、硬くなる心臓。肥大型心筋症と拘束型心筋症の違い

第6章 そのほかの、知っておいていただきたいこと

飼い主さんが「心臓」と結びつけられないまま見逃してしまうものを、短くお伝えします。

突然ぐったりする ― 心臓を包む膜に水がたまる

心臓は、膜に包まれています。その膜の中に液体がたくさんたまり、その圧力で心臓が広がれなくなると、心タンポナーデという危険な状態になります。(※液体がたまること自体と、心臓が広がれなくなることは、同じではありません。少量なら症状が出ないこともあります)

  • 元気がなくなる、ふらつく、失神する、倒れる
  • お腹がふくれる、歯ぐきが白い、呼吸が速い

ネコさんでは、心筋症が進んだときにも心膜に水がたまることがあります。

「急にぐったりした」は、心臓のことかもしれません。すぐに診てもらってください。

失神する ― 不整脈のこと

心臓のリズムが乱れると、脳に送られる血液が一瞬とだえて、倒れます。

★これは、てんかんの発作と間違われることがあります。

見分けるための手がかりがあります。ただし、これで決めつけることはできません。 どちらとも言えない倒れ方もありますし、両方を持っている子もいます。

  • ★目が覚めたあと心臓が原因のときは、すぐにいつもどおりに戻ります。 てんかんの発作のあとは、数分から数時間、ぼんやりしています。ここがいちばん分かりやすい違いです。
  • 倒れている時間心臓が原因のときは数秒から30秒ほどと短く、てんかんの発作は1分前後のことが多いです。
  • 起きる場面心臓が原因のときは、興奮したとき、咳のすぐあと、排尿・排便のあとに多く見られます。てんかんの発作は、休んでいるときや眠っているときにも起こります。
  • 前ぶれてんかんの発作では、そわそわする、隠れる、よだれが出るなどの前ぶれがあることが多いです。

★次の2つは、どちらでも起こります。見分けには使えません。

手足のつっぱりや、けいれんのような動き。 てんかんの発作でよく見られますが、心臓が原因で倒れたときにも起こります(脳に血液が届かなくなるためです)。おしっこや便をもらすこと。 これも、どちらでも起こります。

倒れたときの様子を、動画に撮っておいてください。 いちばんの手がかりになります。

生まれつきの心臓の病気

ネコさんの生まれつきの心臓の病気は、ワンちゃんほど多くはありません。知られているのは、次のようなものです。

  • 心室中隔欠損症左心室と右心室を隔てる壁に、穴が開いています。穴が小さければ生涯なにも起きないこともあり、大きければ心不全になります。
  • 房室中隔欠損症心房と心室を隔てる部分に穴が開き、弁の形にも異常があります。心臓の中で、きれいな血液と汚れた血液が混ざり合ってしまいます。

★ここで、大切なことをお伝えします。

生まれつきの心臓の病気は、多くの場合、健康診断やワクチンのときに心雑音が聞こえて見つかります。

ワンちゃんの例ですが、動脈管開存症という病気を調べた研究では、520頭のうち73.8%に、はっきりした症状がありませんでした。(※これはワンちゃんの、ひとつの病気についての数字です。 ネコさんの生まれつきの心臓の病気について、同じ割合を示すものではありません)

「元気だから大丈夫」とは限りません。だからこそ、子猫のうちに胸の音を聴いてもらう意味があります。

第7章 心臓が厚くなる ― 戻るものと、戻らないもの

「心臓が厚くなっています」と言われたとき、まず考えるべきは、「なぜ厚くなったのか」です。

厚くなる理由は、ひとつではありません。そして理由によって、その後がまったく違います。

理由があって厚くなった心臓

心臓に余分な仕事をさせる理由があると、心臓の筋肉は、その仕事に応えようとして厚くなります。

甲状腺機能亢進症(全身の代謝が上がり、心臓も速く強く働かされる)。高血圧(狭くなった血管に送り込むために、強く打つ必要がある)。貧血(薄い血液で酸素を運ぶために、たくさん送らなければならない)。そして、★血が濃すぎる、粘っている ―― いわゆる「ドロドロの血液」です。

こうした理由が取り除かれると、厚みが薄くなっていくことがあります。甲状腺の治療のあと、血圧が下がったあとに厚みが戻った例は、獣医療でも報告されています。

★高齢のネコさんで「心筋症」と言われたら、甲状腺の検査(T4)と血圧を、必ず確かめてください。

★血の粘りのこと

この「血の濃さ」「粘り」は、当店がとくに気にしているところです。

赤血球が増えすぎた状態(多血症)や、いつも脱水ぎみの子では、血液の粘りが上がります。粘れば、細い血管の流れが滞ります。 血の塊ができやすいことも、細い血管が傷むことも、獣医療でよく知られています。

では、そこから心臓の筋肉が厚くなるのか。

重い多血症の子で、そうなった症例の報告はあります。 けれど、ふつうの軽い脱水から心臓の筋肉が厚くなるというところまでは、確かめられていません。

ここから先は、当店の考えです。

粘った血液を細い血管へ押し込むには、より強い力が要ります。その力を出し続けることが、心臓にとって余分な仕事になっている ―― そう考えています。

ネコさんは、もともとお水をあまり飲みません。血の粘りは、お水とビタミン・ミネラルで整えます。ならば、今日からお家で、どの子も取り組めます。

筋肉そのものが作り変わってしまった心臓

遺伝子の異常で起こる肥大型心筋症では、心筋の細胞の並びそのものが乱れ、そこに線維という硬い組織が入り込みます。

筋肉が「太った」のではなく、「作り変わった」状態です。できてしまった線維は、元には戻りません。

※タウリン不足で起こる心筋症は、少し違います。心臓の壁が厚くなるのではなく、風船のように広がって、薄く伸びてしまうのです。同じ「心臓が大きい」でも、中身が逆になります。我が子がどちらのタイプかは、超音波の検査でしか分かりません。

だから、こう考えています

理由があって厚くなった心臓は、その理由が取り除かれると、薄くなっていくことがあります。

筋肉そのものが作り変わってしまった心臓は、戻すことよりも、これ以上進ませないことが目標になります。

そして、どちらであっても、心臓にかかる余分な負担を減らすことには意味があります。

からだは1つです。 心臓は要の臓器ですが、全身のすべてと繋がっていることを思い出しましょう。

飼い主さんが確かめられる手がかり

  • 甲状腺の検査(T4) 高齢のネコさんでは必ず確かめてください。
  • 血圧 高ければ、二次的な肥大の可能性があります。
  • 貧血がないか、逆に血が濃すぎないか 血液検査のヘマトクリットで分かります。
  • 脱水していないか お水を飲んでいるか、おしっこの色はどうか。
  • 年齢と猫種、そして体重(大きな子は「厚い」と出やすいことを、第4章でお話ししました)

ごはんの内訳と検査の結果から、心臓に掛かる負担を1つずつ探り出しましょう。お迷いの際はご遠慮なくお声がけください。

第8章 どこまでが「ごはんの時間」か

心筋症と言われた日、多くの飼い主さんが、その場でお薬の話をされます。

ここでは、世界の循環器の先生たちが決めた指針を、そのままお伝えします。

ネコさんの心筋症は、5つの段階に分けられています。

  • ステージA なりやすい猫種だが、心臓に異常は見つかっていない
  • ステージB1 症状はなく、心不全や血の塊のリスクも低い
  • ステージB2 症状はないが、リスクが高い
  • ステージC 心不全、または血の塊の症状が出た
  • ステージD 治療をしても心不全が治まらない

ここでいう「心不全の症状」とは

心不全とは、心臓が送り出す力に、体が必要とする量が追いつかなくなった状態です。行き場をなくした血液が手前で滞り、水があふれ出します。

  • 安静時の呼吸が速い、浅い いちばん早く出るサインです
  • 口を開けて呼吸する ネコさんがこれをしていたら、急いでください
  • 隠れて出てこない、動かない ネコさんは、苦しさを隠します
  • 食欲が落ちる。舌や歯ぐきが紫っぽい、白っぽい。胸やお腹に水がたまる
  • 後ろ足が急に動かなくなる、冷たい、痛がって鳴く 血の塊です(第14章)

★ネコさんでは、咳はあまり出ません。 咳が続くときは、心臓よりも喘息などの気管支の病気であることが多いとされています。

この中でいちばん早く、そしていちばん確かに出るのが「安静時の呼吸の数」です。

B1とB2を分ける、いちばんの物差しは「左心房の大きさ」です。

左心房が大きいほど、心不全と血の塊の危険が高くなります。 ほかに、ギャロップ音(余分な心音)、不整脈、左心房の動きの低下、極端な壁の厚み、心臓の中に見えるモヤモヤしたエコー(血流のよどみ)や血栓などが、リスクを高めるものとして挙げられています。

★ステージB1では、治療がすすめられていません

国際的な指針は、ステージB1について、はっきりと「治療は推奨しない」としています。

心筋症と言われただけで、あわててお薬を始める必要はありません。

これは当店の考えではなく、世界の循環器の先生たちが定めた指針です。

そして、ここがワンちゃんとの大きな違いです。

ワンちゃんでは、心臓が大きくなった段階(ステージB2)で、ピモベンダンというお薬が心不全までの期間を延ばすことが、大規模な試験で確かめられています。

けれどネコさんでは、症状のない段階で病気の進行を遅らせると証明されたお薬は、いまのところありません。

ACE阻害薬も、スピロノラクトンも、症状のない段階での有効性は示されていません。

ステージB2で推奨されているのは、家で呼吸の数を記録することです。

そして、左心房が大きくなっているなど、血の塊ができやすい子には、血を固まりにくくするお薬(クロピドグレル)がすすめられます。※B2のすべての子に、このお薬がすすめられるわけではありません。

つまり、こういうことです

ネコさんの心筋症には、「症状が出る前の時間」が長くあります。

その期間に、お薬でできることは、いまのところ多くありません。

>

だからこそ、その時間を、ごはんと環境に使っていただきたいのです。

>

私たちは、お薬を否定しているわけではありません。

お伝えしたいのは、お薬を取り入れるまでの時間を、

できるだけ安全に、長くできるということです。

心不全(ステージC)になれば、利尿剤が要ります。 肺や胸にたまった水を引かせられるのは、お薬だけです。そこは、しっかり助けてもらってください。

第9章 家で気づく ― 寝ている子の呼吸を数える

心臓の病気で、飼い主さんが家でできるいちばん簡単で確かなことは、寝ている我が子の呼吸を数えることです。

道具も費用も要りません。必要なのは、1分間と、書き留めるペンと紙だけです。

数え方

眠っているとき、または静かに休んでいるときの、1分間の呼吸の回数を数えます。

胸やお腹が上がって、下がって、これで1回です。

  • 正常は、1分間に15〜30回
  • この数字は、健康な子も、症状のない心筋症の子も、治療がうまくいっている心不全の子も、すべて同じです。

なぜ、これが効くのか

肺に水がたまり始めると、食欲の変化よりも先に、呼吸の数が増えます。

眠っているときの呼吸は、興奮や暑さ、運動の影響をほとんど受けません。変化があれば、それは体の中で起きていることを映しています。

★そして、ネコさんではこれが決定的です。

国際的な指針は、心不全のネコさんの治療について、こう書いています。

安静時の呼吸数が、1分間に30回未満に保たれるように、利尿剤の量を調整する

つまり、家で数えた数字が、お薬の量を決める物差しそのものになっているのです。

症状のないステージB2の段階から、記録することがすすめられています。

記録の仕方

1日1回、または週に1〜2回。できれば毎日同じ時間に。 大事なのは1回の数字ではなく、その子のふだんの値と、その動きです。元気なうちから数え始めるのが理想で、そうすれば「その子の普通」が分かります。

ネコさんは、苦しさを隠します。 うずくまって動かなくなったとき、もう始まっていることがあります。

数字は、隠せません。

寝ている猫の呼吸数の数え方と、1週間の記録表。正常は1分間に15〜30回

急ぐサイン

次のようなときは、迷わず動いてください。

  • 安静時の呼吸数が、1分間に40回を超えた状態が続いている
  • 口を開けて呼吸している(ネコさんでは、これだけで緊急です)
  • 舌や歯ぐきが紫っぽい、白っぽい
  • 後ろ足が急に動かなくなった、冷たい、激しく痛がる
  • うずくまって動かない、隠れて出てこない

すぐに病院へ向かってください。通院が難しい場合は、当店へご連絡ください。

第10章 お薬は、心臓を動かしているものを、体から出してしまう

まず、お薬が何のために出ているかを

お薬を否定するところから始めたくはありません。それぞれに、はっきりした目的があります。

  • 利尿剤(フロセミド、トラセミド)肺や胸にたまった水を引かせます。これができるのは、お薬だけです。
  • クロピドグレル血小板が集まるのを抑えて、血の塊ができにくくします。 血の塊を起こしたネコさんを調べた試験では、アスピリンより明らかに優れていました。
  • ACE阻害薬・ARB・スピロノラクトンRAA系(レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系)という、体が空回りさせてしまっている仕組みを抑えます。

そのうえで、知っておいていただきたいこと

お薬体から出ていく/乱れるもの
フロセミドカリウム↓ マグネシウム↓ ナトリウム↓ カルシウム↓
トラセミドカリウム↓(フロセミドよりさらに起きやすい) マグネシウム↓
スピロノラクトンカリウム↑(上がる側)
ACE阻害薬カリウム↑
ARB(テルミサルタン)カリウム↑ 赤血球数↓

※このほかに、利尿剤では水に溶けるビタミンB1も尿から失われると考えられています(人での研究と動物実験で確かめられています)。

★とくにネコさんでは、利尿剤の副作用が重く出やすいとされています。

ここで、第2章を思い出してください。

心臓を動かしているのは、ナトリウム・カルシウム・カリウム・マグネシウムでした。

心不全のいちばん基本のお薬である利尿剤が、その4つすべてを、体から出してしまいます。

カリウム、マグネシウム、ナトリウムが減ることは、お薬の説明書に書かれています。当店が考えていることではありません。

そして、指針にもこう書かれています。

低カリウム血症が確認されたら、自然の食材または市販のものから、食事にカリウムを補う

カリウムだけは、逆向きの2つがあります

飲んでいるお薬によって、やるべきことが正反対になります。

  • 利尿剤(フロセミド・トラセミド)を飲んでいる子 カリウムは減ります。
  • スピロノラクトン・ACE阻害薬・ARBを飲んでいる子/腎臓が弱っている子カリウムはたまります。たまりすぎると、不整脈や心停止を起こします。

ご自分の子がどちらなのかを、必ず確かめてください。 分からないときは、お薬の名前をお知らせいただければ、こちらで整理いたします。

マグネシウムは、ふつうの検査に入っていません

低マグネシウムがあると、カリウムをいくら補っても上がってきません。 第2章でお話しした、腎臓の出口の栓の話です。

不整脈も出やすくなります。そして問題は、ふつうの血液検査の項目に、マグネシウムが入っていないことです。(頼めば測っていただけますが、こちらから言わなければ、まず測られません)

検査に出てこないものは、足りていないことに誰も気づきません。

ビタミンB群のこと

ビタミンB群は、水に溶けます。余った分は、尿へ出ていきます。

とくにビタミンB1は、体に止めておける量がごくわずかで、毎日ごはんで補うしかありません。しかも熱と水に弱いので、加熱して作られたごはんでは、思うように残りません。

(※ビタミンB12のように、体にある程度ためておけるものもあります。B群がすべて同じではありません)

★ネコさんのビタミンB1の要求量は、ワンちゃん以上です。

そこへ、利尿剤が加わります。尿がたくさん出るということは、水に溶けるビタミンも一緒に出ていくということです。

ビタミンB1が足りなくなると、まず食欲が落ちます。 そして心電図に異常が出ます。

そして、B群はひとつでは働きません。

  • ビタミンB6がなければ、タウリンを作る力が落ちます。
  • ビタミンB2がなければ、そのB6が働ける形に変わりません。
  • B12と葉酸は、互いに組になって働きます。

だから当店は、B1だけ、B6だけ、ではなく、

「Bコンプレックス」としてごはんと一緒に食べていただくことが、いちばん安全だと考えています。

心臓の薬で体から出ていくものと、たまるもの。利尿剤とスピロノラクトン

第11章 ごはんで支える① ― 心臓の燃料と材料

タウリン

第3章でお話ししたとおりです。ネコさんは、必要な量のタウリンを自分で作ることができません。

そして、胆汁酸と結びつけるために、大量に使います。

補充しなければならない栄養素です。

L-カルニチン

心臓の筋肉は、主に脂肪を燃やして動いています。

その脂肪酸を、細胞の中のミトコンドリアへ運び込む「運び屋」が、L-カルニチンです。運び屋がいなければ、燃料があっても燃やせません。

体内でも作ることができますが、その量には限りがあります。

コエンザイムQ10

ミトコンドリアがエネルギーを作るときに、なくてはならない部品です。体の中でいちばん濃度が高いのは、心臓です。 次いで腎臓、肝臓、膵臓。体内でも作れますが、その力はやがて衰え、加齢とともに減っていきます。

人の心不全では、心臓の筋肉のコエンザイムQ10が枯渇していることが知られています。

オメガ3脂肪酸(EPA・DHA)

オメガ3とオメガ6は、主な役割が違います。

オメガ6から作られる物質には、炎症を起こし、体に「異常がある」と知らせるものが多くあります。オメガ3から作られる物質(レゾルビン、プロテクチンなど)には、起きてしまった炎症を、積極的に収束させる働きがあります。

どちらも必要です。 炎症が起きなければ体は危険に気づけず、収束させる力がなければ、炎症は終わりません。

★だから、量ではなく「割合」です。

オメガ3とオメガ6は、体の中で同じ酵素を取り合います。オメガ6が多ければ、その酵素はオメガ6の処理に使われ、オメガ3は順番が回ってきません。

人の栄養学では、現代の食事はオメガ6がオメガ3の20〜50倍とも言われ、望ましいのは4〜5倍程度とされています。(※ネコさん・ワンちゃんにとっての理想的な比率は、まだ定まっていません。AAFCOの基準では、オメガ6がオメガ3の30倍までです)

つまり、オメガ3を足すだけでは足りません。

オメガ6を減らすことが、同時に必要なのです。

当店は、オメガ9も含めて、お使いの油全体を見直していただくことをおすすめしています。

ここにも注意が要ります。「オメガ3を足そう」と油の量を増やせば、脂質そのものが増えます。 小さじ1杯がちょうど良い子もいれば、その量では消化不良を起こしてしまう子もいます。 必要な量は、その子によって違います。

心不全は、炎症の病気でもあるという見方があります。

心不全の子で、炎症を起こす物質が増えていることが報告されています。

炎症に関わる栄養は、オメガ3脂肪酸(EPA・DHA)だけではありません。あらゆる方向からこの力を支えることが重要と、私たちは考えます。

だからこそ当店は、炎症のもとになるものを、体に入れないことを大切に考えています。

第12章 ごはんで支える② ― 塩を減らしすぎない

「心臓が悪いから、塩分を控えてください」

そう言われた飼い主さんは、多いと思います。

けれど、減らしすぎてはいけません。 これは当店だけの考えではなく、いまの獣医療の側も同じ方向を向いています。

国際的な指針が、ネコさんについてはっきり書いているのは、次のことだけです。

  • 心不全が治まらない段階(ステージD)で、塩分の多い食品は避ける
  • ★痩せてきている子では、カロリーを確保することを、塩分制限より優先する
  • 低カリウム血症があれば、食事からカリウムを補う

それ以外に、ネコさんの心筋症で「減塩しなさい」という指針はありません。

なぜ、減らしすぎてはいけないのか

強い減塩は、RAA系を強く働かせます。

RAA系とは、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系という仕組みのことです。腎臓が「血圧が下がった」「塩と水が足りない」と感じ取ると、血管を締め、ナトリウムと水をため込ませる指令が次々に出されます。もともとは、出血などで血圧が下がったときに命を守るための仕組みです。

ところが心臓が弱っていると、この仕組みが働きっぱなしになります。心臓を楽にしようとしたことが、かえって心臓に負担をかける方向に働いてしまうのです。

当店の見方

ナトリウムは、体の水の量を決めています。足りなくなれば血液量が減り、腎臓を流れる血液も減ります。

老廃物を濾し出すには、流れる量が要ります。当店が「減らしすぎないで」と申し上げるのは、このためです。

もうひとつ、大切なことがあります。

AAFCOの基準を満たした総合栄養食は、はじめからナトリウムの量が決められています。私たち人間の食事とは、そもそも成り立ちが違うのです。(※おやつや、総合栄養食ではない食品は、この限りではありません)

塩分の摂りすぎが問題になる日本人の食生活と、同じように扱ってはいけません。

ネコさんの場合

ネコさんは、もともとお水をあまり飲みません。 そして、濃いおしっこを作る動物です。

ナトリウムが足りなくなれば、体は腎臓で取り戻そうとします。

ですから「減らせばよい」という一言では済みません。排除することがすべてではない、ということを、どうか覚えておいてください。

※これは、当店が20年以上のご相談で見てきたことに基づく考えです。

すぐに役立つこと

ナトリウムは、フードだけから入ってくるのではありません。おやつ、人の食べ物、そして「お薬を飲ませるために使う食べ物」からも入ります。

チーズやかつお節、ちくわでお薬を包む習慣は、想像以上の塩分になります。毎日のことですから、積み重なります。

ほかに置き換えられるものがないか、ぜひ探して差し上げてください。

カルシウムとマグネシウム

利尿剤を飲んでいる子では、カルシウムもマグネシウムも尿から出ていきます。血液検査でカルシウムが正常でも、体のカルシウムが足りていることにはなりません。

カルシウムが足りなくなると、体は骨を溶かして濃度を保つからです。検査の数値は正常のままで、足りていないことは出てきません。

カルシウムとマグネシウムは、吸収でも働きでも互いに関わり合っています。マグネシウムが足りないと、カルシウムも下がります。 セットでお考えください。

※腎臓のこと、カルシウムとリンのバランスのことは、犬猫フェレットの腎臓のためにでくわしくお話ししています。

第13章 既製品のフードだけでは足りない理由

「AAFCOの基準を満たした総合栄養食を食べさせているから、栄養は足りているはずです」

そうおっしゃる飼い主さんは、多くいらっしゃいます。

けれど、その基準が何を意味しているかを、ご存じでしょうか。

基準は「健康な子が、ふつうの毎日を送るための量」です

AAFCOの栄養基準は、実用的な最低量を定めたものです(カルシウムやリンなど、一部には上限もあります)。

基準が想定していないこと

AAFCOの最低量は、健康な動物が、ふつうの生活を送る場合を前提にしています。次のような子のことは、想定に入っていません。

  • 利尿剤を飲んでいる子カリウム・マグネシウム・カルシウム・ビタミンB1が、尿から出ていきます。
  • 下痢や嘔吐がある子 電解質と水に溶けるビタミンが失われます。
  • 腸の状態が悪い子 タウリンが胆汁酸と一緒に失われ、再び吸収されません。
  • 炎症がある子 消耗が増えます。
  • 高齢の子 吸収する力も、カルニチンやコエンザイムQ10を作る力も落ちてきます。
  • ★腎臓が弱っている子 ネコさんでは、心臓と腎臓が一緒に弱っていることがとても多いのです。

「足りている」という表示は、「その子にとって足りている」という意味ではないのです。

加熱で失われるもの

  • ビタミンB1は、熱と水にとくに弱いビタミンです。
  • タウリンも、加熱で分解されうると報告されています(※一方で、押し出し成形では減らなかったという2024年の研究もあります)。
  • ビタミンCも加熱で失われやすくなります。

メーカーは、失われる分を見込んで配合しています。けれど、その見込みは平均に対するものです。 目の前の我が子の消耗に合っているかどうかは、別の話です。

第14章 血と、血管と、リンパ

血液の粘り

「血液がドロドロ」という言い方は比喩ではなく、実際に測ることのできる値です。

血液の粘り(粘度)は、血漿そのものの粘り、ヘマトクリット(血液に占める赤血球の割合)、そして赤血球が、どれだけしなやかに形を変えられるか、の3つで決まります。

3つめが大切です。赤血球は、自分より細い毛細血管を通るとき、体を折りたたむようにして通り抜けます。 しなやかさが失われると、細い血管を通れなくなります。

そのしなやかさは細胞膜の質に左右され、細胞膜を作っているのは脂肪酸とビタミンとミネラルです。

体の側が整えば、血液の流れ方も変わってきます。 当店は、そう考えています。

★よどみは、塊になります ― 動脈血栓塞栓症

ネコさんの心臓の病気で、いちばん恐れられているのがこれです。

心臓の中に血の塊ができて、流れ出し、多くは後ろ足へ向かう大動脈の分かれ目に詰まってしまいます。

突然、後ろ足が動かなくなり、冷たくなり、肉球が白っぽく、あるいは紫っぽくなり、激しく痛がります。

心臓の病気があると分かっていなかった子に、これが最初の症状として起きることがあります。

怖い話をしたいわけではありません。お伝えしたいのは、血の塊は、左心房が大きくなって血流がよどむところから始まるということです。

第1章と第4章で「左心房の大きさが分かれ目になる」とお伝えしたのは、このためです。

血の塊を防ぐ方法として確かめられているのは、血を固まりにくくするお薬です。左心房が大きくなっているネコさんには、このお薬がすすめられています。

そのうえで、当店は、心臓に余分な負担をかけないこと、血をよどませないことにも、飼い主さんにできることがあると考えています。

血管の内側

血管の内張りである内皮細胞は、一酸化窒素という物質を出して、血管をゆるめています。

酸化ストレスが強いと、この一酸化窒素が壊されてしまいます。すると血管はゆるみにくくなります。

肥大型心筋症のネコさんで、酸化ストレスと、それに抗う力の乱れが確認されています。

リンパのこと

毛細血管から、細胞と細胞のあいだにしみ出した水を「組織液(または間質液)」といいます。細胞に酸素と栄養を届けた組織液は、不要なものを回収して毛細血管に戻ります。

けれど、しみ出した水のすべてが血管に戻れるわけではありません。その戻れなかったぶんを回収しているのが、リンパ管です。

リンパ管の回収口は大きく開いているので、毛細血管では回収できない大きな物質も取り込めます。集められたリンパ液は、肩のあたりの静脈に合流して血液へ戻されます。

では、心臓が弱るとどうなるでしょうか。

心不全では、リンパの本流を流れる量が、正常の約8倍になります(人でのデータです)。ところが、心臓に戻る血管の圧が上がると、その出口が押されて、リンパが流れ込めなくなります。

汲み出す力がいちばん要るときに限って、出口が塞がれてしまう。

むくみや胸水は、心臓だけの問題ではありません。

水を回収して戻す道が、同時に渋滞しているのです。

★ネコさんの心不全では、肺だけでなく、胸に水がたまることがよくあります。これがその理由のひとつです。

第15章 空気 ― 肺から入ったものは、いちばん先に心臓へ届きます

血液の道すじ

肺 → 肺静脈 → 左心房 → 僧帽弁 → 左心室 → 全身

これが、酸素を積んだ血液の道すじです。

お口から入ったものは、腸で吸収されたあと、まず肝臓で処理されます。肝臓という関所を通ってから、全身へ出ていくのです。

けれど、肺から血液に入ったものは、その関所を通りません。処理されないまま、いきなり心臓へ届きます。

吸い込んだ汚れは、肺のリンパ節に集まります

人のご遺体を解剖すると、肺のまわりのリンパ節は、ほとんどの方で真っ黒になっているといいます。呼吸で吸い込んだ排気ガスやチリが、そこに集められるからです。吸い込んだものは、消えてなくなるわけではないのです。

★そして、家の中の空気です

ネコさんは、1日のほとんどを家の中で過ごします。

「窓を閉めていれば安心」と思っていらっしゃいませんか。

台湾の大学の動物病院で、348頭(ワンちゃん230頭・ネコさん118頭)のお宅の空気を、実際に測った研究があります。

家の中にあったもの割合
調理の煙72.6%
受動喫煙32.9%
お線香17.1%
家庭用の化学薬品11.6%

分かったこと

  • 家の中のPM2.5が35 μg/m³を超えるお宅のネコさんは、呼吸器の病気の起こりやすさ(オッズ)が4.13倍という結果でした。
  • 呼吸器の病気があるネコさんのお宅は38.6、ない子のお宅は27.4 μg/m³

この研究が調べたのは呼吸器の病気で、心臓ではありません。「家の中の空気が心臓を傷める」とは、申し上げられません。

それでも、知っておいていただきたい数字があります。

このとき測られた家の中のPM2.5は、27〜38 μg/m³でした。

北京の2024年の「外の空気」の年平均が、30.5 μg/m³です。

家の中が、それと同じくらいだったのです。

呼吸器にダメージがあるのなら、心臓や弁のトラブルは無関係にはなりません。

家の中でできること

香料入りの柔軟剤、芳香剤、消臭スプレー。お線香、ろうそく。タバコの煙。調理の煙。掃除の薬剤。

人でも「香害」として問題になっています。ネコさんの鼻は、私たちよりはるかに敏感です。 調理の煙はもっとも多く見つかった汚染源ですので、換気扇を回してください。、猫砂の粉じん

そして、すでに心臓が弱っている子は、空気の汚れに弱いとされています。

心臓を通り続けるものを減らすことに、意味がないはずがありません。

第16章 食べられること ― 痩せさせない

心臓が悪いと言われた子にとって、いちばん危ないのは、食べられなくなることです。

心不全のネコさんの41.6%に、筋肉の減少が見られました。診断されたあと、66.7%のネコさんが体重を減らしていました。そして、体重計だけでは分かりません。

飼い主さんがいちばん気づきやすいのは、後ろ足と、動き方です。高いところに上がらなくなった。飛び降りるのをためらう。毛づくろいをしなくなった。

★ネコさんは、食べない時間が続くと、肝臓に脂肪がたまってしまいます。「2〜3日食べていない」は、ワンちゃんより深刻です。

そしてもうひとつ、お薬が食欲を奪っていることがあります。(クロピドグレルはとくに苦いお薬です)

▶ 犬猫フェレットの心臓のために(食べられなくなる前に)

筋肉の減りに気づく方法、お薬と食欲の関わり、食べていただくための工夫を、このページにまとめました。ワンちゃんの飼い主さんにも、共通の内容です。

第17章 酸素 ― 苦しくなってからでは、間に合いません

酸素室は、呼吸が苦しくなってから探すものではありません。

苦しくなってから探すと、届くまでの時間が、一層、辛い時間になってしまいます。

重い病気の子、シニアの子、そして多頭飼育のお宅は、先に用意しておいてください。

1回の呼吸で、より多くの酸素が入ってくれば、その分だけ心臓は楽になります。酸素室は、重篤なときだけのものではありません。気軽に普段使いしていただいて構いません。

生あくび。排尿・排便のあとのふらつき。食後のふらつきや動悸。咳。 こうしたサインは、酸欠のあらわれかもしれません。

▶ 犬猫フェレットの心臓のために(酸素室について)

借りる・買う方法、酸素の濃度、お家で作る方法、★安全のための注意、通院のあいだのこと、酸素をイヤがる子への工夫を、このページにまとめました。安全に関わる大切な注意が書いてあります。お使いになる前に、必ずお読みください。

第18章 心臓と腎臓 ― 綱渡りを楽にできるもの

ネコさんでは、この章がとくに大切です。

高齢のネコさんは、慢性腎臓病をとても高い割合で抱えています。心臓と腎臓が、一緒に弱っていくのです。

何が起きているか

心臓の送り出す力が落ちると、腎臓を流れる血液が減ります。 すると腎臓の働きも落ちます。

同時に、静脈の側の圧が上がって腎臓がうっ血することでも、腎臓は傷みます。そして、利尿剤は、この状況をさらに悪くすることがあります。

ネコさんでは、脱水・低血圧・循環血液量の減少によって、急に腎臓の数値が悪化することがあります。

ただし、「利尿剤は腎臓に悪い」と単純に申し上げるつもりはありません。

うっ血が取れることで、かえって腎臓の数値が良くなることもあります。問題は、お薬そのものではなく、量の加減です。

綱渡りです

利尿しすぎれば、腎臓が傷みます。足りなければ、心不全が再発します。 獣医さんは、この細い綱の上で、いつも量を決めていらっしゃいます。

けれども、使い続けるうちに、その子の体の状態が変わっていることが後回しになり、「いつもの処方」が優先されてしまうこともあります。

体調の変化は、飼い主さんにしか分かりません。新しくお薬を受け取られるときは、小さな変化も漏らさず先生にお伝えして、 そのときの体に合った処方を考えていただくよう、お願いしましょう。

その綱渡りを楽にできるのは、体の側の状態です。

脱水させないこと。電解質を切らさないこと。食べられる状態を保つこと。

これは、お薬にはできません。ごはんにしかできないことです。

★とくにネコさんでは、「お水をどう飲んでいただくか」が、心臓と腎臓の両方を左右します。

お迷いの際は、ご遠慮なくお声がけください。

むすび 今、この瞬間も

心臓は、あなたがこのページを読んでいる、この瞬間も打ち続けています。

ネコさんは、苦しさを隠します。 だからこそ、飼い主さんは不安になります。

「心臓が悪い」と言われた日から、何もできない気持ちになってしまいがちです。とくにネコさんでは、症状のない段階でお薬にできることが多くありません。

けれど、何もできないわけではありません。

できることは、4つです。

  1. 寝ている我が子の呼吸を数えて、書き留めること道具も費用も要りません。ネコさんは苦しさを隠しますが、数字は隠せません。
  2. 心臓を動かしているものを、切らさないことナトリウム、カルシウム、カリウム、マグネシウム。そして、自分では作れないタウリン。 ビタミンB群。 利尿剤は、そのいくつかを体から出してしまいます。
  3. 食べられる状態を、守ること痩せは、治すより防ぐほうが、ずっと易しいのです。
  4. そして、1から3を手に入れるには、ニンナナンナ流のケアが必要です何を、どれだけ、どう組み合わせるか。そこは、私たちがお手伝いします。

症状のない時間が長いということは、裏を返せば、支える時間が長くあるということです。

先天性であっても後天性であっても、「今、この瞬間も頑張っている我が子の心臓」を、慈しみ、育んでいくことはできます。

生まれつきだから、罹りやすい種族だから ―― そう言われて、あきらめる必要はありません。

迷われたときは、いつでもご連絡ください。検査の数値も、お薬の名前も、そのままお知らせいただければ、一緒に読み解きます。通院が難しいときも、ご相談ください。

※フィラリアについては、「ナンナさんのノート」に別のページを設けます。気長にお待ちください。

このページで、ご紹介している栄養素

足りなくなりやすい理由=加熱や加工で失われる/お薬を飲んでいると尿から出ていく/食欲が落ちて、そもそも入ってこない/腸の状態が悪く、吸収しきれない/年齢とともに、体で作る力が落ちる。

  • そもそも、ネコさんは自分で作れないものがあります。

食事内容を整えるときに、意識していただきたいこと

  • 毒になるものは、いかなるものも1mmたりとも取り込ませない。そのための食材とサプリメントの品質確保が重要です。
  • ビタミン・ミネラル全般が不足しがちです。とくにビタミンB群、カルシウム、マグネシウム、そしてタウリンは、意識して補ってください。
  • ドライフードのみの場合は、可能な限り良質な総合栄養食のウェットフードに切り替えてください。
  • 消化の良い炭水化物と食物繊維を、ごはんに組み込んでください。
  • 良質で浸透性の高いお水を、しっかり飲みましょう。
  • 肝臓、腸、腎臓など、ほかに心配事がある場合は、同時にごはんを見直します。

何を、どれだけ、どう組み合わせるか。迷われたときは、ご遠慮なくお声がけください。

心臓のためのサプリ・フード

これらは治療薬ではなく、獣医さんの治療に代わるものではありません。持病があったり、治療中のお薬がある場合は、原材料と使い方をご確認のうえ、かかりつけの先生にもご相談ください。

サプリメントに関するアンケート




*NinnaNanna(ニンナナンナ)では、シッポを持つ家族の総称としてシッポちゃんと呼びます。
また 犬 をワンちゃん、猫 をネコさんと敬意を以て表現しています。



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ナンナさんのコラム

フード以外の商品は、
ネコちゃん・ワンちゃん・フェレットちゃん共通です。
お迷いの際はご遠慮なくご相談ください。

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