症状別サプリメント/糖尿病のために


糖尿病のために ― ワンちゃんとネコさんでは、中身が違います

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「今日、糖尿病だと言われました」

そのひと言のあと、飼い主さんの頭のなかは、たいてい真っ白になります。注射のこと、ごはんのこと、これからのこと。聞きたいことは山ほどあるのに、何から聞けばいいのかも分からない——ご相談をいただくとき、いちばん多いのがこの状態です。

このコラムは、その真っ白なところに、順番をつけるために書きました。

ひとつだけ、はじめにお伝えしておきたいことがあります。糖尿病は、ワンちゃんとネコさんで、成り立ちも、治療も、見通しも違います。同じ「糖尿病」という名前がついているだけで、中身はかなり別のものです。ですからこのコラムは、ネコさんの章と、ワンちゃんの章に分けてあります。ご自分の子の章を中心に読んでいただいて構いません。前のほうと後ろのほうに、どちらにも共通する話を置いてあります。

第1章 人の糖尿病の話は、そのまま持ち込めません

糖尿病は、世の中にいちばん情報があふれている病気のひとつです。だからこそ、この病気には特有のむずかしさがあります。目に入る情報のほとんどが、人のものだということです。

これは私たちだけが言っていることではありません。獣医療の側からも、はっきりと言われています。

世の中には人の糖尿病の情報があふれているが、人の糖尿病の検査法や治療法をそのまま猫や犬に外挿してはいけない。なぜなら、人と猫と犬の糖尿病は成因が異なるからである。

(松木直章「糖尿病治療の実際 1. 糖尿病の病態と検査」動物臨床医学 25巻3号, 2016)

人の糖尿病は、9割が2型です。生活習慣・肥満・加齢が絡み、食事と運動と飲み薬で改善や予防を試みることができます。世の中の「糖尿病の常識」は、ほぼこの2型の話です。

ワンちゃんとネコさんの糖尿病は、そこには当てはまりません。

私たちも、20年以上前から同じことをお伝えしてきました。2011年に配付した豆知識には、こう書いています——「人の糖尿病ケア方法が中途半端なのに、食性が違うシッポ達にその中途半端ケアを当てはめてはダメ」。

ですからこのコラムでは、人の話を一度、脇に置きます。

第2章 体のなかで、何が起きているのか

インスリンは、細胞の窓を開ける鍵

ごはんを食べると、消化されたブドウ糖が血液に入ります。細胞は、そのブドウ糖をエネルギーとして使いたい。けれども、勝手には取り込めません。インスリンというホルモンが「取り込んでいいよ」と合図を出して、はじめて細胞の窓が開きます。

インスリンが足りない、あるいは合図が届かない。すると——血液のなかにはブドウ糖があふれているのに、細胞はエネルギー不足という、ちぐはぐなことが起こります。これが糖尿病です。

「食べているのに痩せる」のは、そのためです

窓が開かない細胞は、しかたなく別の手を使います。脂肪とアミノ酸(タンパク質)を燃やしてエネルギーにするのです。

だから、しっかり食べているのに、どんどん痩せていきます。筋肉も落ちます。飼い主さんが「食欲はあるのに、なんだか小さくなった気がする」と感じるのは、気のせいではありません。体が、自分の中身を燃やしはじめているのです。

ここで「ケトン体」が生まれます

このあと何度も出てくる言葉なので、ここで整理しておきます。

脂肪を燃やすと、「ケトン体」というものができます。これは異常なものではありません。本来、体が使える燃料のひとつです。

  • ケトーシス……血液や尿で、ケトン体が増えている状態です。糖尿病の子では、ケトアシドーシスの前触れであることがあります。軽く見てよいものではありません。
  • ケトアシドーシス……インスリンの不足などを背景にケトン体が増え、血液が酸性のほうへ傾き、脱水やミネラルの乱れも伴う重い状態です。糖尿病で起こるものを糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)と呼びます。緊急の治療が要ります。

検査でケトンを見るのは、早い段階で気づくためです。「まだ少しだから」と様子を見る材料にはなさらないでください。

なお、筋肉の分解、脱水、食事の内容、腎臓の状態などが重なって血液検査のBUNが上がることがあります。BUNの数字だけから、原因をひとつに決めることはできません。

膵臓が、頑張りすぎて疲れた

インスリンを作っているのは、膵臓のβ細胞という、ごく小さな細胞の集まりです。

私たちは2011年の豆知識で、この病気をこう表現しました。

【糖尿病は膵臓が頑張りすぎて疲れた病気】

インスリンが効きにくい状態が続くと、β細胞は「足りないなら、もっと出そう」と無理をします。心臓を酷使すれば肥大するのと同じで、臓器は負荷をかけ続ければ、やがて疲れ果てます。

そして、ここからが厄介です。高い血糖そのものが、β細胞の働きを鈍らせます。この悪循環を、糖毒性といいます。

膵臓が疲れるまで(糖毒性の悪循環と寛解)

※この「膵臓が疲れる」という道すじは、インスリンへの反応が弱くなって起こるタイプの説明です。膵炎から来るもの、お薬から来るもの、ワンちゃんに多い形は、また別の成り立ちをします。

第3章 ワンちゃんとネコさんは、成り立ちからして違います

先ほどの松木先生の総説には、原因の内訳が整理されています。2016年時点の教育的な整理で、いまのすべての子にそのまま当てはまる数字ではありませんが、「原因の顔ぶれが違う」ことがよく分かります。

ネコさん:膵炎に関わるもの約50%/人の2型に似たもの約30%/お薬(ステロイドなど)によるもの約10%

ワンちゃん:膵臓のランゲルハンス島の空胞変性 約60%/発情のあとに起こるもの約10%/膵炎 約10%/お薬によるもの約10%/クッシング症候群 約10%

ここから読み取れることが、いくつもあります。

ネコさんでは、膵炎と糖尿病がしばしば一緒にみられます。慢性の膵炎がじわじわと膵臓を傷めた先に、糖尿病があることがあります。ただし、その子について「膵炎が糖尿病を起こした」と確かめるのは簡単ではありません。

ワンちゃんは、人の1型に近いとよく言われます。ただし松木先生は「安易に人の1型糖尿病に例えられているが、本来は各々異なる病態だと考えるべき」と書いていらっしゃいます。原因はひとつではなく、特定できないことも多いのです。

そして、どちらも、症状が出て病院に行く頃には、もうインスリンが足りなくなっていることが多い。「まだ軽いから注射はいらないだろう」という期待は、あまり当てになりません。

ワンちゃんネコさん
人でいうと1型に近い(ただし別物)2型に近い
治療の柱ほぼ全例でインスリン注射インスリン、または飲み薬
人用の飲み薬標準治療ではない/自己使用はできない
注射が要らなくなることまれある(治ったのではありません)
目立つ合併症白内障後肢の脱力、かかとを地面につけて歩く姿勢
ごはんの重点量・内容・時刻の一貫性と繊維タンパク質を確保したうえでの適度な糖質の制限

ネコさんの章

第4章 ネコさんの肝臓は、「糖を作る」のが得意です

ここは、少し専門的です。けれどもネコさんの糖尿病を理解する土台になる一章です。お付き合いください。

片づけるのは苦手、作るのは得意

肝臓には、入ってきたブドウ糖を捕まえて、しまい込む仕事があります。その入り口になる酵素をグルコキナーゼといいます。

ネコさんの肝臓では、この酵素の働きが、ワンちゃんに比べてきわめて低いことが知られています。両者を比べた研究では、その測定の条件では、働きも、酵素を作る設計図(遺伝子)が使われている形跡も、検出できなかったと報告されています。

ただし、これは「ネコさんにこの酵素が無い」という意味ではありません。測り方や条件によって結果は変わりますし、肝臓が糖を片づける仕組みは、この酵素だけで決まるものでもありません。言えるのは、「肝臓が、この道すじにあまり頼っていない」ということです。それでも、ワンちゃんとネコさんの代謝の違いを示す、大きな手がかりのひとつです。

いっぽうで、糖を「作る」側の酵素は、ワンちゃんの肝臓より活発です。ネコさんは、アミノ酸を材料にして糖を作ります。ネコさんがタンパク質を多く必要とするのは、体を作るためだけでなく、エネルギーの元になる糖を作るためでもあるのです。

つまりネコさんの肝臓は——糖を片づけるのは苦手で、作るのは得意。この非対称が、あとの話につながります。

ネコさんの肝臓(片づけるのは苦手、作るのは得意)

そして、作りすぎることがあります

「猫は糖新生が24時間動いている」と言われることがあります。方向としては正しい理解です(量そのものは、食べているか・空腹か・インスリンの状態・病気の有無によって変わります)。

問題は、これが強く働きすぎる場面があることです。

① 病院に行くと、血糖が上がります。(※「病院の数字が当てにならない」という意味ではありません。診断のしかたは、このあとお話しします。)

以前は「緊張でインスリンへの反応が弱くなるから」と考えられていました。けれども現在は、肝臓からの糖の放出が増えることが主な仕組みだと報告されています。つまり——病院で数字が高く出るのは、気のせいでも、測り間違いでもありません。ストレスに立ち向かうためのエネルギーを、その場で、肝臓が本当に送り出しているのです。

② インスリンに逆らうホルモンが、4つあります。

グルカゴン、成長ホルモン、アドレナリン、そしてコルチゾール(ステロイド薬は、これと同じ方向に働きます)。この4つは、肝臓に糖を作らせ、同時にインスリンの効きを鈍らせます。このコラムに出てくる「インスリンへの反応が弱い理由」の多くが、この4つに行き着きます。

③ 糖尿病では、食後にも肝臓からの糖が十分に抑えられません。

本来、食後は肝臓から血液へ送られる糖が、大きく抑えられます。その仕組みは、こうです。

膵臓から出たインスリンは、門脈という血管を通って、まず肝臓へ届きます。肝臓へ入る血液のインスリン濃度は、そのあと全身をめぐる血液より高くなります。肝臓は、インスリンの第一の宛先だと言っていいでしょう。

そのインスリンが、肝臓に3つのことをさせます。貯めてあるグリコーゲンを崩す働きを抑える。新しく糖を作る働きを抑える。入ってきた糖をグリコーゲンとして蓄える。同時に、一般には、糖を出させるほうのホルモン(グルカゴン)の働きも弱まります(※タンパク質の多い食事では、アミノ酸がグルカゴンを刺激することもあります)。アクセルが緩んで、ブレーキが踏まれるわけです。

糖尿病では、この抑えが甘くなります。インスリンが足りない、あるいは効きにくいと、肝臓からの糖の放出が、十分に抑えられなくなります。

そのうえ、糖を作るための材料まで余ってきます。インスリンが十分に働かないと、脂肪組織では脂肪の分解が、筋肉ではタンパク質の分解が進みます(「食べているのに痩せる」の正体です)。そこで生じたグリセロールや、糖に変えられるアミノ酸が、血液で肝臓へ運ばれ、糖を作る材料になります。

インスリンが足りず、体が糖を使えない → 脂肪と筋肉の分解が進む → 材料が肝臓へ届く → 肝臓からの糖の放出が増える → 高血糖が続き、尿にも糖が失われて、さらに痩せる。——ここにも、ひとつの悪循環があります。

だから食後の血糖は、腸から吸収される分に、肝臓から送られる分が重なった形になります。

※この仕組みは多くが人や実験動物での研究から分かってきたもので、犬猫でどの程度そのまま当てはまるかまでは、確かめられていません。

では、どうやって診断するのでしょう

ネコさんでは、病院で一度だけ高い血糖が出ても、緊張による一時的な上昇との区別が必要になります。

ですから診断は、ひとつの数字では行いません。水をたくさん飲む・おしっこが多い・やたらと食べたがる・体重が減るといった症状、尿に糖が出ているか、家で繰り返し確かめた血糖、CGM、そしてフルクトサミン——こうしたものを組み合わせて、「高血糖が続いているかどうか」を確かめます。

ふだんの血糖値(GLU)が「採血した、その瞬間の血糖」であるのに対して、フルクトサミンは「ここ1〜3週間ほど、血糖が全体として高かったかどうか」を見ます。その場だけの緊張による上昇には左右されにくいので、ストレスによる一時的な高血糖と、本物の糖尿病を見分けるのに役立ちます。

ただし万能ではありません。糖尿病の早い段階では正常の範囲に入ることがありますし、甲状腺の病気や、血液中のタンパク質が少ない子では低めに出ることがあります。

在宅の血糖もCGMも、獣医さんが症状やほかの検査と組み合わせて判断するための材料で、ご家庭でひとつの数字を見て診断するものではありません。病院の一回の数字だけで決めるわけでも、無視してよいわけでもない——組み合わせて見る、ということです。

だから、糖質を減らすだけでは足りません

肝臓から送られる糖は、食事の糖質を減らすだけでは、十分に抑えられません。

私たちは2011年に「糖分だけをカットしても治せない病気ヨ!」と書きました。乱暴な言い方でしたが、言いたかったのはこのことです。糖質を控えることには意味があります。けれども、それだけで解決するわけではないのです。

第5章 ネコさんには、休ませてあげられる時間があります

「寛解」ということ

糖毒性——高い血糖そのものが、β細胞を弱らせる悪循環です。ここには、救いがあります。血糖を下げてやると、この悪循環は退けられます。

早いうちに血糖を落ち着かせてあげられれば、疲れていたβ細胞が息を吹き返し、糖尿病の治療が要らない期間を得られることがあります。これを寛解といいます。

私たちは2011年3月の豆知識に、こう書いています。

一度はじめたら生涯止めてはいけないと言われるインスリン投与ですが、止められたシッポたちだって実際には沢山居ます

当時、飼い主さんへの一般的な説明は「一度始めたら一生」でした。けれど、実際にやめられた子たちがいたのです。いまは、それを寛解と呼びます。国際的なガイドラインにも、独立した章が置かれるようになりました。

ただし、「治った」ではありません

ここは、はっきりお伝えしなければなりません。

寛解は、治癒ではありません。再発することがあります。そして一度再発した子が、二度目の寛解に入れることは、初回より少ないと報告されています。

ですから寛解に入ったあとも、体重の管理とごはんの組み立ては続きます。「もう治ったから元のごはんで」——これがいちばん惜しい戻り方です。

何が寛解を近づけるか

  • 早く手を打つこと。診断から治療の開始までが短いほど、寛解が得やすいという方向は一貫しています。
  • 体重を落とすこと。太りすぎのネコさんでは、計画的に減量した子のほうが寛解率が高かったという研究があります。ただし血糖が落ち着いてから。
  • インスリンへの反応を弱くしている原因を、一緒に探すこと。太りすぎ、ホルモンの病気、お薬、炎症——量を増やす前に、そこを探します。

なお、すでに痩せている子・食欲が落ちている子では、減量は当てはまりません。まず十分に食べられることが先です。

してはいけないこと

「食事を変えたら、注射が要らなくなるらしい」——この読み方は危険です。

寛解は起こります。けれどもそれは、獣医さんが血糖を確かめながら、少しずつ減らしていった結果です。飼い主さんの判断でインスリンを減らしたり、やめたりすると、高血糖がぶり返し、ケトアシドーシスという命に関わる状態につながることがあります。

逆に、食べる量や必要な量が下がっているのに、これまでと同じ量を打ち続けると、低血糖になります。

増やすのも、減らすのも、やめるのも、どちらの向きにも危険があります。必ずかかりつけの先生と一緒に決めてください。

第6章 ネコさんに、飲み薬という選択肢が出ました

何が起きたか

猫用のSGLT2阻害薬(ベラグリフロジン。製剤名センベルゴ)という飲み薬が、日本でも2024年から使えるようになりました。1日1回、口から飲ませるお薬で、獣医さんの処方と指示が必要な要指示医薬品です。

ワンちゃんには適応がありません。承認されているのは猫だけです。「犬猫の飲む糖尿病薬」と紹介されることがありますが、それは誤りです。

仕組み

腎臓は、いったん濾し出したブドウ糖を、ほぼ全部回収して体に戻しています。その回収役の輸送体(SGLT2)を止める薬です。回収させずに、尿から糖を捨てさせる。

インスリンを介さない仕組みなので、慎重に選ばれたネコさんでは、インスリン注射を使わずに治療できる場合があります。低血糖は、インスリン治療よりは起こりにくいとされています。

ただし「より安全な薬」ではありません。次にお話しするとおり、血糖が正常に近くてもケトアシドーシスが起こりうるという、これまでになかった別の重大な危険を抱えています。

裏を返せば、エネルギーである糖を尿から捨て続ける薬です。体重が減る、水をよく飲む、おしっこが増える——この仕組みの当然の結果です。

この薬でいちばん大事なこと

日本の添付文書には、警告としてこう書かれています。

本剤の作用機序により、糖尿病性ケトアシドーシスが発生しても高血糖が認められないことがあるため、ケトン体の有無や臨床症状に基づいて糖尿病性ケトアシドーシスの診断を行うこと。

血糖が正常でも、ケトアシドーシスが起こる。「血糖が高くないから大丈夫」という、いちばん頼りにしてきた目印が、この薬では通じません。

もうひとつ、同じ警告のなかにこう書かれています。

本剤が投与された猫では尿糖が見られることから、糖尿病のコントロール及び糖尿病の寛解を評価するために、尿糖を指標として用いることは適切ではない

この薬を使うと、仕組みの結果として尿糖が出続けます。

尿糖が出ていても、うまく管理できていることや、ケトアシドーシスが起きていないことの証明にはなりません。尿糖検査で「良くなった」「治った」を判断することはできない——ご家庭で試験紙をお使いの方は、ここを取り違えないでください(飲むのをやめてからも2〜3日は尿糖が出ることがあります)。

血糖が何の役にも立たない、という意味ではありません。治療の効きぐあいの確認には、血糖もフルクトサミンも使います。足りないのは「ケトアシドーシスを見逃さないため」の目印のほうです。

どれくらい起こるのか

国際的にまとめられた症例では、ベラグリフロジンで214例中11例(5.1%)にケトアシドーシスが起こっています。日本の国内臨床試験(30例)でも1例で発生しました。

そして、インスリン治療を受けたことがある猫では、その割合が18.4%と高くなっています。背景の違う症例群どうしの粗い比較なので、個々の子のリスクが一律に3.6倍になるという数字ではありません。けれども、インスリンを使ってきた子ほど慎重に選ぶ必要があるという警告としては、十分に重いものです。

米国ではインスリン治療歴のある猫が禁忌になっています。日本の承認内容には治療歴の限定がありませんが、添付文書には「糖尿病性ケトアシドーシスのリスクが高くなる可能性がある」と明記されています。

起こった子の72%が、最初の7日以内でした。ただし「2週間を過ぎれば起こらない」という意味ではありません。食欲の低下、嘔吐、元気がない——こうしたことがあれば、時期にかかわらず、直ちに獣医さんに連絡が必要です。

向く子、向かない子 ― 候補選びは、かなり慎重です

使えない子・慎重に選ぶ子……添付文書の禁忌は、ケトアシドーシス/糖尿病性ケトン尿症/点滴が必要なほどの脱水。安全性が確かめられていないのは、妊娠中・授乳中/1歳未満/過敏症/コントロールされていない甲状腺機能亢進症/重い腎臓病。そして脱水、症状のある膵炎、慢性の下痢、悪液質は、始める前に治しておくものです。

向くとされているのは、新しく診断されて、全身の状態がよく、食欲があり、自前のインスリンがまだ残っていて、ケトンが出ていない子。ただしその「残り具合」を測る方法がありません(第11章)ので、食欲・脱水・ケトン・ほかの病気から慎重に見極めることになります。

飲みはじめの2週間が、いちばん大事です

  • 数日おきにケトン体を調べます。食欲が落ちた、吐いた、元気がない——そのつど調べます。
  • 嘔吐・下痢・食欲不振・元気消失・脱水を、「軽い副作用」で片づけないでください。これらはケトアシドーシスの初期の徴候と見分けがつきません。「食欲が丸一日落ちたら」ではなく、落ちたことに気づいた時点で、処方した病院に連絡してください。
  • ごはんを、いきなり変えないでください。ネコさんの糖尿病では糖質を控えるのが基本ですが、この薬を始めた直後だけは例外です。最初の2週間は普段のごはんを続け、全身の状態とケトンが落ち着いてから、ゆっくり移ります。同時に変えると、食べる量が落ちたのか、ケトーシスが始まったのかが見分けられなくなるからです。
  • 飲ませ忘れたら、その日のできるだけ早い時間に。添付文書では、飲ませて30分以内に吐いてしまったら同じ量をもう一度、30分以上たっていたら次まで待つという扱いです。処方のときに別の指示を受けている場合は、そちらが優先。そして吐いている、元気がない——そういうときは、飲ませ直す前に処方した病院へ連絡してください。

体調が崩れたときの動き方

軟便・下痢がもっとも多く報告されています。私たちのところにも、こんなご相談がありました。14歳、初期の糖尿病と診断された男の子。ごはんに混ぜて飲ませたところ、7時間後に水様便。かかりつけの先生の判断でインスリンに切り替えとなりました。下痢は添付文書にも記載のある副作用ですが、この一例から原因を断定することはできません。

下痢・嘔吐・食欲不振・元気がない——こうしたことがあるときは、次の分をどうするかも含めて、次の投与時刻より前に、処方した病院へ連絡してください。

自分の判断で、量を減らしたり、一度休ませたあと勝手に再開したり、追加で飲ませたりしないでください。病院と連絡がつかず、症状が続く、あるいはいつもよりも元気が無いように見えるときは、かかりつけの先生、または救急病院へ連絡してください。

救急にかかるときは、必ず伝えてください

「SGLT2阻害薬を飲んでいます」と、必ず伝えてください。血糖が正常でもケトアシドーシスが起こる薬なので、伝えないと、血糖の数字だけを見て見逃されることがあります。お薬の名前・量・最後に飲ませた時刻を、すぐに示せる形にしておいてください(備えておくものは、第14章にまとめました)。

第7章 インスリンの効きが悪いときに、疑うこと

インスリンを増やしても血糖が下がらない。この「効かない」には、違う理由が入り交じっています。増やす前に、中身を分けることが大事です。

① 本当に、効きが悪くなっている

太りすぎ——ネコさんの糖尿病で、いちばんはっきりした「変えられる要因」です。

成長ホルモンの出すぎ(先端巨大症)——これは、ぜひ知っておいていただきたい話です。

海外の糖尿病のネコさんを調べた研究で、1,221頭のうち319頭(26.1%)に、成長ホルモンの過剰を強く疑う血液の値(IGF-1高値)が見つかりました。およそ4頭に1頭前後です。

驚くのは、ここからです。担当していた獣医さんが、事前に「これかもしれない」と強く疑えていたのは、わずか24%でした。なぜか——多くの子が、見た目に出ないからです。顔つきや体つきが変わる病気だと思われがちですが、そうならない子のほうが多いのです。

以前は「きわめてまれ」と整理されていました。松木先生の2016年の総説でもそうなっています。責められる話ではありません——それまでは「それらしい見た目」の子だけを調べていたのです。血液の値で片端から調べるようになって、見た目に出ない子が大量に見つかりました。

※IGF-1が高いことと、診断が確定することは同じではありません。地域や検査方法による差もあります。それでも、「効きが悪い」ときに思い出す価値のある数字です。

ステロイド——ネコさんの糖尿病で、飼い主さんがいちばん出会いやすい引き金のひとつです。肝臓に糖を作らせ、同時にインスリンへの反応を弱めます。(第15章で詳しくお話しします。)

クッシング症候群——ネコさんではまれです。甲状腺機能亢進症——ネコさんでは多い病気です。

② ほかの病気が、後ろにいる

慢性の膵炎、感染(尿道、口腔)、そして様々な炎症。

炎症が起こると出てくるTNF-αという物質は、細胞への糖の取り込みを抑え、インスリンの働きを邪魔します。人では、歯周病の治療をしたら血糖の管理を示す数値まで改善した、というデータがあります。

口のなかを放っておかない。腸の荒れを放っておかない。これは、糖尿病とは関係のない話に見えて、実はつながっています。

③ じつは「効いていない」のではない

注射の手技、インスリンの保管、注射器の目盛りの不一致、打ち漏れ。

これは効きが悪いのではなく、入っていないのです。頻度は決して低くありません。恥ずかしいことでも、責められることでもありません。慣れるほどに「クセ」が優先されることもあります。もう一度、かかりつけの先生の前で打ってみせて、確認してもらう——それだけで解決することがあります。

大事なこと:原因を探すことは、治療と「同時に」

私たちは、インスリンの量に右往左往する前に、効きを悪くしている原因を探すことを、ずっと大切にしてきました。この考え方は、いまのガイドラインの手順とも同じ方向です。

ただし「原因を探すことが先で、治療はあと」ではありません。血糖が高いまま、ケトンが出ているまま放っておけば、その間も糖毒性によってβ細胞の働きが弱り続けます。血糖を下げる治療と、原因探しは、同時に進めます。

第8章 【ネコさん】ごはんの話

目標

ネコさんの糖尿病では、タンパク質をしっかり確保したうえで、糖質を控えるのが基本です。国際的な目安として、炭水化物を乾物量で25%未満という数字が示されています(2025年のコンセンサス)。ウェットのほうが下げやすく、寛解の維持にも挙げられています。ただしこれは合意による目安であって、試験で導かれた境界線ではありません。数字の前後で一喜一憂する意味は、あまりありません。

「炭水化物を減らす」の、中身を間違えないでください

ここが、このコラムでいちばんお伝えしたいところです。

飼い主さんからよくいただくご心配に、こういうものがあります——「糖質を減らすと、腸が悪くなるのではないですか」。

このご心配は、もっともです。そして、思いつきでもありません。健康な成猫で、タンパク質と炭水化物の比率が違う食事を比べた研究では、高タンパク・低炭水化物の側ほど、便のpHが上がり、アンモニアが増え、酪酸が減る——タンパク質側の発酵に偏った変化がみられました。研究者は、使える炭水化物や食物繊維が少ないと、腸の粘液の成分が使われることが促される可能性にも触れています。

タンパク質と炭水化物が同時に動いた試験なので、高タンパクだけが原因とは決められません。また、便の成分が変わったことが、そのまま病気につながると示した研究でもありません。それでも、データのある心配ごとです。正面からお答えします。

まず、「炭水化物」はひとつのものではありません

炭水化物は、化学のうえでは糖類・でんぷん・食物繊維などに分けられます。ここでは、血糖と腸への働きかたのちがいで見ていきます。

  • 小腸で消化・吸収されやすいもの……砂糖などの糖類や、やわらかく炊いたでんぷん。食後の血糖の山を高くするのは、主にここです。
  • 消化されにくいでんぷん……小腸で消化されきらず、大腸まで届くものがあります。
  • 食物繊維……大腸で発酵して腸内細菌のごはんになるものと、ほとんど発酵せず便のかさと通りを整えるものがあります。

この違いを知らないまま「糖を減らして」とだけ言われると、糖を連想するものを片端から抜くことになります。減らしたいものと、残したいものを、一緒に捨ててしまうやり方です。

腸は、場所によって住人が違います

「腸内細菌」というと大腸の話だと思われがちですが、小腸にも細菌はいます。

小腸は、酸素があり、胆汁が流れ、内容物が速く通り過ぎていく場所です。ですから住んでいる菌の数は大腸よりずっと少なく、顔ぶれも違います。使っている栄養源も、糖だけではありません。

いっぽう大腸には、けた違いの数の菌がいて、小腸で消化されずに届いた発酵性の食物繊維や、消化されにくいでんぷんを発酵させ、酪酸などをつくっています。

つまり——「腸に良い炭水化物」は、ひとつではありません。小腸には小腸の、大腸には大腸の事情があります。

ここは正直に申し上げます。ネコさんの小腸の細菌について、「どの種類の糖質が、どれだけ要るのか」を示した研究は、私たちが調べた範囲では見つかりませんでした。

ですから、小腸の細菌を理由に「でんぷんをこれだけ入れてください」とは書けません。けれども同じように、「ゼロに近づけるのが望ましい」と決めることもできないのです。

ネコさんも、お芋やかぼちゃを喜んで食べます

ご相談のなかで、よく伺います。サツマイモ、かぼちゃ、白米——ワンちゃんほどではないにせよ、喜んで食べるネコさんは、たくさんいらっしゃいます。

おもしろいことに、ネコさんは、人と同じ仕組みでは甘さを感じません。甘味を受け取る仕組みの一部が働いていないのです。食感なのか、香りなのか、温かさなのか——何にひかれているのかは、その子によって違います(※食べたがることだけから「体が必要としている」とまでは決められません)。

そして、健康なネコさんでは、きちんと組み立てられた食事に含まれる炭水化物が、それだけで健康を損なうとする証拠は限られています。「猫は肉食だから炭水化物は毒」という単純化は、学術の側からも戒められています。ただし、すでに糖尿病があるネコさんでは、消化される糖質の量が、食後の血糖と必要な治療の量に響きます。

全部取り上げてしまえば、おいしく安全に食べさせてやりたいという親心のほうが、先に折れます。食べる楽しみを削って食べる量まで落ちれば——痩せていく病気で、それは本末転倒です。

ですから、私たちはこう考えます

減らしたいのは「炭水化物という名前のつくもの」ではありません。食後の血糖の山を、高く、鋭くする量のほうです。

  • 量を見直す……小腸で消化・吸収されて、食後の血糖に響く糖質。とくに、精製されたもの
  • 機械的に減らさない……その子に合う種類と量の食物繊維
  • 個別に考える……消化されにくいでんぷん。原料や調理で消化されやすさが変わるので、一律にはお勧めしません
  • 目指すのは「排除」ではなく、「血糖・便・食欲・体重を見ながらの調整」

体はひとつです。血糖だけを見て腸を壊してしまえば、けっきょくその子が弱ります。要の腸を無視した引き算を、私たちはお勧めしません。

実はこの見方は、私たちが2011年の豆知識で気にしていたことでもあります。「炭水化物」という一語で示された数字を、そのまま「血糖を上げる糖質の量」だと思わないこと。体のなかでの役割が、まるで違うのです。

減らすのは糖質のほう(消化される糖質と食物繊維)

ただし、繊維も「足せばいい」ではありません

合う種類も量も、その子の便・食欲・体重・持病によって違います。増やしすぎると、食いつきが落ちたり、食べる量とカロリーが減ったりします。痩せてきている子、食欲が落ちている子では、まず十分に食べられることが優先です。自己判断で大量に足さないでください。

手作りごはん・ローフードのこと

ネコさんやワンちゃんが好むバランスに組み立てたごはんは、多くの場合、肉や魚が中心になるため、結果として糖質が少なくなります。糖尿病のネコさんの食事の目標に、無理なく届く組み立てです。

ただし自動的に達成できるわけではありません。お米・お芋・お豆・かぼちゃの入れかたによっては目標を超えます。そして——糖質が少ないことと、ビタミン・ミネラルが足りていることは、別の話です。ここがクリアできないごはんは、正しいケア食にはなりにくいです。

ごはんを変える前に

インスリンを使っている子で、食事の量や糖質の量を大きく変えると、同じ注射の量でも低血糖になることがあります。

ごはんを変えるときは、先にかかりつけの先生と「どうやって確かめるか」「どうなったら連絡するか」を決めてからにしてください。よかれと思った変更が、いちばん危ないタイミングを作ってしまうことがあります。

ワンちゃんの章

第9章 ワンちゃんの目標は、血糖を正常値に近づけることだけではありません

これは、意外に思われるかもしれません。

ワンちゃんの糖尿病の治療目標は、血糖を厳密に下げることではありません。ガイドラインにも、はっきりそう書かれています。目標は——

  • 体重が安定していること
  • 水をたくさん飲む、おしっこが多い、やたらと食べたがる、といった症状が減ること

つまり、その子が普通に暮らせているかどうかが物差しです。低血糖の危険を冒してまで正常値を追うのではなく、症状と体重を安定させることを目指します。

血糖を測らなくてよい、という意味ではありません。測るのは、その安全を確かめるため、そして治療を調整するためです。

ワンちゃんでは、原則としてインスリン注射が治療の柱になります。そして、人が使う糖尿病の飲み薬を、飼い主さんの判断でワンちゃんに使うことはできません。ネコさんに飲み薬が出たという話を、ワンちゃんに当てはめないでください。

白内障は、ワンちゃんに特徴的な合併症で、高い頻度で起こります。進行を遅らせることは目標のひとつですが、血糖を管理していても、完全には防げないことがあります。

発情のあとに起こるタイプがあります。発情のあとの黄体ホルモンが、乳腺から成長ホルモンを出させ、インスリンへの反応を弱めます。このタイプでは、早い時期に避妊手術をすることでインスリンへの反応が戻り、治療が要らなくなる場合があります(時間が経つと戻りにくくなります)。女の子で、避妊をしていない子が糖尿病と言われたら、避妊手術の時期を早めにかかりつけの先生と相談する必要があります。

第10章 【ワンちゃん】ごはんの話 ― 繊維と、時刻

繊維

適度な食物繊維を含む食事で、血糖の管理が良くなるワンちゃんがいます。繊維は、食後の血糖の立ち上がりをゆるやかにします。

可溶性と不溶性のどちらが合うかは、製品の組み立てとその子の状態で違います。「これが正解」という一本道はありません。

急に消化されるでんぷんは控えめに。食べるたびに大きな血糖の山ができないようにする、という考え方です。精製された穀物やジャガイモは血糖を上げやすく、未精製のものはゆるやかです。ワンちゃんでは、この「質」の違いが効いてきます。

私たちは2011年に、「糖尿病でもっとも必要な働きは、可溶性食物繊維が血糖をゆるやかに上昇させる役割だ」と書きました。ワンちゃんについては、考え方として今も妥当です。(ネコさんでは、繊維は主役ではありません。まず糖質の総量です。)

時刻が、きわめて大事です

ここがワンちゃんの要です。

インスリンがいちばん強く効いている時間帯に、食後の糖の吸収が来るように合わせる。1日2回の注射なら、注射の直前か直後にごはんを出し、食事の間隔は10〜12時間が多くの子に合います。

同じ時刻に、同じ量、同じ内容。この一貫性が、ワンちゃんの血糖をいちばん安定させます。「今日は忙しいから夜だけ多めに」——これが、いちばん揺らします。

具体的な間隔や量は、必ずかかりつけの先生の指示に従ってください。その子の使っているインスリンによって変わります。

共通の章

第11章 なぜ「インスリンの量」を測ってから診断しないのでしょう

ご相談のなかで、何度もいただいてきたご質問です。

インスリンが足りない病気なのに、そのインスリンを測ってから診断した、という話を一度も聞きません。なぜ調べないのでしょう?

もっともなご疑問です。そして——調べれば分かるのに調べない、のではありません。調べても、そのときには分からないのです。

いちばん本質的な理由:糖毒性

第2章でお話しした糖毒性——高い血糖そのものが、インスリンを出す細胞を眠らせてしまう。すると、こうなります。

  • もともとインスリンを出せなくなっていた
  • もともと出てはいたけれど、効かなくなっていた

この二つの数字が、重なってしまうのです。(効きにくさが強い子では、正常だったり高かったりすることもあります。)

いちばん知りたいときに、いちばん見分けにくい。これが糖尿病という病気の、やっかいなところです。

そのほかの理由

  • 測ること自体がむずかしい。犬猫のインスリンは人用の測定キットを使うため正しく反応しないものが多く、動物用に検証された方法は限られています。
  • 治療を始めたあとは、さらに読みにくい。抗インスリン抗体が測定を邪魔することがあり、外から打った分と自前の分も区別できません。
  • 1回の測定で、病気の成り立ちや自前の分泌の力を決めることはできません。インスリンはそのときの血糖に応じて上下するので、血糖とセットで、時間を追って測らなければなりません。
  • ネコさんは、病院にいるだけで数字が動きます。緊張すると、肝臓が糖を出してしまうためです。

本当は、もっと良い指標があります

Cペプチドといって、インスリンが作られるときに同じ数だけ一緒に出る副産物があります。外から打ったインスリンには含まれないので、治療中でも「自前がどれだけ出ているか」が分かるはずのものです。

ところが、犬猫では、日常の診療で使える検査として確立していません。とくにネコさんについては、国際的なガイドラインも「残っているβ細胞の働きを実用的に測る方法はない」としています。

猫用の飲み薬を使えるかどうかを判断するときには、「自前のインスリンがまだ残っていること」が条件になります。ところが、その残り具合を測る方法がない。知りたい情報が、まさに測れない。それが現在地です。

測ることが役に立つ場面もあります

インスリノーマという、インスリンが出すぎる病気を疑うときです(フェレットさんとワンちゃんに多い病気です)。血糖が実際に低いその時点で採血し、同じ血液から、血糖とインスリンの両方を測ります。本来、血糖が下がればインスリンは抑えられているはず。ところが血糖が低いのに、インスリンが十分に抑えられていない——これが「下がるべきときに、下がっていない」という所見です。

採血はかかりつけの動物病院でできます。インスリンの測定は外部の検査センターへ送ることが多く、結果までに数日かかります。気になるときは「血糖が低いときの血液で、インスリンも一緒に測れますか」と相談してみてください。

絶食して血糖が下がるのを待つ方法もありますが、これはご家庭でなさる検査ではありません。インスリノーマでは、絶食で重い低血糖、けいれん、意識障害が起こることがあります。必要な場合は、血糖を繰り返し測りながら、すぐにブドウ糖を入れられる動物病院の管理のもとで行います。自宅で食事を抜いて確かめようとしないでください。

インスリンが低くても、それだけで否定はできません。ほかの低血糖の原因を除き、画像検査なども合わせて判断します。

つまり、インスリンを測る検査は存在します。使いどころが違うのです。

第12章 数字とのつきあい方が、変わりました

病院で測る血糖曲線が、ネコさんでは勧められなくなりました

以前は、朝から夕方まで入院して、何度も採血して曲線を描く——これが標準でした。2026年のガイドラインは、ネコさんでは、これを日常の評価としては勧めていません。理由は、入院中のストレスで肝臓が糖を出してしまい、数字が大きく歪むからです。

代わりに見るのは、症状と、体重と、家で取ったデータです。

私たちが2021年に「通院回数が増えるほどインスリンは安定しません」とお伝えしたのは、このことでした。ただし「だから通院しなくていい」ではありません。病院で測った1回の数字だけで判断しない、というのが今の考え方です。

CGM ― 家で、連続して測れるようになりました

CGMは「持続グルコース測定」の略です。(英語の Continuous Glucose Monitoring の頭文字です。「リブレ」という製品名で耳にされた方もあるかもしれません。)

どういうものか——500円玉より一回り大きいくらいの丸いセンサーを、皮膚に貼り付けます。センサーの裏には細く柔らかいフィラメントがついていて、これが皮膚の下に入ります。このセンサーが、一定の間隔で、最長2週間ほど、糖の値を記録し続けます。読み取り機やスマートフォンをかざすと、そのときの値と、これまでの折れ線グラフが表示されます。※記録の間隔や読み取り方は、機種によって違います。

CGMの使いかた(貼る・読む・皮下で測る)

どうやって着けるのか

飼い主さんから、よくご質問をいただきます。手順は上の図のとおりですが、言葉でもお答えします。

毛は刈ります。被毛の上からは貼れません。首のうしろや肩の上など、平らで動きの少ないところを刈り、皮膚をきれいにして、しっかり乾かしてから貼ります。

針は、残りません。装着器の針がフィラメントを皮膚の下に置いたあと、針だけが装着器の中へ戻ります。残るのは、長さ5ミリほどの、細く柔らかいフィラメントだけです。刺したままにするわけではありません。

装着そのものは、数秒で終わります。「予防注射より痛くない」「ほとんどの子は気づかない」と説明されることが多い処置です(※これは提供する側の説明で、その子の感じ方までは分かりません)。

ただし「誰にでも簡単」とは言えません。動物では粘着だけでは足りず、テープや包帯で補強したり、保護着を着せたりすることがほとんどです。そのうえ、どこに貼るか(体格・動き・毛の長さで変わります)、皮膚が荒れないか、はがして食べてしまわないか——判断することがいくつもあります。最初は、かかりつけの先生に着けていただくのが確実です。

何が変わったか——耳や血管から何度も採血しなくてよくなりました。そして何より、夜のあいだや、留守のあいだの動きが、初めて見えるようになりました。「朝は落ち着いているのに、夜中に下がりすぎていた」——そういうことが分かります。

ただし、いくつか知っておいていただきたいことがあります。もともと人の糖尿病のために作られた機器で、動物用に較正されたものではありません。

そして——読み方に、コツがあります。

見ているのは、血液ではありません

CGMが測っているのは、血液ではなく、細胞のまわりを満たしている液(間質液)の糖です。血液から染み出してくるので、血糖の変化を、遅れて追いかけることがあります。とくに血糖が急に動いているときは、差が大きくなります。

一般的な傾向は、下の図のとおりです。

CGMのずれ(上がるときは低く、下がるときは高く見える)

ただし、これは「必ずこうなる決まり」ではありません。センサーそのものの誤差もあり、とくに低い領域では逆の向きに出ることも報告されています。

とくに注意していただきたいのは、下がっている最中です。CGMが70前後を表示して、しかも下がっている最中なら、実際の血糖はもっと低いかもしれません。(ただし、かなり低い領域ではセンサーが高めに表示するというデータもあり、数字から血液の値を一方向に決めつけることはできません。)

CGMは指標であって、決定ではありません。けれども、命に関わる場面もあるため、日々の判断のよりどころとして使う価値は十分にあります。

低血糖の症状があるときは、確認を待たずに、あらかじめかかりつけの先生と決めておいた対応をしてください。症状がなければ、可能なら血糖計で確かめてください。そして、CGMの数字だけを根拠に、インスリンの量を変えないでください。

波形を比べるときは、同じ条件どうしで。前回の10日目と今回の2日目を比べても、意味のある比較にはなりません。

打つ場所も、記録してください

地味ですが、大切な記録になります。針が筋肉まで届いた、注射が漏れた、毎回まったく違う場所に打っている、皮膚や皮下の状態が変わった——効きはじめる時刻や、入っていく量が変わることがあります。クッシングや痩せで皮膚が薄い子では、針が深く入りやすくなります。

打った場所と、漏れがなかったかを記録しておいて、血糖のばらつきと一緒にかかりつけの先生に見せてください。それだけで、原因が見つかることがあります。

※場所が違うからといって、自己判断で量を変えないでください。

同じ「上がりにくい」でも、原因が2つあります

食後の血糖の上がり方がゆるやかになった。良いことのように見えますが、中身が2つあります。インスリンの効きが良くなった(本当に必要量が減った)のか、糖が入ってくるのが遅くなった(必要量は変わらないのに、インスリンが効く時刻と糖が来る時刻が噛み合わなくなった)のか。この2つは、対応が正反対です。見え方が同じでも中身が違う——だからこそ、数字だけで判断せず、かかりつけの先生と一緒に読むのです。

第13章 ごはんの袋から、炭水化物を見てみる

ペットフードのパッケージには、たいてい炭水化物の表示がありません。けれども、保証分析値から、おおよその見当はつきます。保証分析値に並んでいる粗タンパク質・粗脂肪・粗繊維・粗灰分・水分を100から引くと、残りが炭水化物にあたる部分の、おおよその値になります。

ごはんの袋から炭水化物を見る(保証分析値の引き算)

100 -(水分 + 粗タンパク質 + 粗脂肪 + 粗灰分 + 粗繊維)

何が分かって、何が分からないか

分かることと分からないことは、上の図のとおりです。ひとつ足すなら——「グレインフリーだから糖質が少ない」とは限りません。穀物を抜いても、ジャガイモ・サツマイモ・エンドウ豆・レンズ豆のでんぷんに置き換わっていれば、量は下がっていません。それを自分の目で確かめられるのが、この計算のいちばんの値打ちです。

なお、保証分析値は実測の平均ではありません。粗タンパク質と粗脂肪は「最低これだけ」、粗繊維と水分は「最大でもこれだけ」という表示です。

この数字を、「乾物量で25%未満」と比べないでください

ネコさんの目安としてお伝えした「乾物量で25%未満」という数字は、水分を除いた重さで計算したものです。いっぽう、ここで出した数字は、水分を含んだ、パッケージの表示のままの概算です。

基準が違うので、直接くらべることはできません。とくにウェットフードは水分が多いぶん、この計算では小さな数字になります。それを「乾物量で25%未満」と見くらべて「じゅうぶん低い」と判断すると、選び方を誤ります。

この計算は、水分量の近い製品どうしを大まかに比べるところまでにしてください。乾物量に直した比較をなさりたいときは、ご相談ください。

この数字で、してはいけないこと

この計算は、フードを比べるための目安です。診断にも、インスリンの量を決めるためにも使えません。

インスリンを使っている子で、食事の量や糖質の量を大きく変えると、同じ注射の量でも低血糖になることがあります。ごはんを変える前に、確かめかたと連絡の基準を、かかりつけの先生と決めてください。

そして——食欲が落ちている子、痩せてきている子、腎臓が悪い子では、数字より「十分に食べられること」が優先されます。

第14章 見逃してはいけないサイン

ここは、いちばん大事な章です。

ケトアシドーシス(DKA)

吐く/食欲がなくなる/元気がない/おなかを痛がる/脱水/呼吸が速い/体重が減る

息が甘い、あるいは除光液のような匂いがすることがあります。ただし、匂いがしなくても否定できません。匂いを待たないでください。

急速に悪くなり、放っておけば命に関わります。糖尿病と診断される前の、最初のサインとして現れることも少なくありません。

これらの症状があるときは

血糖の数字や、尿糖の結果を待たないでください。直ちにかかりつけの先生、または救急病院へ連絡して、受診してください。

とくに、猫用の飲み薬(SGLT2阻害薬)を使っている子では、血糖が高くなくてもケトアシドーシスを否定できません。受診のときには、お薬の名前と、量と、最後に飲ませた時刻を必ず伝えてください。伝えないと、血糖の数字だけを見て見逃されることがあります。処方の履歴(日付とお薬の名称・量・領収書などの明細に書かれていることもあります)、メモ、スマートフォンの写真——すぐに示せる形にしておいてください。

低血糖

ふらつく/ぼんやりする/けいれん/意識が遠のく——緊急です。

してはいけないこと

  • 自己判断で、次のインスリンを追加しない。すぐにかかりつけの先生か救急病院へ連絡してください。
  • 意識が低下している子の口の奥に、食べ物や液体を入れない。誤嚥します。
  • CGMの数字だけを根拠に、インスリンの量を変えない。

すること

  • 意識があって、安全に飲み込めるなら、あらかじめかかりつけの先生から指示されている糖分か食べ物を与えて、そのうえで直ちに連絡してください。(ブドウ糖・果糖・ビタミン・ミネラルを含む、アルティジャーノ/液体酵素の薄め液が利用できます。)何を、どれだけ、どのくらいの濃さで使うかは、いざというときに迷わないよう、前もってかかりつけの先生と決めておいてください。
  • あらかじめ渡されている対応の計画に従ってください。

食欲が落ちたとき

在宅ケアで、いちばん切実な場面です。

「食べないから、打つ・打たない」を、自己判断で決めないでください。食欲が落ちたときのインスリンの扱いは、その子の製剤・血糖・ケトン・治療歴によって違います。「食べなければ必ず中止」ではありません。全部やめてしまうことで、ケトアシドーシスにつながることもあります。

食欲が落ちたら、様子を見る場面ではなく、連絡する場面です。

診断されたときに、もらっておくもの

これは、私たちからのお願いです。その場で迷わないための、いちばん実際的な備えです。

  • 「全部食べたとき」「半分しか食べないとき」「まったく食べないとき」に、インスリンをどうするか。この3つの場合分けを、書面でもらっておいてください。
  • 低血糖のときに、何を、どれだけ与えるか。
  • 時間内と時間外の連絡先。そして、どうなったら連絡していいのか。

夜間など、すぐに病院へ確認できない場面が起こることがあります。そのときに、手元に覚書の紙があるかどうかで、変わります。

第15章 併発と、身のまわり

一緒に起きている病気を、見落とさない

ケトアシドーシスを起こした子では、何かを併発していることが少なくありません。膵炎、細菌性膀胱炎、クッシング症候群、腫瘍、肝臓や腎臓の病気。ネコさんでは膵炎、ワンちゃんでは甲状腺機能低下症が多くみられます。

ステロイドのこと

ネコさんの糖尿病で、飼い主さんがいちばん出会いやすい引き金のひとつが、ステロイドです。

口内炎の痛みや炎症を抑えるために使われ、その結果として食べられるようになることもあります。

ステロイド(コルチゾール)は、肝臓に糖を作らせ、同時にインスリンの効きを鈍らせます。つまり、血糖を上げる方向に、二重に働きます。

これは「使ってはいけない」という話ではありません。痛くて食べられない子に、ほかに手がないこともあります。

ただ、使っているあいだは、飲む水の量、おしっこの量、体重を、いつもより気にしてあげてください。

そして、自己判断で急にやめたり減らしたりしないでください。ステロイドは、急にやめること自体が危険な場合があります。気になるときは、中止ではなく——「何のために使っているのか」「いちばん少ない量にできるか」「ほかの方法はあるか」「血糖をどう見ていくか」を、かかりつけの先生と相談してください。すでに糖尿病がある場合や、水を飲む量・おしっこ・体重に変化が出てきた場合は、お薬の名前と、いつ打ったか、持続性の注射かどうかを伝えてください。

身のまわりのこと

炎症は、入り口がどこであってもインスリンの効きを鈍らせる方向に働きます。口のなかも、腸も、そして——外から入ってくるものもです。

私たちは化学物質のページに、以前からこう書いてきました。「大気汚染や生活環境由来の化学物質の取り込みによって炎症反応は強くなります。

人では、大気の汚れと糖代謝の関係について、研究が積み上がってきています。ただし、犬やネコさんで「化学物質が糖尿病を起こす」ことを示した研究は、まだありません。ですから、ここは断定しません。

言えるのは、こうです——炎症を放っておかないこと。それは、身のまわりを整えることと、つながっています。(暮らしのなかの化学物質については、同じシリーズの「代謝と解毒のために」で詳しくお話ししています。)

むすび

糖尿病と言われた日から、飼い主さんの毎日は変わります。時間を計り、量を計り、様子を見て、記録をつける。決して軽い作業ではありません。

けれども、このコラムでお伝えしたかったのは、「大変ですね」ということではありません。

ネコさんには、休ませてあげられる時間があります。早く手を打てた子ほど、その可能性は高くなります。ワンちゃんの目標は、血糖の数字ではありません。その子が普通に暮らせているかどうかです。

そしてどちらにも共通しているのは、「インスリンが効かない」の中身を分けることです。量を増やす前に、太りすぎていないか、ホルモンが絡んでいないか、お薬が絡んでいないか、口のなかや腸に炎症がないか、そもそもちゃんと入っているか。そこを一緒に探していくことが、いちばん近道です。

数字は、道具です。目的ではありません。病院の1回の数字も、CGMの1点も、その子そのものではありません。食べているか、飲んでいるか、体重が保てているか、いつもどおり過ごせているか——数字には出ない変化を、毎日そばで見ている飼い主さんが、いちばん先に気づけることがあります。

観察と検査を組み合わせて、はじめてその子のことが分かります。

最後に、私たちがいちばん気にかけていること

ネコさんの糖尿病では、膵炎とともに、腎臓の働きも落ちてきていることが少なくありません。

インスリンを打ちながら、低タンパクのごはんを優先される獣医さんもいらっしゃいます。けれどもそれでは、糖尿病の子に必要なタンパク質の量に届かないことがあります。

体はひとつです。気にしなければならないのは、糖だけではありません。そして——必要であっても、インスリンはお薬です。副反応への配慮も要ります。

難しい病気だからこそ、その子その子に見合う「戦う力」が必要です。療法食や処方食では、その力を支えるのに不十分なことが多いため、NinnaNannaでは、こうしたごはんをお勧めすることはありません。

分からないことは、遠慮なくお尋ねください。ごはんの組み立ても、記録の付け方も、一緒に考えます。

貴方だけを信じている、可愛いシッポのために。愛と、工夫で、いっしょに頑張っていきましょう。

その子の底力を、毎日の食卓から。

※ 日中お時間の取れない方や、急なご心配のために、食事と日常のケアに関するご相談は24時間承っています。ただし、緊急の診察・治療の代わりにはなりません。 吐く、食欲がない、ぐったりしている、ふらつく、けいれん――こうしたときは、私たちへのご連絡を待たずに、かかりつけの動物病院か夜間救急を受診してください。

糖尿病のためのサプリ・フード

これらは糖尿病の治療薬ではなく、インスリンやその他の治療に代わるものではありません。持病があったり、治療中のお薬がある場合は、原材料と使い方をご確認のうえ、かかりつけの先生にもご相談ください。

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