
甲状腺のために ― ワンちゃん編
「最近、寝ている時間が増えた」「散歩に行きたがらない」「ごはんは増やしていないのに、太ってきた」「毛が薄くなって、しっぽの毛も抜けてきた」
年のせいかしら、と思われがちな変化の中に、甲状腺機能低下症のワンちゃんがいらっしゃいます。ゆっくり進むので、年齢のせいに見えやすい病気です。
一方で、甲状腺の数値は、ほかの病気や、ステロイドなどのお薬でも下がります。本当は低下症ではないのに、甲状腺のお薬を飲み続けている子が少なくないことも、分かってきました。
このページでは、ワンちゃんの甲状腺機能低下症がどんな病気なのか、標準的な治療はどう進むのか、そして私たちが考える原因と、体を安定させるためにお家でできることをお伝えします。
1. 甲状腺は、全身の代謝のアクセルです
甲状腺は、喉の気管の両脇にある小さな臓器です。
ここで作られる甲状腺ホルモンは、体じゅうの細胞に「どのくらいの速さで働くか」を伝えています。熱を作る、心臓を打つ、栄養を燃やしてエネルギーに変える、皮膚や毛を生まれ変わらせる。そのすべての速さを決めているのが、このホルモンです。
甲状腺が主に出しているのはT4(サイロキシン)というホルモンです。T4はそのままでは力が弱く、肝臓・腎臓・筋肉などで、働く形のT3(トリヨードサイロニン)に作り替えられて、はじめて本来の働きをします。
詳しく覚えなくて大丈夫です。甲状腺の働きは、肝臓や腎臓の働きと切り離せない。 ここだけ覚えておいてください。
もう1つ。甲状腺の表面と内側には、副甲状腺という米粒ほどの組織が、左右に2つずつあります。こちらは、体の中のカルシウムの量を調整する役目です。カルシウムを不足させないことが大切な理由は、第9章と第12章でお伝えします。

2. ワンちゃんは「足りない」、ネコさんは「出すぎ」
甲状腺の病気には、正反対の2つがあります。
- 甲状腺機能低下症:ホルモンが足りない。ワンちゃんに多い。
- 甲状腺機能亢進症:ホルモンが出すぎる。ネコさんに多い。

同じ「甲状腺の病気」でも、アクセルが弱くなるワンちゃんと、アクセルが戻らなくなるネコさんでは、起きることもケアも逆になります。「代謝を下げましょう」「甲状腺を休ませましょう」といった話を、ワンちゃんにそのまま当てはめることはできません。
ワンちゃんの低下症は、中年以降に多い病気です。英国の一次診療の調べでは、診断されたときの年齢の中央値は7.65歳、1年間に診断を受けていた子は0.23%でした。日本のペット保険のデータでは、0〜10歳で平均0.6%、12歳では2.4%の子に、この病気での保険の請求がありました(請求の数で、本当に低下症だったかまでは確かめられていません)。
日本で多い犬種として、アメリカン・コッカー・スパニエル、ゴールデン・レトリーバー、シェットランド・シープドッグ、ポメラニアン、ビーグル、柴が挙がっています。
原因のほとんど(95%以上)は、甲状腺そのものが壊れていくことです。その少なくとも半数は、免疫が自分の甲状腺を攻撃する「甲状腺炎」、残りは、炎症を伴わずに甲状腺が縮んでいく「萎縮」です。
低下症になるまで壊れてしまった甲状腺は、元には戻りません。 だから、足りないホルモンをお薬で補いながら、体を安定させていくことになります。
なお、ワンちゃんにも、ホルモンが出すぎる亢進症はあります。けれどまれで、原因のほとんどは、甲状腺の腫瘍か、食べ物から甲状腺ホルモンが入ってくること(第10章)です。
3. 見つけ方 ―「年のせい」に隠れる変化
甲状腺ホルモンが足りなくなると、体じゅうの細胞の働きが、少しずつゆっくりになります。変化はゆっくり進むので、「年のせい」に見えてしまいます。
主な症状と、そうなる理由
- 元気がない、寝ている時間が増える(76%):エネルギーを作る速さが落ちる。
- 散歩や運動を嫌がる、動きが鈍い(24%):筋肉の働きも落ちる。
- ごはんの量が増えていないのに、体重が増える(44%):使うエネルギーが減る。
- 寒がりになり、暖かい場所を好む:熱を作る力が落ちる。
- 毛が薄くなる・抜ける(56%)。特に胴体やしっぽ。しっぽが「ネズミの尾」のようになることも:毛の生え替わりの休む期間が長くなり、抜けたあと生えてこない。
- 毛艶が悪い、毛が生えにくい(30%)
- 皮膚が黒ずむ(20%)、脂っぽい、フケが増える
- 皮膚炎・外耳炎を繰り返す:皮膚の生まれ変わりと守る力が落ちる。
- 表情がぼんやりする、顔がむくんで見える:皮膚の中に水を抱え込む物質がたまり、腫れぼったくなる。悲しげな顔つきに見えることから「悲しい顔」と呼ばれることもある。
- 脈がゆっくりになる:心臓を打つ速さと力が落ちる。
- 便秘や下痢:腸の動きが変わる(ある研究では44%の子に)。
- まれに、ふらつき、顔の片側の麻痺(顔面神経麻痺)などの神経の症状
(%は、英国で低下症と診断された50頭の研究。便秘や下痢は、別の31頭の研究)
皮膚の症状は、約8割の子に見られます。
血液検査では、中性脂肪(88%)やコレステロール(78%)が上がる、赤血球が少なくなる(40%)といった変化がよく見られます。脂肪を燃やして処理する速さが落ちるためです。
「太っている=甲状腺」ではありません
体重が増えた子の多くは、甲状腺機能低下症ではありません。太っているワンちゃんのT4は、むしろ少し高めだったという研究もあります。体重が増えたことに、元気のなさ、寒がり、左右対称の脱毛などが一緒に見られるかどうかが、目安になります。
ほかの病気と、よく似ています
ここに挙げた症状は、どれもほかの病気でも起こります。しかも、ほかの病気そのものや、ステロイドなどのお薬でも、甲状腺の数値は下がります(第5章)。
月に1度は体重を量り、毛や皮膚の様子を写真に残してください。 「いつから、どう変わったか」は、何よりの判断材料になります。
4. なぜ起きるのか
免疫が、自分の甲状腺を攻撃する
ワンちゃんの低下症でいちばん多い甲状腺炎は、体を守るはずの免疫が、自分の甲状腺を取り違えて攻撃する病気です。
甲状腺の中にリンパ球などの免疫の細胞が入り込み、ホルモンを作る小さな袋(濾胞)を、少しずつ壊していきます。血液検査では、その目印としてサイログロブリン抗体(TgAA)が見つかります。
初めのうちは、脳から出る甲状腺刺激ホルモン(TSH)が「もっと出して」と甲状腺を急かして補うので、数値も体調も正常です。壊れた部分が増えると補いきれなくなり、ホルモンが下がって、症状が出てきます。さらに進むと、甲状腺は縮み、抗体も見つからなくなります。
進み方は、一人一人大きく違います。抗体が見つかった子を平均3.9年追いかけた研究では、低下症に進んだ、またはお薬を始めた子は30%。半数は抗体があるまま甲状腺の働きは正常で、14%は抗体が消えました。
きっかけは、まだ分かっていません
甲状腺炎には遺伝が大きく関わっていて、犬種によってなりやすさが大きく違います。けれど、免疫が甲状腺を攻撃し始めるきっかけは、まだ分かっていません。
人の場合は、ヨウ素の摂りすぎ、セレンやビタミンDの不足、環境の汚染物質などが、きっかけの候補として挙げられています。
私たちは、栄養バランスの崩れと化学物質も、原因として考えています
栄養バランスの崩れワンちゃんのごはんは、ドッグフードだけ、あるいは偏った手作り食やお肉のおやつに寄ってしまうと、カルシウムなどのミネラルやビタミンが不足しがちです。甲状腺ホルモンの材料になるヨウ素も、足りなくても、多すぎても、低下症になることが確かめられています(第11章)。
お薬ステロイドや、てんかんのお薬のフェノバルビタールなどは、甲状腺の数値を下げます。サルファ剤という抗菌薬では、本当に低下症になった例もあります(第5章・第8章)。
化学物質家具や家電の難燃剤、古い電気製品などに使われたPCBは、甲状腺ホルモンとよく似た形をしています。ワンちゃんでも、こうした物質を与えた実験や、汚染された鯨の脂肪を食べ続けたそり犬で、甲状腺ホルモンの値が下がったことが報告されています。人では、環境の汚染物質が、免疫が甲状腺を攻撃する病気のきっかけの1つに挙げられています。
体に入った化学物質を処理するのは、肝臓と腎臓です。これらは切り離せない臓器と、私たちは考えています。
だからこそ、体への負担を減らして、安定させる
壊れた甲状腺を元に戻すことはできません。けれど、数値を下げるお薬を必要最低限にし、足りない栄養を補い、化学物質の少ない暮らしに整えることはできます。
それが、残っている甲状腺の働きと、体全体を安定させることにつながると、私たちは考えています。第8章から第13章で、その方法をお伝えします。
5. 「低下症」と言われたら ― 過剰診断されやすい病気です
標準医療自身が、そう認めています
米国の動物病院協会のガイドライン(2023年)は、ワンちゃんの甲状腺機能低下症を「よく過剰診断される」病気としています。症状がほかの病気と紛らわしく、検査の読み方が難しいためです。
実際に、一次診療で低下症と診断され、甲状腺のお薬を飲んでいた102頭を、専門の獣医さん3人が見直したところ、45〜59%について「お薬を飲む根拠がない」と判断されました。グレーハウンドなどのサイトハウンドで低下症と診断された398頭では、7.5%が、すべての検査の数値が基準範囲に入っていたのに、診断されお薬を飲んでいました。
T4は、甲状腺以外の理由でも下がります

- ほかの病気:日本の大学の研究では、甲状腺以外の病気を抱えた207頭のうち、47.8%でT4が低く出ていました。このことは、甲状腺以外の病気が重いほど下がることが分かっています。
- お薬
- ステロイド(プレドニゾロンなど):飲み薬で数値が下がり、塗り薬でもT4が約半分になった報告がある。
- フェノバルビタール(てんかんのお薬):1か月を超えて飲んでいる子の15〜75%で、T4が基準より低くなる。
- サルファ剤(ST合剤などの抗菌薬):多い量では、半数以上の子でT4が下がり、本当の低下症になった例もある。
- アスピリン、クロミプラミン(行動のお薬)、トリロスタン(クッシング症候群のお薬)なども、数値を下げる。
- 麻酔や手術のあと:しばらく下がる。
- 犬種:グレーハウンドは、健康な若い子の91%が、一般の基準値より低い。ウィペット、サルーキなども、もともと低め。
- 年齢:健康なシニアの子でも、T4は下がってくる。
- クッシング症候群:副腎のホルモンが多いと、T4が下がる。
つまり、T4が低い=甲状腺が悪い、とは限らないのです。
検査の前に、書き出しておいてください
- 飲んでいるお薬、塗り薬、目薬、耳の薬
- 最近、麻酔や手術を受けたか
- ほかに抱えている病気、最近の体調
お薬の影響を受けずに数値を見るには、お薬をやめてから、次の期間をあけて検査するのが目安とされています。
- ステロイド:1週間以上
- アスピリン:1〜2週間
- サルファ剤:4週間以上
- フェノバルビタール:6週間以上
- 麻酔や手術のあと:2週間は検査しない。
ただし、ステロイドやフェノバルビタールは、急にやめない方がよい場合があるお薬です(第8章)。やめる・減らす・ほかのお薬に替えるときは、かかりつけの先生と相談しながら進めてください。
「お薬を飲んだら元気になったから、低下症」ではありません
甲状腺ホルモンのお薬は、低下症でない子でも、元気や毛並みに変化が出ることがあると言われています。「試しに飲ませて良くなった」は、低下症の証拠になりません。
甲状腺の働きが正常な子なら、お薬を1週間ほど休めば、正しく検査し直せることが分かっています。「本当に低下症なのか」と迷われたら、かかりつけの先生に、休薬して再検査したいことをお伝えになるのもよいでしょう。
お薬を始めるか、続けるかを決めるのは、飼い主さんです。
6. 検査の数値の読み方
数値の意味を知っておくと、説明を受けたときに、ご自身で判断する材料になります。

T4(総T4)
もっとも基本の検査で、院内に機械のある動物病院なら、その場で測れます。基準範囲は、検査会社や機械によって違います(ワンちゃんの例は、この章の最後に)。変化を追うなら、同じところで測り続けるほうが、変化が把握できるようになります。
T4は、「低くなければ、低下症の可能性は低い」ことを確かめる検査です。低いだけでは、低下症とは決められません。 低下症を疑われたけれど実際は正常だった子の、18%でT4が低く出ていました(第5章の理由から)。
FT4(遊離T4)
T4のうち、たんぱく質とくっついていない「働ける分」だけを見る検査です。ほかの病気の影響を受けにくいのが強みで、T4より正確に低下症を見分けられます。こちらは、通常、院内の機械では測れないため、検査会社に依頼することになります。
測り方には、基準とされる平衡透析法(へいこうとうせきほう)と、より手軽な方法があります。ほかの病気を抱えた子では、手軽な方法だと見分ける力が落ちるという報告があるため、事前に「どの方法か」を確かめると安心です。
TSH(甲状腺刺激ホルモン)は、脳から甲状腺に「もっと出して」と指示するホルモンです
甲状腺そのものが弱ると対応力が衰えるため、「足りないから出して」の指示が出て、TSHは上がります。そのためT4やFT4が低く、TSHが高い。この組み合わせなら、低下症の可能性が高くなります。ただし、低下症の子の約4分の1では、TSHが上がりません。TSHが正常でも、低下症が無いとは言い切れないのも、この病気の難しいところです。ワンちゃんのTSHは、検査会社のほか、院内の機械で測れる動物病院もあります。
サイログロブリン抗体(TgAA)
免疫が甲状腺を攻撃している目印です(第4章)。低下症の子の3分の1ほどで見つかります。抗体が見つかっても、すぐに低下症になるわけではありません。 抗体だけが陽性の段階や、TSHだけが高い段階では、お薬を始めることは勧められていません(欧州の専門家の合意)。6〜12か月ごとに測り直して、変化を見ていきます。
かかりつけの先生への、頼み方
どの検査も、かかりつけの動物病院で採血していただき、検査会社に頼むことができます。
- 基本の3つ:「T4、FT4、TSHを一緒に測っていただけますか」。国内の主な検査会社で頼めます(アイデックスでは「サイロイドセット3」)。
- お薬を飲んでいる、ほかの病気がある:「FT4を平衡透析法で測れますか」。アイデックスの「サイロイドセット3-ED RIA」などで、米国へ検体を送るため、結果まで1〜2週間かかります。
- 甲状腺炎かどうかを知りたい:「アイデックスの犬サイログロブリン自己抗体(TgAA)を頼めますか」。国内で受けているのは、調べた範囲ではアイデックスだけで、米国へ送ります(獣医さんの証明書が必要)。
- お薬を始めてからの確認:採血はお薬の4〜6時間後に。毎回、同じ検査会社・同じ方法で測ってもらうと、変化を比べやすくなります。
基準範囲の例(ワンちゃん):T4=1.0〜4.0 μg/dL(アイデックス)・1.00〜2.90 μg/dL(富士フイルムVETシステムズ)・0.84〜3.46 μg/dL(ランス)。検査会社と方法によって違いますので、結果の用紙に書かれた基準範囲と比べてください。検査については、かかりつけの先生に希望を伝えて、相談しながら進めていただくと良いでしょう。
コレステロールと中性脂肪
この病気は脂質の代謝が悪くなるため、低下症の子の多くで上がります。けれども、お薬で補って甲状腺ホルモンが足りてくると、自然に下がっていきます。治療がうまくいっているかを見る目安の1つになります。
1度の検査で決めない
この病気は症状と数値がそろっているかが、何より大切です。けれども、数値は動くため、数値だけ、症状だけで決めず、疑わしいときは時間をおいて測り直してください。
7. 心臓・肝臓・腎臓・糖尿病とのつながり
甲状腺ホルモンが足りないと、全身の働きがゆっくりになります。
心臓
脈がゆっくりになることで、心臓が血液を送り出す力も落ちます。低下症が原因で心臓のポンプ機能が落ちたことに通じる諸症状は、甲状腺ホルモンを補うと、約2か月で戻ります。但し、拡張型心筋症による心臓のポンプ機能低下は、甲状腺機能低下症のお薬では回復しません。心臓疾患は別の病気として対処してください。
脂肪の処理と、肝臓
脂肪を燃やして処理する速さが落ち、コレステロールや中性脂肪が血液にたまります。肝臓の数値(ALPなど)が上がる子もいます。血管の壁に脂肪がたまる動脈硬化が見つかったワンちゃんでは、低下症を抱えている子が多かったという報告もあります。
腎臓と、水のこと
腎臓で血液をろ過する量が、健康なときの約3分の2に下がることが、実験で確かめられています。それでも、筋肉で作られるクレアチニンも減るため、腎臓の数値は正常に見えることがあります。不足する甲状腺ホルモンをお薬で補うと、ろ過の量は上がり、腎臓の数値は良くなる方向に動きます。
低下症は、おしっこが増えて水を失う病気ではありません。むしろ、水をよく飲み、おしっこが増えたときは、甲状腺のお薬が多すぎるサインのことがあります(第9章)。低下症には、多飲多尿の症状はありません。けれど、シニアの子で腎臓の病気を抱えていたり、吐く・下痢が続く、といった理由で脱水しているときは、皮下輸液で水分を補う必要があることも考慮しなくてはなりません。但し、低下症の子は心臓が送り出す力と水を捨てる力が落ちているので、甲状腺ホルモンのお薬を使用していない場合ほど、輸液の量と速さに気をつけてもらってください。
糖尿病
甲状腺ホルモンが足りないと、インスリンが効きにくくなります。糖尿病と低下症を併せ持った3頭では、甲状腺のお薬を始めて2週間以内に、全頭で低血糖が起き、インスリンを約6割減らす必要がありました。糖尿病の子が甲状腺のお薬を始めるときは、低血糖(ふらつき、震え、ぐったりする)に特に気をつけてください。
からだは1つです。 糖尿病に限らずですが、甲状腺の数値だけを見ていても、その子の体は分かりません。これが、甲状腺機能低下症の難しい側面です。
8. お薬の原則 ― 必要最低限の処方を
私たちの考え方
低下症を引き起こす可能性があるお薬を使っているなら、その量を、食事の改善で減らしていく。そのうえで、甲状腺のお薬は、必要最低限の処方を受ける。これが、私たちの考える原則です。
数値を下げるお薬を、減らしていくために
ステロイド、フェノバルビタール、サルファ剤などを使っている理由は、かゆみ、てんかん、感染症など、さまざまです。こうしたお薬が必要となる基礎疾患を、ごはんと暮らしから整えていくことで、これらのお薬の量を減らせたワンちゃんたちがいらっしゃいます。当店では、こうしたお薬の量を実際に変えるときにも、ごはんからのアプローチで、あらかじめ、その子の体に無理のない準備をしていただくようお伝えしています。そのうえで、処方を受けているかかりつけの先生とご相談いただくようお願いしています。
かゆみ・皮膚炎(ステロイドなど)
- 食べ物が関わっていないか、確かめる:アトピー性皮膚炎と診断された子の9〜50%に、食べ物が関わっていたと報告されています。国際的な専門家の指針は、1年中かゆがる子では、8週間の除去食試験(それまで食べたことのないたんぱく質などに絞ったごはんで様子を見る方法)を勧めています。試験のあいだは、おやつや、味の付いたお薬も含めて排除するためのルールを守る必要があります(ただし、当店では原因をたんぱく質に限ってはいません。添加物をはじめとする他の物質にも視野を広げるようお伝えしています)。
- オメガ3脂肪酸(魚の油):60頭の試験では、64日目以降に、ステロイドの使用量が少なく済むという差が出ました。別の22頭の研究では、かゆみのお薬の量が約6割減りました。効いてくるまでに時間がかかるので、始めた日と、毎日のかゆみの強さ(0〜10点など)を記録しておくと、お薬を減らす相談の材料になります。但し、このことは、食べている脂質の内訳のアンバランスを意味しています。当店でこれまでのご相談の経験を踏まえて言い換えると、これは栄養のバランスの問題ですから、単にオメガ3脂肪酸を増やすことよりも、ごはんの見直しを先に行う方が近道になります。
てんかん(フェノバルビタール)
- 中鎖脂肪酸(MCT)を含むごはんを続けた21頭では、発作の回数が減り、3頭は発作が止まり、7頭は半分以下になりました(お薬の量は変えずに比べた試験です)。手作りの食事に切り替え、管理のもとでフェノバルビタールを大きく減らせた、あるいはやめられた例も報告されています(中鎖脂肪酸は脂質のため、低下症の子たちには慎重にしていただきたい栄養素です。お迷いの際は、ご遠慮なくお声がけください)。
- 甲状腺の数値に影響しにくい、てんかんのお薬もあります(臭化カリウムなど)。
- 臭化カリウムを飲んでいる子は、ごはんを急に変えないでください。 ごはんに含まれる塩化物(食塩に含まれる成分)の量で、お薬の血液中の濃さが変わります。ごはんを変えて塩化物が53%減り、お薬の濃さがほぼ2倍になって中毒を起こした例があります。変えるときは前もって伝え、血液中の濃さを測ってもらってください。
- 発作の日誌(日時・長さ・様子)をつけておくと、お薬を減らせるかの相談に欠かせない材料になります。
関節の痛み(痛み止め)
- 魚の油を強化したごはんを食べた131頭では、痛み止め(カルプロフェン)の量をより早く減らすことができました。これは栄養のバランスの問題ですから、単にオメガ3脂肪酸を増やすことよりも、ごはんの見直しを先に行う方が近道になります。
皮膚の細菌感染(サルファ剤など)
- 皮膚の表面の細菌感染は、塗り薬やシャンプーなど外からの治療だけで治すのが第一、と国際的な指針にあります。飲み薬が必要なときも、サルファ剤以外の抗菌薬を選べます。
- 繰り返すときは、根本の原因があると考えて、探します。
- サルファ剤で甲状腺の数値が下がっていた子が、お薬をやめて1週間ほどで数値が戻り、甲状腺のお薬が要らなかった例が、いくつも報告されています。低下症そのものも、原因の1つになりえますが、こうした子たちは、皮膚そのものを強くするためのごはんの見直しも必要です。
どのお薬も、減らせるかどうか、どこまで減らせるかは、その子の体の反応を見ながらです。からだは1つです。そして、からだを作る基礎はごはんです。 丁寧な記録をとりながら、できることから進めてください。お迷いの際は、ご遠慮なくお声がけください。
急にやめてはいけないお薬があります
- ステロイド:長く使ったあとに急にやめると、体が自分で作る副腎のホルモンが追いつかず、ぐったりする、吐く、倒れるなど、命に関わることがあります。こうした副腎の働きが戻るまでの日数は、ひとりひとり様々で、2日から4か月以上と大きく違うことから、1回に1〜2割ずつ、1〜4週間かけて減らしていく方法が目安とされています。
- フェノバルビタール:急にやめると、発作がひどくなったり、止まらなくなったりすることがあります。国際的な専門家の指針では、減らすときは1か月に2割以内ずつ、とされています。
当店では、こうしたお薬の量を実際に変えるときにも、ごはんからのアプローチで、あらかじめ、その子の体に無理のない準備をしていただくようお伝えしています。減らす割合と期間は、具体的な計画を紙に書いてもらうと安心です。減らしているあいだに、食欲が戻らない、繰り返し吐く・下痢をする、発作が増える、といった変化があれば、お薬の量を元に戻す必要があるかもしれません。かかりつけの先生とご相談ください。
甲状腺のお薬を飲んでいる子で、ほかのお薬を減らしたら
ステロイドやフェノバルビタールなどを減らすと、それまで下げられていた甲状腺の数値が上がってくることがあります。これは同じ量の甲状腺のお薬のままでは、多すぎる可能性をさしています。ほかのお薬を減らしたら、甲状腺のお薬の量を見直すか、いつT4を測るかを、必ず確かめてください(甲状腺のお薬=レボチロキシンの量を変えたときは、約4週間後、お薬の4〜6時間後に測るのが目安です)。
甲状腺のお薬で、目指すところ
症状が落ち着き、体重・皮膚・毛・元気が保たれ、心臓や肝臓に負担が出ていない。その状態を保つことができる「必要最低限の量」が目標です。数値を基準範囲の真ん中に合わせることが目的ではありません。
T4は、上にも下にも動きます
T4や、働ける分のFT4は、体調やほかの病気、お薬の影響で動きます。人では、大気の汚れがひどいほどFT4が低いという報告が、多くの国から出ています(ワンちゃんで調べた研究は、まだありません)。
気をつけていただきたいのは、FT4が下がったときです。いつもと同じ量のお薬を飲んでいても、効きが悪くなったように、悪化したように見えます。すぐに量を増やすと、体調や空気が戻ったときに、今度は多すぎることになりかねません。量を変える前に、なぜ下がったのかを考え、お家でできる対処を先に取り入れてください。
決めるのは、飼い主さんです
どのお薬を、どの量で続けるか。獣医さんは「できること」「できないこと」をお伝えくださいます。決めるのは、飼い主さんです。
9. レボチロキシンのこと
はじめに、名前を整理します
甲状腺機能低下症のお薬の成分は、レボチロキシンナトリウムです。体の中の甲状腺ホルモン(T4)と、同じ物質です。
国内で承認されている、ワンちゃん用のお薬(製剤)は3つです。
- レベンタ:液体。1日1回、少量のごはんに混ぜる。
- フォーサイロン錠:錠剤。1日2回。体重2.5kg以上の子が対象。
- レボチロ散:粉薬。1日1回、ごはんに混ぜる。分包して処方される。
人用のチラーヂンS錠が使われることもあります。
このページでは、成分の話は「レボチロキシン」、商品の話は製剤の名前で書き分けます。
レボチロキシンの働き
足りない甲状腺ホルモンを、外から補うお薬です。甲状腺を治すお薬ではないので、必要な子は生涯、続けます。
補い始めてからの変化の目安です。
- 元気:約2週間で良くなってくる。
- 全体の症状:多くは4〜6週間
- 皮膚と毛:数か月
- ふらつきなどの神経の症状:約2か月
飲ませ方
- ごはんとの関係:レベンタとレボチロ散では、空腹で飲ませると、ごはんと一緒のときの約2倍の量が血液に入ります。どちらが良い悪いではなく、ごはんと飲ませる順番を、毎日そろえることが大切です。
- ごはんを変えたとき:お薬の吸収が変わり、数値が動くことがあります。
- カルシウム・鉄・胃薬(制酸剤)など:同時に飲むと、お薬の吸収が落ちます。英国のレベンタの説明書は、2時間以上あけるとしています。国内の製剤でも、時間をずらしてください。カルシウムは不足させたくない栄養です(第12章)。不足させないことと、お薬の効きを落とさないこと。この2つを、時間をずらすことで両立させます
検査の間隔
- 飲み始めて、2〜4週間後に1回目
- 採血は、お薬を飲ませてから4〜6時間後(血液中の量がいちばん高いころ)に
- 症状が落ち着いたら、2〜3か月ごと
- 量を変えたとき、ごはんを変えたとき、ほかのお薬を始めたりやめたりしたときも、測り直す必要があります。
副作用
レボチロキシンは、体の中のホルモンと同じ物質なので、「副作用は少ない」と言われます。けれど実際に問題になるのは、量が合わないことと、ほかの病気を抱えている子です。国内の添付文書、海外の説明書、承認のための試験、発売後の報告に書かれているものを、出典別に挙げておきます。参考になさってください。
量が多すぎるときの症状(国内の添付文書・海外の説明書)
- 脈が速い、脈が乱れる
- 呼吸が速い、パンティングが続く、呼吸が苦しい
- 水をよく飲む、おしっこが増える
- 食欲はあるのに、急に痩せる
- 落ち着きがない、興奮する、活発になりすぎる
- 痒がる
- 吐く、下痢
- 元気がない
- 光に対する目の反応がおかしい
- 心不全が悪くなる
お薬そのもの・製剤によるもの
- 皮膚の過敏症(フォーサイロン錠の添付文書による副作用)。痒み、じんましん、顔の腫れといったアレルギーの反応の報告もある(錠剤の添加物が疑われた例もある)。
- フケ(鱗屑)、一過性の嘔吐、肝臓の数値の異常(レベンタ・レボチロ散の添付文書より)
- 下痢・軟便(レベンタでは、添加物によるものと記載)
- 体を動かせるようになって、関節の痛みなど、隠れていた問題が表に出る(海外の説明書)。
治療の始めに、見られることがあるもの
- 抜け毛やフケが、一時的に増える:休んでいた毛が抜けて、新しい毛に生え替わるため。数週間〜2〜3か月のころに見られ、自然に落ち着きます。このように、それまで滞っていたことが投薬によって動き出すことで起きる変化は、時間と共に解消されます。
ほかの病気を抱えている子で、起こりうること
- 心臓病:脈の乱れや、心不全が悪くなる。少ない量から始める。
- 糖尿病:インスリンが効きすぎて、低血糖になる(第7章)。
- 副腎の病気(アジソン病):先に副腎の治療をしないと、副腎の働きが急に追いつかなくなる(副腎クリーゼ)おそれ。治療前のアジソン病では、TSHが上がって低下症と間違われることもある。
使わない子、慎重に使う子
国内の添付文書(レベンタ・フォーサイロン錠)では、次のように決められています。
- 使わない:重い肝臓や腎臓の病気が疑われる子/妊娠中・授乳中の子/レボチロキシン(レベンタは添加物も)でアレルギーを起こしたことがある子。
- 原則として使わない:高血圧・動脈硬化・狭心症・心筋梗塞など、重い心臓や血管の病気がある子(やむを得ず使うときは少量から)/副腎や、脳の下垂体の働きが弱い子(先に副腎の働きを十分に整えてから、少量で)。
- 慎重に使う:肝臓や腎臓の数値に異常がある子(検査の間隔を短く)/糖尿病の子/高齢の子(検査の間隔を短く)。
こうした基礎疾患や体力的な問題を抱える子たちは、低下症と同じような症状をもたらします。そのため当店では、低下症のお薬が使えない、慎重に検討する必要がある子ほど、ごはんからの体質改善が必要だと考えています。
一緒に使うお薬に、気をつけてください
- ワルファリンなど、血を固まりにくくするお薬:効きが強まる。
- インスリン、血糖を下げる飲み薬:必要な量が変わる。低血糖に注意。
- ジゴキシンなどの強心薬:効き方が変わる。
- エピネフリン、エフェドリンなど(心臓を刺激するお薬):作用が強まる。
- 鉄剤、アルミニウムを含む胃薬、コレスチラミン、ニューキノロン系の抗菌薬:レボチロキシンの吸収を妨げる。
- フェニトイン、サルファ剤、フェノバルビタールなど、ステロイド、クロミプラミン、プロプラノロール、ミトタン:レボチロキシンの血液中の量を下げる。
- ステロイド、エストロゲン、テストステロン:必要な量が変わる。
- 痛み止め(非ステロイド系)、ループ利尿剤、ACE阻害薬(心臓や腎臓のお薬):血液中でホルモンを運ぶたんぱく質を取り合い、ホルモンの働きに影響することがある。
- ジアゼパム(鎮静のお薬)、炭酸脱水酵素阻害薬:影響し合うことがある。
- ケタミン(麻酔のお薬):脈が速くなる、血圧が上がる。
低下症のお薬は、このように関わり合う他のお薬が多岐にわたります。新たな病気や症状によって、新しく何かお薬が必要な場合は、慎重に選んで差し上げてください。
また転院の際は、現在、過去に処方されているお薬情報を、転院先の先生にお伝えください。
お薬で変わる、検査の数値
お薬を飲み始めると、赤血球・血糖・ナトリウムが上がり、コレステロール・中性脂肪・総たんぱく・フルクトサミン・クレアチニン・ALPが下がることがあります(添付文書)。これは甲状腺ホルモンが足りてきたことによる変化で、多くは異常ではありません。
同居のワンちゃんのために
お薬を飲んでいる子のウンチを、ほかの子が食べて、甲状腺ホルモンが多すぎる状態になった例が報告されています。ウンチはすぐに片付けてください。液体や粉のお薬を混ぜたごはんも、ほかの子が食べないよう、食べ終わるまでそばで見守ってください。
こんなときは、急いでください
- 脈が速い、パンティングが続く、急に痩せる、水をがぶ飲みする:お薬が多すぎるサインかもしれません。
- ふらつく、震える、ぐったりする:低血糖発作に繋がるおそれがあります。糖尿病や、糖尿病が隠れていた子たちに起きやすいサインです。
- 呼吸が苦しそう、倒れた、意識がぼんやりしている:心疾患や、心疾患が隠れている子たちに起きるサインです。
こうした反応を見せる子たちは、急ぎ、かかりつけの先生にご連絡ください。
10. 食べ物から、甲状腺ホルモンが入ってくることがあります
ワンちゃんの甲状腺の病気には、ごはんが直接の原因になるものがあります。食事性甲状腺中毒症です。
しくみ
食材となる牛などの喉・食道・頭の肉を処理するときに、甲状腺を取り切れないと、肉に甲状腺が混ざります。それを食べることで、外から甲状腺ホルモンが入ってきます。甲状腺ホルモンは、胃酸でも、加熱でも壊れにくい物質です。こうしたことは、生肉だけでなく、ジャーキーや缶詰でも起きており、ドライフードやフリーズドライでも起こりうることです。
報告されているのは、ほとんどが牛などの肉です
これまでの報告で原因の肉が分かったものは、ほとんどが牛(ほかにバイソン・羊・鹿)の、喉や食道(ガレット)・頭の肉でした。ドイツでは、生肉や、生・乾燥の食道を食べていた12頭で、アメリカでは、肉だけのフードやジャーキー、缶詰を食べていた14頭・17頭で報告されています。日本でワンちゃんに起きたという報告は、今回調べた範囲では見つかっていませんが、我流の手作りごはんをなさっている方は、ぜひこのことを記憶に止めておいてください。
鶏の首肉は
鶏の甲状腺は、首の付け根(胸の入口)の、太い血管のそばにあります。牛、バイソン・羊・鹿、人やワンちゃん・ネコさんのように、喉のすぐ下にはありません。焼き鳥などで「せせり」と呼ばれる首の肉は、首の骨に沿った筋肉です。解体の途中で、首の骨から削ぎ取る肉のことを言います。
鶏の甲状腺と、せせりは、ある場所が違います。
症状と、戻り方
食べ物から偶然に甲状腺を食べてしまったときに起こるのは、ホルモンが出すぎる側の「食事性甲状腺中毒症」で、低下症ではありません。
- 落ち着きがない、パンティング
- 食べているのに痩せる
- 水をよく飲む、おしっこが増える
- 脈が速い
- 攻撃的になる
ただし、前述の研究の対象となった子たちのうち、半数は症状が無く、血液検査で偶然見つかっています。つまり、残りの半数の子たちは、この研究の対象でなければ、亢進症があることすら見つけられなかったことになります。それくらい、ワンちゃんと甲状腺の病気はデリケートなのです。
こうした子たちも、原因となる食べ物をやめると、おおむね1か月で数値が戻り、症状も消えます。
お家でできること
- 「喉」「食道」「ガレット」「頭肉」「気管」と書かれたおやつや生食は、中止していただく方が安心です。
- 新しいおやつやフードを始めたら、その日を記録しておく。上の症状が出たら、まず食べ物を思い出す。
- 甲状腺の検査を受けるときは、食べているおやつや生食も、すべて伝える。血液のT4がむしろ低く出た場合は、今までと違うものを選んでいないか、再確認しましょう。缶詰の中には、T4ではなくT3を多く含んでいたような例もあります。
11. ヨウ素の話 ― 足りなくても、多すぎても
ヨウ素は甲状腺ホルモンの材料です。けれど、多ければ良いというものではありません。

ワンちゃんでは、ヨウ素が足りなくても、多すぎても、同じ「低下症」になることが報告されています。
- 足りない:サプリメントを使わない偏った手作り食を続けていた子が、ヨウ素不足で甲状腺が腫れ、低下症になりました。ヨウ素を含むごはんに替えただけで、甲状腺のお薬を使わずに、2か月で数値が戻りました(1例の報告です)。
- 多すぎる:ヨウ素を多く含むフードを食べた子犬たちが、低下症になった報告があります。
米国のペットフードの基準(AAFCO)では、ワンちゃんのヨウ素は、乾物1kgあたり1.0mg以上、11mg以下とされています。この上限は、ワンちゃんでヨウ素が多すぎた研究をもとに決められています。
海藻やサプリメント
「甲状腺にはヨウ素」と、海藻やヨウ素を含むサプリメントを足しすぎると、かえって甲状腺を乱します。手作り食の子は、ヨウ素を含めたミネラルの設計を。すでに使っているものがあれば、ご自身の判断で急にやめず、ご相談ください。
12. ごはんの組み立て
特別な方法は、ありません
低下症のワンちゃんのごはんで大切なことは、2つだけです。
- その子に合った、必要最低限のレボチロキシンの量を探ること
- そのうえで、足りない栄養が無いように、ごはんを整えていくこと
低下症の症状は、ほかの病気でも起こります。症状を引き起こす余病を、ごはんから食い止めながら、付き合っていく。 それが、この病気との付き合い方だと、私たちは考えています。当たり前のことを粛々と続け、小さな体調の変化に気を配りながら、日々の対処を積み重ねることが重要です。特別な方法はありません。
言い換えると、レボチロキシンがあれば大丈夫、という病気ではないという意味で、ネコさんの甲状腺の病気と同じく、難しい病気だということを忘れないでください。
アクセルが弱い体です
甲状腺ホルモンが足りない体では、
- 熱を作る力が落ちる。
- 脂肪を燃やして処理する力が落ち、コレステロールや中性脂肪がたまる。
- 腸の動きが変わり、便秘や下痢になる。
- 皮膚と毛の生まれ変わりが遅くなり、守る力も落ちる。
お薬で補っても、体が本来の速さに戻るまでには時間がかかります。そのあいだの体を、ごはんで支えます。
甲状腺ホルモンの「材料」と「道具」
- 材料:ヨウ素と、たんぱく質のチロシン。
- 作る道具:ホルモンを作る酵素に、鉄が要る。
- 働く形に変える道具:T4をT3に作り替える酵素に、セレンが要る。
どれも、足りなくても、多すぎても良くありません。偏らず、まんべんなくが基本です。
脂肪を処理しやすく
低下症は脂質を処理しにくい病気です。コレステロールや中性脂肪が高い子では、脂肪の多いおやつやトッピングを控え、消化しやすいごはんに整えてください。食品酵素(いわゆる消化酵素)で消化を助け、消化の良い炭水化物や食物繊維で、腸の動きを支えます。ウンチがふっくらツヤツヤになるよう、量を調整してください。
皮膚と毛のために
皮膚と毛の生まれ変わりには、良質なたんぱく質、ビタミン、ミネラル、必須脂肪酸が欠かせません。お薬で補い始めてから、毛が生えそろうまでには数か月かかります。そのあいだも材料が足りているように、ごはんで支えてください。
ドッグフードだけでは、足りません
AAFCO栄養基準に準拠した総合栄養食は、健康なワンちゃんが不足しないための最低限の目安として作られています。しかも、加熱や加工で、熱に弱い栄養素が失われやすいです。健康なワンちゃんでも、それだけでは不十分ですから、低下症をはじめとした既往症がある子たちには、さらに不足栄養があると、私たちは考えています。
カルシウムを、不足させない
カルシウムが足りない状態が続けば、骨が弱くなり、骨折の原因にもなりえます。
- 骨を治すとき、体はカルシウムをたくさん使います。骨折させた若いワンちゃんの実験では、骨折の直後に血液中のカルシウムが下がり、骨が治っていく途中で、カルシウムを取り戻すための副甲状腺ホルモン(パラトルモン)が上がりました。
- ステロイドは、腸からのカルシウムの吸収を減らし、オシッコに出ていく量を増やします。フロセミドなどの利尿剤(ループ利尿薬)も、カルシウムを出ていきやすくします。
- 手作り食や生食は、カルシウムとリンが偏りやすいことが確かめられています。生食の配合を調べた研究では、1割がカルシウムの推奨量の4分の1にも届いていませんでした。
- お肉のおやつは、カルシウムが少なく、リンが多いと言われています。
カルシウムは、元来、体内で大量に消費されるミネラルです。と同時に、マグネシウムなどと一緒に、本来の働きを発揮できる形で摂ることが大切です。こんなふうに大切なカルシウムですから、これを有効に働かせるためにも、カルシウムのサプリメントはレボチロキシンと時間をずらして与えてください(第9章)。なお、副甲状腺ホルモン(パラトルモン)については、ネコさんの甲状腺のページでご説明しています。
体重のこと
太ってきたからと、ごはんの量だけを急に減らすと、低下症のからだを支えるための栄養まで足りなくなります。まず中身を整え、それから量を見直してください。お薬で代謝が戻ってくると、体重は落ちやすくなります。月に1度の体重測定で、減りすぎていないかも見てください。
水のこと
低下症は、水を失う病気ではありません。ただ、シニアの子は、もともと脱水ぎみのお年頃です。新鮮なお水をいつでも飲めるようにし、腎臓の病気や糖尿病、吐く・下痢があるときは、水分のとり方を別に考えてください(第7章)。
13. 暮らしの中の見直し
第4章でお伝えした化学物質は、毎日の暮らしの中にあります。
甲状腺の病気との直接の関わりが、まだ確かめられていないものもあります。けれども、その不要な化学物質は、心臓にも肺にも、血液にもリンパにも流れ込むことになります。また、体に入った化学物質を処理するのは、肝臓と腎臓です。からだは1つです。 甲状腺だけを切り離して考えることはできません。

化学物質を減らせば低下症を防ぐことができることを確かめた研究はありません。けれども、本来、体の中にあってはいけない物質ですから、炎症の元になるのは確かです。そして、この炎症を鎮めるために、からだは様々な機能を動員しなければなりません。けれども、低下症の子たちは、この「機能の動員」が難しい病気なのです。化学物質を減らすことは、肝臓や腎臓だけでなく、皮膚、肺や心臓、胃腸への負担も減らし、全身の炎症を軽くすること、つまり、低下症の子たちのQOLを上げることにつながります。
ほこり
難燃剤は、ほこりに多く含まれています。ワンちゃんは床に近いところで暮らし、吸い込んで、あるいは付着した体や足をなめてしまいます。ほこりは、こまめに取り除き、お散歩のあとは足や体を拭いてあげてください。
フードの容器
缶の内側には、さびを防ぐ塗装がしてあります。その塗装から、ビスフェノールA(BPA)という物質が、中身に移ることがあります。ワンちゃんでも、缶のごはんを食べ続けると、血液中のBPAが上がったという研究があります。「BPA不使用」とあっても、よく似た別の物質が使われていることがあります。ドッグフードの各メーカーは、採用する缶の素材にまで十分に配慮されているでしょうけれども、缶の製造メーカーではありません。残念ながら、人の食品用の缶でも、今もBPAの問題がゼロになったわけではありません。
だからといって、お気に入りのごはんを取り上げることは、病気を抱える子にとっても、お世話係の私たちにとっても、大きな負担になります。さらに申し上げると、ビスフェノールA(BPA)の取り込みは、缶詰に限ったわけではありません。プラスチック製品などのように、私たちの日常生活と切り離せないものにも含まれています。こうしたBPAの問題は、たとえば、食材に残留する農薬と同じように、不可抗力として受け入れるべき物質なのかもしれません。だからこそ、毎日の解毒が必要なのです。私たちが基本のサプリメントをおすすめする理由の1つも、ここにあります。
香り
柔軟剤や芳香剤、消臭スプレーなどの強い香りで、頭痛や吐き気などの体調不良を訴える人がいます。「香害」と呼ばれ、国の5つの省庁が、そろって配慮を呼びかけています。香りの強い柔軟剤を多めに使うと、においの強さはそれほど変わらないのに、空気中の揮発性の化学物質は大きく増えたという試験もあります。
人にこれだけの害が出ているものを、鼻の利くワンちゃんは、床に近いところで、毎日吸い続けることになります。精油(アロマオイル)は、なめたり肌に付いたりすると、ワンちゃんに中毒を起こすことも知られています。こうした物質は、自然に消えてなくなるものではありません。使用期間が長いほど、お部屋の中にたくさん有ると思ってください。ワンちゃんの暮らす部屋では、香りの強い製品やアロマは控えてください。
オゾンの「除菌」「脱臭」
家庭用のオゾン発生器は、普通の広さの部屋で30分動かしただけで、働く人が1日吸い続けてよい上限の最大10倍になり、止めても数時間残るものがありました(国民生活センターの試験)。オゾンは、菌やウイルスを殺すことで、その力が知られています。ならば、大げさな解釈かもしれませんが、鼻やのど、肺の細胞も殺されるかもしれません。とは言え、頭痛や目・鼻の痛みを感じる人は、少なからずいらっしゃいます。つまり、オゾンは、鼻やのど、肺を刺激します。空気をきれいにするつもりの機械が、ワンちゃんの呼吸を苦しめることがあるのです。
窓から入ってくるもの
窓を開けていると、室内のPM2.5は屋外とほぼ同じ濃さになります。花粉や排気ガスも入ってきます。一方で、部屋にこもった化学物質を減らすには、換気が欠かせません。
- 外の空気が悪い日や、花粉の多い時間は避ける。しっかり換気したいときは、深夜や雨の日を選ぶ。
- エアコンや空気清浄機は、オゾンを出さないタイプを選ぶ。
- お散歩は、交通量の多い道や、排気ガスのこもる時間帯を避ける。
窓から入ってくる物質によって起きる炎症を鎮めるために、からだは様々な機能を動員しなければなりません。けれども、低下症の子たちは、この「機能の動員」が難しい病気だということを覚えておいてください。
暖房
ガス・灯油・薪の暖房は避けてください。 燃焼で出る物質を、室内で吸い込み続けることになります。低下症の子は寒がりです。床暖房や、ペット用の暖房マットなど、空気を汚さない方法で温めてあげてください(低温やけどに注意)。
季節と空気
人では、大気の汚れがひどいほど、甲状腺ホルモン(FT4)が低いという報告が、多くの国から出ています。ワンちゃんで調べた研究はまだありませんが、待っていても出てくることはありません。人に影響があるくらいですから、ワンちゃんにあっても不思議ではありません。けれど、FT4が下がれば、同じ量のお薬でも効きが悪く見えることは、第8章でお伝えしたとおりです。
より正確な結果を得るためにも、検査を受ける日は、空気のきれいな、気圧の安定した日を選んでください。
むすび
甲状腺機能低下症は、甲状腺だけの病気ではありません。
元気が落ち、寒がり、太り、毛が抜け、皮膚や耳を繰り返し傷める。心臓はゆっくりになり、脂肪は処理しきれず、腎臓のろ過も落ちる。どれも、体の中のアクセルが弱くなっているサインです。
そして、この病気は、ほかの病気やお薬でも、よく似た姿を見せます。「年のせい」と見過ごさず、「甲状腺のせい」と決めつけず、飲んでいるお薬と、ほかの病気と、この子の毎日の様子を、一緒に見てください。
甲状腺のお薬は、足りないホルモンを補う大切なお薬です。けれど、お薬だけでは支えきれません。必要最低限のお薬と、アクセルの弱い体に見合う栄養、そして化学物質の少ない暮らし。 それを整えるのは、毎日そばにいる飼い主さんです。
特別な方法はありません。小さな変化に気づき、1つ1つ、対処を積み重ねていきましょう。お迷いの際は、ご遠慮なくお声がけください。
すべては、あなたのシッポちゃんのために。
甲状腺のためのサプリ・フード
毎日のごはんに合わせる、基本の栄養補助食品。アルティジャーノ液体酵素
液体タイプの栄養補助食品。NinnaNannaDelica/NMN原末
毎日の食事に、少しずつ。MSM
健やかな体作りに。ルンブルQ
血液と血管のために。MRN-100 高機能π(パイ)ウォーター
毎日の水分に。タヒボNFD(健康茶)
NinnaNannaの健康茶。
これらは治療薬ではなく、獣医さんの治療に代わるものではありません。持病があったり、治療中のお薬がある場合は、原材料と使い方をご確認のうえ、かかりつけの先生にもご相談ください。
*NinnaNanna(ニンナナンナ)では、シッポを持つ家族の総称としてシッポちゃんと呼びます。
また 犬 をワンちゃん、猫 をネコさんと敬意を以て表現しています。
















